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願わくは夢の下にて⑧ いま死なん

その後なんとか小道を抜け、僕たちは目的地である山のふもとへと到着した。

古代竜も去り、夜行性の魔物たちが活動を始めるには少し早いこの時間が、僕たちが安全に動ける唯一の時間だった。


「どの辺ですか?」

「このあたりなんだけど……」


アトラスがいうには、ここが地図に書かれている宝の場所らしい。


「見た感じ宝っぽいのはねえけどな」

「地中に埋まってるとか?」

「可能性はありますね」


背丈ほどの草に覆われた場所で、宝箱はおろか目印になるようなものも見つけられない。

宝があってもなくてもアトラス地震の価値には関係ないのだと店主は言ったが、それでもやはりアトラスの顔には不安が浮かんでいる。

宝の地図としてのアイデンティティや、自分を信じたことで死なせてしまった冒険者のことをどうしても考えてしまうのだろう。


「きっと大丈夫だよ」

「うん」

「だって君は、『宝の地図』なんだから」

「ありがとう」


僕たちは手分けしてこの一帯を掘ることにした。

木の枝をスコップ代わりにして、あちこち掘り進めていく。

日はどんどん沈んでいく。

夜になると、どんな魔物が現れるのかもわからない。

体力の続く限り掘り続けた。


だがそれらしきものは見つからない。


そのうちに夜になってしまった。

夜行性の魔物は音に敏感だ。

土を掘る音に、魔物が寄ってきた。


「ここは俺がやる。お前らは宝を探せ」


ジェイドがロングソードを構えた。

夜で視界が悪い状況では、使い慣れた剣のほうが良いらしい。


「援護はします」

「無理すんな」


店主の申し出をジェイドが断る。

幸い夜は魔物の数が減る。

なんとかジェイド一人で対応できそうだった。

ジェイドが魔物と戦う間、僕たちも地面をひたすら掘り続けた。


やがて、空が白みはじめた。


ふらふらになった足を必死に踏ん張りながら、あと少し、もう少しと掘り続ける。

誰も言葉を発さず、ただひたすらに掘る。

さくさくとスコップの音だけが響く。

明るくなってきたおかげで夜の魔物は巣へと帰っていき、戦い通しだったジェイドが地面に大の字に寝転がる。


「……もう、いいよ」


沈黙を破るように、アトラスの声が響いた。


「こんだけ探して見つからないなら、きっとはじめから宝はなかったんだ。おいら、それがわかっただけでも十分だよ」


店主が手を止めた。


「ここまでつきあってくれて、本当にありがとう」


アトラスが深々と頭を下げた。

きっとアトラスは本心からそう言っているのだろう。

だけど僕は悔しくなって、一層深くスコップを地面に差し込んだ。


その時だった。


何かが当たった気がした。


なんだろう。


僕はしゃがんで手で土を掘った。

硬い何かがそこにあった。


石? それにしては大きい。


手で土をはらう。


「……った」

「え?」


アトラスがゆっくりと顔を上げた。


「あった!」


僕は叫んだ。


「宝箱! あったよアトラス! みんな!」


店主もジェイドもアトラスも、一斉に駆け寄ってきた。


土の中には大きな宝箱があった。

装飾のある、立派な箱だった。

箱の周りを掘って、箱を取り出した。

ずっしりと重たい。


「開けてみてよ、アトラス」


みんなに見つめられ、アトラスはごくりと喉を動かした。

ゆっくりと頷くと、震える手で蓋を開けた。


「これは……」


中にあったのは、話に聞いていた以上の金銀財宝だった。

大きな王冠や装飾品、金でできた頭蓋骨、ダイヤモンドや真珠、エメラルドなどが詰め込まれ、さらにその隙間を大量の金貨が埋めていた。

これだけの財宝があれば、まさに人生を変えてしまうような夢のお宝だった。


「よかった……本当に、よかった……」


アトラスの目に、涙の膜が張る。

全身を震わせ、しゃくりあげながらアトラスが叫んだ。


「これでっ、あいつらの名誉を、守ることが出来た。おいらに騙された、間抜けな愚か者なんかじゃないっ。あいつらは……あいつらは! 夢に生きた、立派な冒険者だっ!」


零れ落ちたたくさんの雫が、朝日を浴びてきらきらと光る。

それはまるで、宝のような輝きをしていた。


「君は、彼らの名誉を取り戻すためにここに来たんですね」

「どうかこのことを、他の冒険者にも伝えてほしいんだ。宝は本当にあったって。あいつらのために、どうかお願いだ」

「ああ、必ず伝えてやる。夢に挑んだ勇敢な冒険者がいたってことをな」


アトラスの身体がだんだんと透けていく。

体の形がゆらゆらと揺れ、後ろの景色が透けて見える。


店主が驚いてバッグの中からアトラスの本体を取り出す。

地図はさらにぼろぼろになっていた。


「モノも死んだら、人間と同じところに行けるかな? おいらあいつらに会ったら教えてやるんだ。すっごいお宝があったって」

「ええ、きっと」


冷静な表情の店主の目尻が微かに赤くなっている。


風が吹いた。


アトラスの身体が風にかき消されていく。

それと同時に地図もばらばらになり、風に飛ばされて遠くに消えた。


「ありがとう」


風の中から嬉しそうな声が聞こえた。


アトラスも彼らとともに夢に生きたのだ。



◇◇◇



ジェイドが宝箱の中から金貨を一枚取った。


「それだけでいいんですか?」

「ああ。宝があったことを証明するにはこれで十分だろ」

「でも、ジェイドの分は取らなくてもいいんですか?」


せっかく宝を見つけたのだから、もっともらってもいいのではと店主が訊ねる。

宝を前にして手を出さない冒険者などいないし、実際ジェイドも見たこともないような財宝を前に目を輝かせている。

だがジェイドはぽりぽりと頭を掻いた。


「うーん。なんつーか、お前と一緒だとなんかズルした気になるんだよなあ」

「ズル?」

「まあ、また挑戦するわ。そん時は、お前が冒険者になってたらいいんだけどな」

「それだとズルにならないんですか?」

「矜持の問題だな」

「夢とか矜持とか、冒険者はつくづく面倒くさい人たちですね」

「それがいいんだろ?」

「まあ、否定はしません」


店主とジェイドが顔を見合わせて笑った。その顔はどちらも泥だらけだった。

僕は割って入るように、おずおずと口を開いた。


「浸ってるところ悪いんだけどさ……誰か帰り道、覚えてる?」


二人がぎょっとして僕を見た。

アトラスがいなくなったいま、僕たちは地図もなくこの広いダンジョンに取り残された状態だ。


「どうしましょう、正直なにも覚えてません」

「俺もだ、やべえ!」

「僕も覚えてないよ」

「と、とりあえずあっちに行ってみましょうか」

「いやそっちじゃないか?」



僕たちは何度か遭難しかけながらも、命からがらダンジョンを脱出することに成功したのだった。



ちなみに、宝箱はまた土に埋めておいた。

目印にスコップ代わりの木の枝を立てた。

なんだか墓標のようにも見えたけど、宝とともに眠れるならば、彼らにとってはきっと最高の墓になるはずだ。

宝の場所を示す地図はなくなったけど、宝の存在はジェイドによって伝えられるから、誰かがいつか見つけるだろう。

危険だろうと関係ない。

なぜなら冒険者は、夢に生きるのだから。





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