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願わくは夢の下にて④ フェアリーガーデン

「なるほど。確かにこれは『フェアリーガーデン』ですね」


ダンジョンに足を踏み入れた直後、僕たちはその光景に圧倒された。

入り口は小高い丘のような場所になっており、遠くが見通せる。

そこから見えるものすべてが、とんでもなく大きいのだ。


一面にジャングルのような森が広がっていて、遠くに山脈が連なっている。

すぐそばに流れる川はその山まで繋がっているが、その川幅は海と見間違えるほど広い。


だが、単にそのダンジョンが広く大きいということではない。

一番の問題は、ものそのものの大きさだ。

ただの雑草のような草は成人男性ほどの高さがある。

木にいたってはその先端が見えないほど高い。

その森を棲家とする昆虫系の魔物たちも、人間を遥かに超える大きさだ。


まるで自分たちが体の小さな妖精になったかのように感じられる。


そしてなにより。


「このところどころある湖はなんなんでしょう。地図にはなかったですよね?」

「ああ、これは古代竜の足跡だ」


アトラスが指を指した。

道のあちこちに、大きさも形も違う湖が広がっている。


「あれも、あそこも全部、古代竜の足跡に雨が降ってできた湖さ」

「竜って……」


竜といえば一匹だけでも国を滅ぼせるほどの威力を持った存在だ。

それが何匹もいるなんて。


「でも大丈夫。ここにいるのはダンジョンの竜だからね。天然の竜よりは大きくないさ」


ダンジョンの中と外とで魔物の大きさは変わるのだろうか。

視界には竜の姿を捕らえることはできなかったけど、この足跡から察するに相当大きいのだろう。

気づかずに踏まれてしまうことだって十分あり得る。


「それにしてもまだほんの入り口なのに古代竜がいるなんて、さすが未攻略ですね」


さすがの店主も驚いていると、ジェイドが双剣を手にして身構えた。


「だがここの1番の脅威は古代竜じゃねえ。この環境そのものだッ!」


ジェイドが片足で踏み込んで高く飛び上がると、上から落ちてきた巨大な木の実を双剣で真っ二つに斬った。

重量のある木の実が左右に落ち、どおんと音が響く。


「これって……」

「ただの木の実だ。落ち葉や水滴もいまの俺らにとっちゃあ脅威になる」

「なるほど……」


吹き抜ける風や雨のしずく、果実の落下や落葉などのいつもならば気にすることもない些細な自然現象でさえ、この巨大化した場所では人間に致命傷を負わせるものになる。


「アトラス、宝の場所はどのへんですか?」

「あの山の中腹だ」


アトラスが示したのは遠くに見える山脈の一つ。真ん中の一番高い山だった。

店主はそれを見てしばらく考え込む。


「とりあえず、最短ルートで行きましょう。古代竜には気づかれないように。竜との戦闘は絶対に避けたいです」


店主は自分の手のひらを胸に当てて、何度か深呼吸をした。

そして手を開いたり閉じたりした後、ゆっくりと頷いた。


「最大の敵は、目に見えないものですね」

「そりゃなんなんだ?」

「一つは酸素。濃度がかなり高いです。すぐに影響があるわけではないですが、ここに長居をすれば肺がやられますし、剣は錆びます」

「え? 錆びるなんて冗談じゃないわ!」


ジェイドの手の中にいる双剣が叫んだ。


酸素濃度が高いと発火しやすくなるため火を使うことも慎重にしないといけないと店主は続けた。


「それから……これは私だけが影響を受けるのかもしれませんが、魔力濃度も高いです」

「魔力濃度が高いとどうなるんだよ」

「そうですね。まず魔法の感覚が狂います。思ったより威力が出なかったり、暴発したり。あとは魔力酔いといって、簡単に言うと酒に酔ったような状態になります」


みんな驚いて店主を見た。心なしか頬が赤くなっているような気もする。

そういえば店主がお酒を飲んでいるところを見たことがない。


「店主って、お酒強いの?」


店主はいつもより少しふにゃふにゃした顔で笑った。


「いいえ、まったく」


僕たちの間に戦慄が走った。

この過酷なダンジョンで、一番の戦力である店主がふにゃふにゃしているなんて。

本当に大丈夫なんだろうか。不安しかない。


「おいら、また人を死なせてしまうんじゃ……」


不吉なアトラスの呟きをみんなは全力で無視した。




とりあえず僕たちは川沿いを歩いて進むことにした。

川は山の方へまっすぐ伸びているから迷うこともない。

アトラスを先頭に僕たちは進んだ。


僕は図鑑を見ながら、落葉樹や大きな実をつける植物を調べてその下を通らないように気を付けて歩く。

図鑑を見るのは初めてだから、本当に合っているのかはわからない。

木なんて正直どれも同じに見えるし、葉の特徴を見たくてもかなり高い場所にあるからよく見えない。

それでも何もしないよりはましだ。


店主は一番後方をふらふらとした足取りで歩き、その襟の後ろをジェイドが掴んで引っ張っている。


「ほら、ちゃんと歩けよ」

「すみません」


謝罪の言葉を口にしながらも、楽しそうに笑っている。


ふと、アトラスの足が止まった。


「ここから先、川は深い森の中に入る。空が見えなくなるからいつどこから敵が出てきてもおかしくないんだ。本当に用心しなよ」


その言葉どおり、うっそうと茂った巨大な雑草が地面を覆い、上空はこれまた巨大なシダの葉が日の光を遮っている。

周囲は薄暗く、湿度も高い。


「おいらはここで二人の冒険者を失ったんだ……」


悔しそうにこぶしを握り締めるアトラスに、ジェイドが口を挟む。


「おいおいやめてくれよ、暗いこと言うのは」

「でも本当に危険なのさ。ここには魔力に反応する虫が住んでて——」

「暗いのが嫌なんですか? それなら明るくしましょう!」


アトラスの話を機嫌よく遮った店主が手のひらを上に向けた。


その瞬間、無数のまばゆい光の粒がパーンと上空に打ちあがった。

魔力濃度が濃いせいで暴発しているのか、勢いよく周囲に飛び散った光が、カーテンのように周囲を明るく包みながら落ちてくる。


「見てください、ジェイド。花火ですよ。綺麗ですね」


振り返った店主がふにゃりと笑った。


「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」

「なにしてんのよ店主!」

「私たちを殺す気かしら!?」


ジェイドが店主を肩に担ぐと走り出した。


「逃げるぞ!」


僕たちもそれに続く。


だが。


突然、目の前の地面に黒く細長いものがするどく突き刺さった。

木ではない。

恐る恐る上を見上げる。

黒光りするそれは、巨大な昆虫だった。

魔力につられてやってきたらしい。


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