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人間は苦手なんです① ジェイドの大工仕事

『逆行する草原』に行ってから数日後、留守番中に双剣があけた店の穴を修理するためにジェイドが道具をもってやってきていた。


穴の形は明らかに魔法によるものだったし、僕も店主も、さすがに双剣が壁に穴をあけるはずないと思っているが、彼女たちが口を割らないので誰がやったことなのかはわからない。


「ちょっとここ、押さえててくれ」


片刃ののこぎりで、器用に穴を四角く切り取っていく。

双剣にいつも脳筋と言われているジェイドだが、力だけが取り柄というわけではない。

基本的に武器や道具の扱いがうまい。

道具に合わせて力の使い分けができるのだ。

普段長い剣を使っているのに、リーチの短い双剣を完璧に使いこなせるのは、道具に対する理解が直感的に出来るからだろう。


「ほらよ」


周囲を四角く切り取られた穴が、個性的な額縁のような姿になる。

それを受け取ったミランダとメリンダがしげしげと眺める。


「これ記念に壁に飾ろうかしら」

「いいわね」


高いところには手が届かないふたりが店主にそれを手渡して飾りたい場所を指示する。

よくわからない手のひら大の穴があいただけの木枠を困惑した様子で受け取った店主は、それでもふたりに駄目だとは言わない。


「いいですけど……何の記念ですか?」

「……パフェ?」

「そんなに食べたかったんですね。今度、ちゃんとしたものを作ってあげますよ」

「本当!? じゃあ私、これも食べてみたいわ」


彼女たちはすぐに雑誌を取り出して他の食べ物も指さす。

なかには食べ物ではないものもあったが、店主はそれを楽しそうに聞いている。


僕はジェイドを手伝いながらそれを眺めた。

そして小声でジェイドに訊ねる。


「常連のおじさんのこと、どうなったの?」

「あ? あぁ……」


さりげなく振り返り店主に視線を向け、それから声を潜めてジェイドが僕の耳に近づく。


「詳しくは知らないが、まだ犯人は見つかってないらしい」

「そうなんだ」

「なぁ、最近あいつに変わったこととかなかったか?」


変わったこと。

僕は最近の店主の様子を思い出す。

だが店主は普段から自分のことを話すタイプではないし、目に見えて不審な行動があったわけでもない。


「特にはないと思う」

「例の遺失物のことは?」


ジェイドが切り取った四角い穴の大きさに合わせて木材を切り出す。

のこぎりの刃が行ったり来たりするたびに木くずが落ちる。

僕は木材を押さえて固定しながらそれを見ていた。


例の遺失物とは、呪符の貼られた遺失物のことだ。

その呪符により一時的に魔力を失った店主は、その遺失物が意図的に店主を狙ったものだと確信していたようだった。


「それも特には。そもそも店主は自分から話をするタイプじゃないから。それになんか聞きにくくて」

「まあな。お前ここに来て何年になる?」

「え、何年だろう」


僕は剣だから、人間のように年月を気にして数えたりはしない。

それにこの不思議な空間にある遺失物センターは、ずっと昔からそこにあるような普遍的なたたずまいをしている。

店主も時間を気にすることはないから考えたこともなかった。


「俺はあいつと出会って3年になる。最初はろくに口もきいてもらえなかった」

「そうなの? ……じゃあ、僕は5年くらいかな」

「お前の方が後から来なかったか?」

「違うよ。僕はしばらくあそこで眠ってたから」


カウンター奥の扉に目を向ける。

そこには封印された遺失物が眠る倉庫がある。

店主にダンジョンで拾われてからしばらく、僕はそこで封印されていたのだ。

正直、当時のことは記憶にもやがかかったようであまり覚えていない。

だけど真っ暗なダンジョンの中で、店主が優しく僕を拾い上げてくれたことは覚えている。


「待たせてしまってすみません。さあ、一緒に帰りましょう」


そう微笑んだ店主の言葉に、僕は心の底からほっとしたのだ。



「なんにせよあいつはなぁ、何考えてんのかよくわかんねぇからな」

「楽しそうですね、何の話ですか」


いつの間にか背後に立っていた店主に、僕とジェイドはびくりと肩を震わせた。


「なんでもねえ。つかお前気配消して近づいてくんなよ、怖えから」

「そうですか? 怖がらせるつもりはなかったんですが」


カウンターの奥の壁には先ほどの木枠が飾られていて、満足そうに双剣がそれを眺めている。



壁の修理は終わり、穴は完全に塞がった。

他とは少し色の違うその壁に、ほんの少しだけ感慨を覚える。

少しも変わらないようなこの場所も、少しずつこうやって変化していく。

人も変化し、場所も時代も変わっていく。


ジェイドがカウンターで酒を飲み、店主が双剣に甘い珈琲を出している。


「バルムンクも珈琲飲みませんか?」


店主が僕に微笑む。

こんな時間が永遠に続けばいいのにと僕は思った。



店の前の魔法陣が青く光った。


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