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双剣のおるすばん② 意地悪な遺失物

ふたりは店を出ると、声のする方に向かった。

足元に、魔石が落ちていた。

拾い上げることもせずにふたりは魔石を冷たく見下ろした。


「あなた何?」

「いま私たちのこと馬鹿にしたわね?」


魔石はダンジョンから吐き出されてきた遺失物だった。

誰も取りに来ない遺失物はダンジョンの自浄作用によって排出され、こうして遺失物センターにやってくる。


剣呑な光を放つ瞳で睨みつけるふたりに、魔石はなおも馬鹿にしたように声を上げて笑った。


「だって、こんな簡単なことも知らないなんて。馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだよ」


ふたりが顔を見合わせる。


「ミランダ」

「ええ、メリンダ」


そして勢いよく魔石を踏んづけた。


「いててて! 何するんだよ!」

「そういえば、いまごろ店主たちどうしてるかしら」

「やっぱり私たちもついて行けばよかったわ」

「おい、聞けって! 踏むなって!」


聞こえないふりをしてなおもぐりぐりと踏みつける彼女たちに、魔石が大声で叫ぶ。

だが一向にやめる気配はない。

彼女たちは馬鹿にされることがなによりも嫌いなのだ。


「くそっ、いい加減にしろよ……!」


魔石が内側から湧き出るように光りはじめた。

反射的にふたりは足を離して飛びのく。

魔石から放たれた白い光がふたりめがけて飛んでくる。

咄嗟に避けたが光は店に当たり、店の外壁に手のひらほどの穴をあけた。

穴の周辺には氷の粒がついている。


「氷魔法……」

「あなた魔石単体で魔法が使えるの?」

「はっ! やっぱり馬鹿じゃねえか。無知にもほどがあるだろ」

「なんですって?」

「お前ら人間の格好をしているけど、本体はただのモノだろ? 剣か何かか?」

「だからなによ」

「魔法で実体化してるんだろうが、俺は魔石だからな。お前らの魔力を吸い取ってただの剣に戻すことだってできるんだぜ」


魔石がわざと煽るようにけらけらと笑った。


「どうせ誰にも使われることなく、どっかで引きこもってた剣なんだろ? 魔石の能力も、パフェも、何にも知らないもんな」


ガキの相手は疲れると大袈裟にため息をつき、威嚇するようにじわじわと地面を凍らせていく。


「たかが魔石のくせに、私たちを馬鹿にするなんていい度胸じゃない」


彼女たちの顔には、明確な怒りが浮かんでいた。

そのプライドによって人間と関わらず、ふたりだけの世界で生きてきたから彼女たちが無知なのは本当のことだ。

知る必要もないと思っていたし、知りたいとも思わなかった。

そんな彼女たちが変わったのは、店主に出会ってからだった。

店主と出会い、他の遺失物や人間と関わり、戦うこと以外の楽しみを見つけた。

いろんなことを知って、もっといろんなものを見てみたい。

魔石はその途上にいる彼女たちを馬鹿にしたのだ。


ミランダが魔石を拾い上げた。手が凍り付いたが少しも気にすることはなかった。

ミランダが店に走ると、カウンターの奥の扉から白い箱を持って戻ってくる。


「ちょっと魔法が使えるくらいで何よ」

「あなたなんか、店主の手にかかれば粉々だわ」


無表情で魔石を見つめる彼女たちの小さな唇が、鮮血のように赤く色づいている。


「この箱は店主の魔法がかかっているの」

「店主が帰ってくるまでおとなしく寝ていてもらうわ」


魔石を箱の中に入れ蓋をしようとしたとき、魔石が大声で笑い出した。


「こんなちゃちな封印魔法が俺に効くとでも? 俺はただの魔石じゃないぞ。その、店主とかってやつも所詮はただの人間だろ? 人間ごときが俺に敵うわけもない。お前らも店主も、まとめて店ごと木っ端みじんにしてやるぜ」


魔石の高笑いに、ふたりは顔を見合わせてくすりと笑い声を漏らした。

それが引っかかったのか、魔石は急に声を低くした。


「……なにがおかしい?」

「あなたこそ何にも知らないのね。店主はあなたの何百倍も強いのよ」

「あなたなんてパフェの材料にされるわ」


よく見ると魔石は若干茶色がかっていて、いまある食材の中では一番形状がチョコレートアイスに似ている。


「おいおい、魔石の俺より強い人間がいるわけないだろ」

「いるわ。それに、店主は人間だけど、人間じゃないもの」


ミランダの言葉にメリンダも同意して頷く。


「そう。あんな魔力の構造は人間ではありえない」

「人間じゃなければ何だっていうんだよ」


その言葉に、ふたりは顔を見合わせた。

このことについて話をしたことはなかったが、ふたりには確信があった。

はじめて店主に出会ったとき、双剣を握った店主の手からは、不思議な魔力の奔流を感じたのだ。

いままで彼女たちが出会ったどの人間とも違う。


他の人間の魔力が心臓を中心に放射状に伸びているとしたら、店主のそれは螺旋を描き複雑な経路をたどって全身にくまなく流れる。

無機質でいて抑揚のある、まるで音楽のように流れる魔力。

店主の魔力を借りて人間の形をとっているいまも、彼女たちはそれを感じている。


「……なんなのかしら」

「人間なのは間違いない。でも半分は……多分、私たちと同じよ」

「同じって何だよ。モノだとでも?」


魔石はそれを鼻で笑う。そんな人間が存在するなんて信じられなかったのだ。

しかしふたりはその言葉を考えるように首を傾げた。


「モノね。たしかにそうかもしれないわ」

「ひょっとして、店主の本体ってあのエプロンなんじゃないかしら」


そう言い終え、ミランダがはっとして口を押える。


「だとしたら私たち、さんざんあのエプロンをダサいって馬鹿にしたわ」

「あれが店主の本体だったのに」

「悪いことしたわね」


悪いとも思っていないような表情で反省の言葉を口にしたあと、ミランダはふと思い出したようにふたたび口を開いた。


「そういえば、店主によく似た人が一度店に来たわね」


メリンダがミランダを覗き込んだ。


「そんな人間、いた?」

「いたわよ。ほら、ここに座って——」

「ああ、そういえばそうね。雰囲気が似てたと思う」


話が脱線した彼女たちを、魔石が大きな声で遮った。


「ありえないだろ! 半分人間で半分モノ? そんなのいるわけない!」


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