必要なのは気合と根性
まずはジェイドに事情を話して店主探しに協力してもらいたいと思ったのだ。
ジェイドがいつ店に来るかわからないから、行き違いにならないように双剣は店で留守番をしている。
店主のように魔法で依頼を出すことはできないので、僕ははじめて冒険者ギルドを訪れたのだ。
ジェイドが拠点にしていると言っていた国にあるそのギルドは、木造2階建ての小さな建物だった。
中に入ると正面には手続き用の窓口があり、5人ほどの職員が対応に当たっている。
右側の壁一面には、たくさんの紙が貼られていてそれを囲むようにいかつい冒険者たちが集まっている。
依頼内容が書かれた紙は難易度か、あるいは報酬ごとに色が違うのか、青色は奪い合いになり、逆に赤色は手つかずのまま残っている。
そこまで広くないギルドのあちこちで、がたいのいい男たちが大きな声で笑ったり揉めたりしていた。
ギルド職員も冒険者と見間違うほどに体格が良く、小競り合いを一喝して収めてしまうほどの迫力がある。
僕もかつて冒険者とともに過ごしていたのだけれど、なんだか圧倒されてしまう。
僕が声をかけたのはそんなギルド職員の中でも優しそうな女性の職員だった。
冒険者ギルドには似つかわしくないほどふんわりとした空気をまとっていて、花のような可愛らしい人だ。
「こんにちは! こんなところにひとりでどうしたのかな?」
僕に目線を合わせてにっこりと微笑む。
「あ、あの。指名依頼をお願いしたくて……」
「指名依頼? 君ひとりで?」
「だめですか?」
「だめじゃないけど」
子供にしか見えない僕が一人でこんなところに来たことを不審に思ったのか、女性は心配そうに眉をよせた。
よかった、本当に優しい人みたいだ。
僕はほっと力を抜いた。
「あのね、依頼するときはお金も必要なの。お金は持ってるかな?」
「はい、お金ならあります」
懐から袋を取り出すと、それを女性に差し出した。
カフェの売上金をすべて持ってきたのだ。
依頼料がいくらかかるのか知らないが、きっとこれだけあれば足りるはずだ。
女性はそれを手に取ると、中を覗いてはっと息をのんだ。
すぐに中から一枚だけコインを取り出すと、小さな声で「早くしまって」と囁いた。
何かまずかっただろうかと女性を見たが、後ろから伸びてきた大きな手がその袋を掴んだ。
「おいおい。このガキ、大金持ってんじゃねえか」
振り返ると、ここにいる冒険者の中でも特にガラの悪い男がにやにやと見下ろしていた。
「か、返して!」
「金持ちのガキには見えねえし、どっかで盗みでも働いてきたんじゃねえの?」
いつの間にか周囲には人だかりができていて、同じくガラの悪そうな男たちが僕を取り囲んでいた。
「盗みなんてしてないよ! 返してってば!」
「お前みたいなチビが俺たちに依頼をだそうだなんてなあ」
「どんな依頼か知らねえが、その依頼俺が受けてやるよ。その代わり、報酬は高くつくぜ」
ぎゃははと下品な笑い声が響く。
冒険者にもいくつか種類があって、冒険者になりたくてなった者と、冒険者以外選べなかった者の大きく二つに分けられる。
後者はならず者のような人たちで、街の困りごとの種になることも多い。
厄介な人たちに目をつけられてしまったみたいだ。
どうしよう……。
そう思ったその時だった。
「お前らふざけるのも大概にしろよ」
すぐそばから、地を這うような低く威圧感のある声が聞こえた。
振り返ると、優しそうだった女性職員の顔が魔物のような形相に変わっていた。
ひぃっと息をのんで男たちがすくみ上る。
女性職員が窓口からゆっくりと歩み出る。
小柄で華奢なとてもきれいな人だが、纏うオーラがただものではない。
「返せ」
「は、はい! 返します!」
たったのその一言で、僕のもとにお金が入った袋が戻ってきた。
「謝罪は?」
「え」
「ご・め・ん・な・さ・いはぁ!?」
「はいぃ! 悪かったな、ボウズ。許してくれ、このとおりだ」
地面につきそうなほど勢いよく頭を下げる。
「ううん、僕は戻ってくればそれでいいから」
僕としてはお金を返してくれればそれでいいので、それ以上は追及しなかった。
だが女性職員がなおも低い声で叫んだ。
しかもなぜか僕に向かって。
「いいわけないだろうがっ!」
「えっ!?」
突然の大声に、思わず身体がびくっとなる。
「こんな奴らをのさばらせてたらな、冒険者ギルドの名折れじゃボケっ!」
どこから持ってきたのか、太い木の棒を自分の手のひらにぱしん、ぱしんと叩きつけながら男たちを睨みつける。
その姿は、彼らよりよほどならず者に見えた。
「次やったらしばくぞ、コラ!」
そう言いながら彼女は次々と男たちを棒で滅多打ちにした。
その棒には「根性」と書かれている。
「ルーシーちゃん、俺たちが悪かった!」
「もうしないから許してルーシーちゃぁぁん!」
その名前にどこか聞き覚えがあった。
トラウマを見せるダンジョンに行ったときにジェイドがその名前を叫んでいた気がするのだが、……きっと気のせいだ。
ルーシーちゃんは男たちを追い払うと、いい運動をしたとばかりにさわやかに額の汗を拭ってふふっと笑った。
「ごめんね、怖い冒険者にからまれちゃったね」
一番怖いのはあなたですとは口が裂けても言えない。
「それで、指名依頼だっけ?」
すっかり元の優しそうな表情に戻ったルーシーちゃんが僕に笑いかけた。
冒険者ギルドはすごく怖いところだと僕は思った。
「おいおい何の騒ぎだ、いったい?」
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。




