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古道具屋の男

赤い薄手のコートが風になびいて、黒いパンツスーツが見え隠れする。

年はジェイドと同じか少し上。

凛とした表情の大人の女性で、店主とは違った種類の落ち着きを持っている。


「私はファエナ。探偵だ。ここで起きた殺人事件について調べている」

「探偵か……」

「で、お前たちは何者だ」


僕はジェイドと顔を見合わせた。

目の前の探偵を名乗る女性を信じていいのかわからない。


「俺たちは友人を探してるんだ。友人はこの事件と何か関係があるみたいでな。何か手がかりがないかと思ってここに来たんだ」

「探してる店主はこの事件の犯人なのよ!」

「ちょっとメリンダ! まだ決まったわけじゃないよ」

「違うんです、ちょっとその、別に犯人だと思っているわけではなくて、可能性というか」


なぜか少し誇らしげにファエナに伝えるメリンダの口を塞ぎ、僕は必死に訂正する。何が悪いのかというメリンダの訴えを僕は全力で無視した。


「ふむ。そのいなくなった店主とやらは何の店をやっているんだ? 憲兵が容疑者と見込んでいる男と同じ人物だろうか」

「容疑者がわかっているのか」


ジェイドの問いにファエナは目を動かさずに口元だけ笑みを浮かべた。


「古道具屋の男だ」

「えっ!」


僕たちの声が揃う。

古道具屋の男と聞いて脳裏に浮かぶのは、昨日店にやってきたあの男のことだ。


「そいつはどこにいる!?」

「その人のところに店主がいるかもしれないんだ」

「なんだ、お前たちも彼を知っているのか。ただな、私は彼がそんなことをするような人物には見えないんだ」


ファエナは地面に視線を落とした。証拠となる何かがそこにあると思っているような鋭い目つきだった。

真っ先に反論したのはジェイドだった。

それにミランダが続く。


「どこがだよ、あいつすっげぇ物騒な空気まとってるじゃないか」

「人殺すくらいなんてことないって顔してたわね」


無表情に近いファエナの表情がほんの少し曇った。


「ふむ。人を見る目があると思っていたが、私の勘違いか?」


大きな花火の音が聞こえた。

祭りがフィナーレを迎えようとしていた。

傾きはじめた日の光が、路地に長い影を落とす。


「じゃあなんでお前はその男が容疑者じゃないって思うんだ?」

「そんなの簡単だ。被害者の雑誌記者はこの場所で腹を刺されたあとここで倒れた」


歩きながら刺された場所と倒れた場所を移動して犯行現場を示す。

その距離は大人の足で10歩ほど。


「それなのに、発見された場所はここだった」


ファエナはさらに路地の奥に移動した。


「つまり犯人はより発見を遅らせるために、路地の奥まで被害者を運んだことになる。中肉中背とはいえ気を失った成人男性だ。あの小柄な老人にそれができるとは思えない」

「ん? 小柄な老人?」


確かに若くはなかったが、老人というほどではなかった。しかもどちらかといえばしっかりした体格だったような気がする。


「それに彼はとても温厚で物静かな性格だ。誰かを怒らせたことなど見たことがない」

「こないだあいつを死ぬほど怒らせてたぞ?」

「お前たちは一体誰の話をしているんだ?」


怪訝な顔をして顔を傾けたファエナに、ジェイドはお前こそ、と同じく怪訝な顔を向ける。


「ふむ。どうやら私たちが考えている古道具屋の男は別人のようだな」


古道具屋と聞いて僕たちはてっきりあの男だと思い込んだが、たしかに世界中に古道具屋は存在する。僕たちの早合点だったかもしれない。

しかし僕にはもう一人、古道具屋の男に心当たりがあった。


「もしかして、その人は足が悪いんじゃない?」


ファエナはおもしろいものでも見るように眼鏡をあげ、ふむ、と言った。


「なぜだ?」

「僕、その人のこと知ってる」


そうなのかとジェイドが僕を振り返る。多分ミランダとメリンダも知ってるはずだけどとふたりを窺ったが、ふたりは何も知らない顔をして首を傾げた。


「その人、ときどき店に来てたんだ。遺失物を引き取りに。店主とは必要なこと以外喋ってはなかったと思うけど」

「ちょっと待て、いま遺失物と言ったか?」


僕が頷くと、ファエナが「なんてことだ」と頭を抱えてぶつぶつと何かをつぶやきだした。

考えを整理するときの癖なのかしばらくあちこち歩き回ったあと、突然足を止めた。


「よし分かった。その古道具屋の住所を教えよう。一度彼に会ってみるといい」


ファエナは懐から取り出した紙にさらさらと住所を書いていく。

書き終えた彼女がジェイドに渡したその紙がひらひらと風に揺れる。

それを指先でとらえながらジェイドがふと口を開いた。


「お前、何か知ってるんだろう?」

「……探偵には守秘義務というものがある」

「住所はくれんのに?」


矛盾を突かれ一瞬ファエナが動揺する。

だが彼女も伊達に探偵業をやっていないのだろう。

すぐに落ち着き払った表情に戻ると、赤い唇をきゅっと上げた。


「お前たちの人探しは、こちらで持っている案件と少し関係するのでな。情報提供する代わりにお前たちを利用させてもらう」


それに、と彼女は続ける。


「彼は私の友人でもある。お前たちに会うことで容疑が晴らせるかもしれん」


ファエナはくいっと眼鏡を上げた。


「私の助手も向かわせよう。現地で合流するといい」


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