私を襲わないでください② 楽しい遊び
「さあ、センター長ぉ。あたしの虜になりなさぁい!」
小瓶が手を伸ばす。
その目的はもちろん店主。
惚れ薬の手にかかれば、さすがの店主も陥落してしまうしてしまうかもしれない。そう心配したその時。
「そんなことだろうと思いましたよ」
不敵な笑みを浮かべた店主が手のひらを小瓶に向けて一言放った。
「おすわり!」
途端に小瓶の動きが止まる。
「なによ、これ。身体が勝手に……って、この身体、犬じゃないのよぉ!」
店主が小瓶のために作った身体は、毛足の長い白いモップのような小型犬だった。
「かわいいわ」
「撫でてもいいかしら」
双剣がそわそわしている。
「ちょっとちょっとぉ! あたしは人間の大人の女になりたいって言ったのよぉ」
「一応、メスの成犬です」
「結局犬じゃないのよぉ!」
小瓶が、いや小型犬が叫んだ。
店主のこだわりなのか、艶のある白い体毛とつぶらな瞳、柔らかそうな肉球がどれも愛くるしい。
そして声を出せるようにしているので、セクシーに喋る犬が誕生してしまった。
「……まあいいわぁ。あたしは惚れ薬だもの。どんな姿であっても、あたしに惚れさせてみせるわぁ」
つぶらな瞳を潤ませてくぅんとかわいく鼻を鳴らした小型犬は、尻尾を左右にふりふりと揺らしながら店主の足元に近づくと、ごろんと仰向けになった。
白いもふもふとしたおなかを見せて、くねくねと動く。
「どうかしらぁ? あたしの魅力にやられちゃったんじゃなぁい?」
店主は片手で顔を覆った。
肩が小刻みに揺れているから絶対に笑いをこらえている。
だがそれを照れていて直視できないのだと勘違いした小型犬は、満足そうに舌を出した。
「あたしって罪な女ねぇ。どんな姿でもあたしを好きにならずにはいられないんだからぁ」
その時。
「もう我慢できないわ」
「もふもふしたい」
双剣が小型犬を抱き上げ、頭やおなか、肉球を触りはじめた。
「ふわふわだわ」
「ぷにぷにね」
はじめて触る犬の感触がおもしろいのか、もふもふもふもふと撫でつづける。
「ちょ、ちょっとやめなさいよぉ! くすぐったいわぁ」
犬が少しセクシーなことを除けば、双子の少女が犬と戯れる、まるで絵画のような光景だ。
だが動物を触ったことのない双剣は加減がわからない。
「鼻はどうして濡れているのかしら」
「耳の中はどうなっているの?」
「尻尾にも感覚はあるのかしら」
双剣は小型犬をもみくちゃにしていく。
艶やかな毛がすっかりぼさぼさになっている。
「ちょっとぉ、尻尾はやめなさいよ!」
だんだんと我慢できなくなってきたのか、小型犬が唸り歯をむき出しにした。
「やめなさいって言ってるでしょ!」
双剣に嚙みつこうとする小型犬を伸びてきた店主の腕が抱き上げる。
「君たち、動物は優しく扱いましょう」
「センター長ぉ。この子達ったらひどいのよぉ。あたしの尻尾引っ張るんだからぁ。でもセンター長になら少しくらい触らせてあげてもいいわよぉ」
まるで誘うように尻尾をゆらゆらと動かす。
本人は誘惑しているつもりかもしれないが、ただただ愛らしい犬にしか見えない。
「しかたないですね」
店主はどこから取り出したのか、手のひらほどの大きさのボールを持って遠くに投げた。
小型犬は店主の腕から飛び降りると、ボールと一緒に弾みながら追いかけていく。
「屈辱よ……。ボールに反応するなんてぇ。でも、すごく楽しいわぁ」
ボールを咥えて戻ってくると、また投げてと店主にねだる。
何度もボールを投げている店主も、まんざらではない顔をしている。
僕たちは片付けはそっちのけで楽しく犬と戯れた。
やがて遊び疲れた小型犬が眠りについたところで、小型犬は元の小瓶に戻った。
「すっごく楽しかったわぁ。新しい世界を見せてもらって幸せよぉ」
古道具屋が引き取りに来るその時まで、僕たちは何度か小型犬と遊んだのだった。




