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すべては逆行する④ 核心

店主が首をかしげて微笑む。じっとジェイドの言葉を待った。


風のざわめきがやけに大きく聞こえる。


しばらく沈黙した後、ジェイドが静かに口を開いた。


「お前の店の、常連のおっさんいただろ。あの雑誌の記事を書いた」


やけに様子を伺うような視線で店主を見る。

その常連は一人で静かにやってきては、珈琲をゆっくりと時間をかけて飲み、たいした会話をすることもなく飲み終わると帰っていく、とても物静かな人だ。


急に何を言い出すんだろうと僕は二人の様子を見守った。


「……あのおっさん、この間死んだらしいぞ。殺されたんだそうだ。犯人はまだ見つかっていない」

「そうですか」


微笑んだ顔のまま、表情を一切変えずにそれだけ答えた。


ふっと視線を正面に向けて店主は歩き出す。

それにつられて僕とジェイドも歩き出した。


ジェイドは早歩きで僕たちを追い越すと、顔を前に向けたまま言った。


「……驚かないんだな」

「驚いていますよ」


ジェイドがどんな表情をしているのか、後ろからだと見えない。だけど背中がとてもこわばって見えた。

店主が唐突にくすりと笑った。

その笑い声に、僕はぞくっとする。


「私のこと、疑ってます?」


突然後ろ向きで歩いてきたジェイドが店主にぶつかった。

クァール戦では一度も間違えなかったのに、歩き方を間違えたのだ。明らかに動揺している。


「わっ」

「おっと、すまん」

「鼻ぶつけました」


硬くごつごつした背中にぶつけて赤くなった鼻を押さえる。

ジェイドは慌てて謝り、店主の顔を覗き込んだ。

図らずも正面から向かい合う形になる。

気まずそうに下を向くジェイドに、店主は少し困ったように笑って見せた。


「わかりますよ。エッジから聞いたんでしょう? あなたはもう少し、自分のパーティメンバーの教育をした方がいいですね」

「お前を疑っているわけじゃねえ。ただ俺はお前が変なことに巻き込まれてるんじゃないかって心配で……」

「心配? エッジから聞いてませんか? 私はただ猫と遊んでいただけですよ」


何の話をしているんだろう。

エッジの話も、猫の話も僕は知らない。

僕はただの傍観者だ。

とても入っていける雰囲気ではない。


ジェイドはおもむろに店主の手首を掴むと、袖口をめくった。

右手を見て、次に左手も確かめる。


「傷なんかどこにもねえじゃねえか」


店主は薄い笑いを浮かべたまま、ふぅっと息を吐いた。


「……私が殺しました」


はじかれたようにジェイドが顔を上げる。


「……って言ったら、どうします?」


店主は完璧で隙のない笑顔で微笑んだ。だがその瞳の奥が微かに揺れていた。

ジェイドはまっすぐと目を見たまま即答した。


「お前がそんなことするわけねえ」


ジェイドがこぶしを握る。


「だが…………もし、本当にやったっていうんなら……。それなりの理由があるんだろ。店主に不都合がなければそれでいい」


さすがの店主もその答えは予想外だったのか、目を大きく見開いて、何度か瞬きをした。


「いいんですかそれで」

「構わねえ」

「いや、さすがにそれは……」

「……なあ店主。お前、何か隠してるだろ」


ジェイドが真剣な目で店主の肩に触れた。

さりげなく身体をずらしてその手をどけようとして、店主が左右を間違えた。


「あ……間違えてしまいました」


動揺を隠すようにふふっと笑った店主は、「何も隠していませんよ」とジェイドの手を優しく払った。


「本当に大丈夫なのか? この間の遺失物の件だってまだ解決してないんだろ」


以前、誰かが明確な悪意を持って呪符を貼った遺失物をダンジョンに置いた。

それで店主は一時的に魔力を封印されたのだ。


「何かあるなら必ず俺に言え。絶対に一人で解決しようとするんじゃねえぞ」


店主の完璧な笑顔が少し崩れ、どことなく嬉しそうに口の端が上がった。それに気づかれないように前を向きまた歩きだす。


「ジェイドにはかないませんね」

「どういう意味だよ」


二人はそのまま草原を歩く。

僕はよくわからなかったけど、問題なさそうだと思って後をついて行く。

店主がいつもなにかを考えているのは確かだ。

でも店主ほど強い人を僕は見たことがない。

だから店主なら、なんでも解決してしまえるんだろうと僕は思っていた。


「とにかく、心配はいりませんよ」

「お前嘘つきだからな」

「嘘なんて、ついたことありませんけど」

「意図的に隠すことも、嘘っていうんだぞ」

「それは知りませんでした」



ダンジョンを出て、移動用の魔法陣を使って僕たちは店に戻った。


「あいたっ!」


早速ジェイドが椅子に背中をぶつけた。

ダンジョンにいた影響で、後ろ向きに歩いてしまったのだ。


「痛っ!」

「おっと!」


僕たちはしばらくの間、頭と背中をぶつけまくったのだった。


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