探しに行こう
「何これ」
ミランダとメリンダが小さくつぶやいた。
その声が心細く聞こえる。
ふたりは、『閉業』と書かれた文字を穴が開くほど見つめている。
「中に入ろう」
青ざめたふたりの手を引いて店に戻ると、僕はキッチンに立った。
店主がしていたみたいに、ふたりに甘い珈琲を淹れようと思ったのだ。
お湯を沸かそうとして、僕は自分の手も同じように震えていることに気づいた。
店主がいない遺失物センターは、灯りが消えてしまったように暗く、とても寒く感じる。
ポットを置いて、冷たくなった手を握りしめる。
ふと、シンクの横にマグカップが置かれているのに気が付いた。
店主が愛用しているカップだった。
それが一つだけ、洗って伏せられていた。
きっと店主は一晩中この椅子に座り、一人で珈琲を飲んでいたのだろう。
どんな気持ちで、何を考えていたのか想像すると涙が出そうだった。
「ねえ、バル。どうして店主はいなくなったの?」
「どこに行ったのかしら」
「……わからないよ」
ふたりは肩をぴたりと寄せあっている。
怖いときや不安な時はいつもそうするのだ。
答えを求めるように、ふたりの目が僕に向けられる。
でも僕には答えるすべがない。
「壁に穴をあけちゃったの、怒ってるのかしら」
「バル。私たち、捨てられちゃったの……?」
「これからどうしたらいいの?」
「ねえ、バル」
「そんなの僕だってわからないよ!」
気が付いたら叫んでいた。
びくりとふたりが肩を震わせる。
「僕だって知りたいよ! 店主がどこにいるのか、何で黙っていなくなっちゃったのか! 何かに巻き込まれてないかとか、危険な目にあっていないかとか…………」
言い終わる前に声が震えだし、それ以上言葉にならなかった。
僕たちはしょせんモノだ。
持ち主がいなくなれば、僕たちにはどうすることもできない。
「……ごめん、大きな声を出すつもりはなかったんだ」
混乱が悲しみに塗り替えられていく。僕はどうすることもできなくて床に座り込んだ。
「許さない……」
「え?」
「ええ、絶対に!」
ミランダとメリンダの、激しい怒りを含んだ声が聞こえた。
ゆるゆると立ち上がってふたりを覗う。
大声を出したのが気に触ったのかもしれない。
もう一度謝ろうとしたが、ふたりはどこか別のところを見ていた。
僕ではなく店主に腹を立てているようだった。
顔を赤くして、小さなこぶしを握りしめている。
「勝手に出ていくなんてひどいわ!」
「何かあったにしても、一言いうのが礼儀だと思うのよ!」
「そんなに私たちが頼りなく見えたのかしら?」
「心外よ! 店主の敵なら私たちがみんな引き裂いてやるのに!」
なんだかふたりの怒った顔に、僕は心強くなった。
モノだからといって諦めるんじゃなくて、怒ってもいいんだ。
一緒にいたいと、置いていかないでと叫んでもいいんだ。
「絶対に連れ戻して、この怒りをぶつけてやらなきゃ気が済まないわ!」
ミランダが語気荒く、小さなこぶしでテーブルを叩いた。
「ええ、私たちを置いていったこと、後悔させてやるんだから」
メリンダも同じようにテーブルを叩いて立ち上がると、迷いのないまっすぐな瞳で僕を見つめた。
「行くわよ、バル」
「店主を探しに!」
僕は大きく頷いた。
「うん!」
◇◇◇
「ここかな……」
僕は一人で、冒険者ギルドを訪れていた。




