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休日パパ

「なーんか違う気がするんだよなぁ」


道の真ん中で、ジェイドが腑に落ちない顔でつぶやいた。

その右手はミランダ、左手はメリンダの手と繋がれている。

一見すると休みの日に子供たちを連れて遊びに来たお父さんだ。


「かわいいね、お嬢ちゃんたち。キャンディーあるよ」


見た目だけは可愛らしい双子だからとても目立っていて、物売りの屋台の人にしょっちゅう声をかけられる。


「きれい……」

「ほしい……」

「じゃあ、パパに買ってもらって」


商売上手なおじさんが完全に勘違いしている。

ふたりはジェイドの手を引っ張って上目づかいでジェイドを見上げた。


「パパ、あれ食べたい」

「誰がパパだっ!」


ジェイドが大きなため息を吐いた。


「これじゃああいつの手掛かりを探しに来たってよりも、ただの観光客じゃねぇか!」


何かのお祭りの期間中らしく、街の中は人通りがとても多くにぎわっていた。

道のあちこちには屋台が立ち並び、美味しそうな食べ物や珍しい外国の品がずらりと取り揃えられ、売り子が声を張って呼び込みをしている。


普段は立ち入れないような高級な街だと聞いていたが、祭りだからかそんなこともなく身分にかかわらず祭りの雰囲気をみんな楽しんでいる。


「お父さん、お子さんたちにコインはいかが? 記念になるよ」


金色の記念コインを売っている女性が声をかけてくる。


「ほしい!」

「記念!」

「いらねぇって。つか父親じゃねぇし。何に使うんだよこんなもん。記念って何の記念だ。せめて食いもんにしろよ、もったいねぇ」


あまりの言い草に、コイン屋の女性とふたりに白い目で見られる。

ジェイドはそれを見て目を泳がせる。


「……ったく、あいつが帰ってきたら全部請求してやる」


ぶつぶつ言いながら結局買ってあげていた。

その姿はまるで本物の父親のようだった。


誘惑の多い屋台どおりを抜けると、中央に広場があった。

広場の中央では賑やかな音楽とともに女性たちのダンスや奇術師のパフォーマンスなどが行われていた。

それを囲むように人だかりができている。


「バルムンク、お前もはぐれるんじゃないぞ」

「でもこんなに人が多いんじゃ、手掛かりなんて見つかるのかな」

「考えてもしかたねぇよ」


ミランダとメリンダは興味のあるところにすぐに勝手に行ってしまうから、はぐれないようにしっかりと手を握っている。

ぶつかりそうになる人の肩をよけて僕はジェイドの後を追う。


賑やかな笑い声とどこからか聞こえる音楽、たくさんの人の波。


「ま、まって!」


あっという間にジェイドを見失う。


しまった。

こんなところではぐれたらきっと見つけられない。

頭の中でミランダとメリンダの声を辿ってみるけど、周りがうるさくて何も聞こえない。


「どうしよう……」


僕はそのまま人をよけるように進み、道の端に座り込んだ。

子供の姿をしていても、中身は子供じゃない。

いざとなれば店に一人で帰ることもできる。

だから大丈夫なはずなのに、気分が沈む。


街を行く人々はみんな楽しそうで、暗い顔をしている人なんて一人もいない。

店主と一緒だったら。そう考えて僕は頭を振る。

そもそも店主はひとごみが嫌いだ。こんなところには来るはずもないし、無理やり連れてきたとしても、こんなふうに道の端で珈琲を飲んでいるに違いない。


想像してみて、僕は少しおかしくなった。


「いたわ!」

「探したのよ、バル」


ミランダとメリンダ、それにジェイドが目の前に現れた。

はぐれてからそんなに時間は経っていない。

探したというわりに、その手にはキャンディーがしっかりと握られている。


「ほら、お前の分」


ジェイドが棒の付いた大きなキャンディーを僕に差し出した。


「……ありがとう」


子供じゃないんだけどな。

でもなんだか嬉しかった。


「またはぐれたらいけないから、ここに乗れ」

「……いいよ、子供じゃないんだし」

「いいから」

「えぇ……」


僕はジェイドに肩車をされた。

すごく不本意だがしかたがない。

道行く人々よりも頭一つ分視線が上にあるから、街の景色がよく見える。

レンガ造りの大きな建物はすべてよく手入れされていて、普段の高級さが垣間見えた。

祭りを楽しむ人々の中には、変装こそしているがいかにも高貴な雰囲気を纏う貴族のような人も混ざっていて、本当にたくさんの人に愛されている祭りなのだとわかる。


人の波をすり抜けて路地裏に入った。

そこは、古本屋や道具屋がひっそりと並ぶ静かな通りだった。

祭りには参加していないのかほとんど人の姿はなく、表通りの喧騒が遠くに聞こえる。


エッジが店主を見たというのはその通りからさらに裏に入った場所。


「ここか?」


一見して何の店かわからない店の角に、狭い通りがある。

道というより、建物と建物の隙間といった方が正しいかもしれない。


隙間を抜けた先、建物の裏の部分に狭い通路があった。

人が通るには不自然な場所。

猫などの小動物が好んで通りそうな狭さだ。

表通りには甘い匂いが漂っていたが、ここは砂埃とじめじめした空気で覆われている。



そんな場所に、先客がいた。



赤いコートを着た、すらりとした眼鏡をかけた女性。

地面に顔を近づけ、何かを熱心に覗き込んでいた。

足音に気づいたのか顔を上げ冷淡な表情でこちらを振り返る。

彼女は僕たちを見るなり口を開いた。


「お前たちの尋ね人はここにはいない。他を当たれ」

「……なんで俺たちが人探しをしているって知ってるんだ?」


警戒するような、低いジェイドの声が路地に落ちる。

店主を探していることはここにいる僕たちしか知らないことだ。

それなのに、当然のように言い切った彼女は何者だろう。


彼女は馬鹿にするように鼻で笑うと、僕たちを指さした。


「おおかた仕事ばかりで家庭を顧みず、妻に逃げられたのだろう? お前の妻はたった一人で3人の子どもを抱えて大変だっただろうな」

「ちげーって!」

「なんだ、違うのか」


いまのジェイドの姿は、両手に双子、肩に僕。

しかも祭りではなくこんな路地裏にやってきたのだから、子連れで妻を探しに来た亭主に見えても不思議ではない。

ジェイドが否定するとあっさりと頷き、再び地面に視線を戻す。


なんだかいたたまれなくなって、僕はジェイドの肩からのそのそと降りた。


「人を探してるのはその通りだがな。その前に、ここで起きた事件について調べてるんだ。あんた、なんか知ってんだろ?」

「根拠は」

「賑やかな祭りの最中にこんなところで地面を調べてるなんて、憲兵か、あるいは……」


振り向いた彼女の、赤い口紅が塗られた唇の端がきゅっと上がった。

挑発するように眼鏡が反射して光る。


「犯人?」

「には見えないけどな」

「ふむ。人を見る目があるようだ」


彼女はゆっくりと立ち上がった。


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