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願わくは夢の下にて③ 宝探し

その夜いつものように飲みに来たジェイドに、店主がまるで世間話の延長のように告げた。


「明日と明後日、店を閉めますね」

「どこか行くのか?」

「宝さがしに行ってきます」

「宝さがしぃ?」


正気かと訝るような目で店主を見る。

それに苦笑で応えると、店主は地図を見せた。

途端にジェイドの表情が青ざめる。


「お前これ、『フェアリーガーデン』じゃねえか」

「『フェアリーガーデン』? 随分と可愛らしい名前のダンジョンなんですね」

「本気で行くのか?」


ジェイドはなぜとは聞かなかった。行くなとも言わず、ただその意思を確かめた。

言い出したら聞かないことを知っているからだ。

店主はいつもの微笑みを浮かべたまま、しっかりと頷いた。


それを見たジェイドが急に立ち上がる。


「出発は?」

「明日の朝です」

「昼にしろ。それまで待っとけ」


それだけ言うとジェイドは魔法陣に乗って帰っていった。


「何だったんでしょう?」


店主は不思議そうに首を傾げた。




次の日の昼前に、たくさんの道具とともにジェイドがやってきた。


「なんですか、その大荷物」


ジェイドはその言葉を無視して店主を一瞥した。


「やっぱりな、そんなことだろうと思ったぜ」


額に手を当て大きなため息をついている。


「店主、お前なんだよその恰好は」

「いつもどおりですが、何か問題でも?」


店主は不思議そうに、黄色いエプロンの裾をつまんでみせた。


「問題大ありだ! いいか? いまから行くダンジョンは普通の場所じゃねえ。未攻略ダンジョンなんだぞ」

「未攻略ダンジョン?」


僕の問いに店主が答える。


「まだ誰も攻略していない、つまり誰もボスを倒したことのないダンジョンってことです」

「そこまでわかっててなんで何の準備もしてねえんだよ!」


ジェイドにやかましく言われた店主が、少し得意げに持っていたバッグの中身を見せた。


「準備ならもちろんしてますよ。珈琲と、泊りになるかもしれないので軽食を用意しました。あとは毛布」

「ちげーよ! ピクニックに行くんじゃねえんだから」


ジェイドは大きな荷物の中から、防具を何個か引っ張り出した。


「ほら、これを着ろ」

「これは?」

「その恰好じゃ危険すぎる。防具をつけろ」

「……ちなみにこれはどこで?」

「エッジから剥ぎ取ってきた」

「…………え?」


渡された防具を見つめる店主の顔が険しい。


「いいじゃねえか。俺のは大きすぎるし、サイズ的には合ってるだろ?」

「これって洗って……」

「ちゃんと拭いたから綺麗だって!」


よほど嫌なのか、潔癖症の店主がじっとジェイドを見る。

僕は防具を剥ぎ取られたエッジが大丈夫なのか、少し心配だ。


最終的に二度拭きをすることでなんとか折れた店主が防具を装着し、その上にエプロンをつけた。


「防具にエプロンって、それどうなの?」

「これがないとなんだか落ち着かなくて……」


身に付けた防具にまだぶつぶつ小さな声で不満を漏らしている店主に呆れていたら、ジェイドが何かを差し出してきた。


「お前にはこれをやる。しっかり頼むぞ」

「これは?」

「図鑑だ」

「図鑑?」


分厚くて凶器にはなりそうだが、見たところ普通の図鑑だ。植物や昆虫、鉱石などが載っている。


「これが役に立つんだよ」



ようやく準備ができたところで、店主が珈琲豆を取り出した。

そこに魔力をこめると青白い光とともにだんだんと形が変わっていく。

それは僕よりも少し年上に見える少年の姿になった。


「さあ、君には直接道案内をしてもらいますよ。地図は頭に入っていますか?」


ゆっくりと目を開けた少年が、戸惑いながら手足を動かしそして頷いた。


「当然。おいら全部の道を覚えているさ」

「地図だと呼びにくいですね。あなたは何か名前がありますか?」

「うーん。おいらは「人喰い」とか「呪い」とか呼ばれていたけど」

「そうですね……」


店主が顎に手を当ててしばし考え込む。そして。


「アトラス。あなたをそう呼ぶことにします」

「アトラス……。へへ、いい名前だな」


アトラスは照れたように笑った。


本体は崩れないように丁寧に包んで店主のバッグにしまった。

僕はいつものように人間の姿に、双剣は剣のままジェイドが使う。


「それでは、行きましょうか」


そうして僕たちの宝さがしの旅がはじまった。


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