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移動する遺失物P⑨幼稚園

隙間の中は別の洞窟に繋がっていた。

冒険者が隠し通路と呼んでいる、通常では見つけられないようなこういった場所には、レアアイテムの入った宝箱があったり、隠しボスがいたりする。


隙間を通るときについたエプロンの汚れを気にしながら、店主は拗ねたように口を尖らせた。


「さっさと遺失物を見つけてここを出ましょう。こんな場所、長居したくはありません」


ちなみに店主はかたくなにパンツとは言わずに遺失物で通している。


先に落ちたエッジの姿は見当たらない。

とりあえず進もうと、一人分の幅しかない狭い通路を一列になって歩いた。すると、岩陰の奥に人影が見えてきた。


「エッジ?」


ジェイドが声をかけるとエッジが慌てて「シーッ!」と人差し指を口に当てた。そしてその指で今度は右を示す。

右側には更に隙間があった。

そこをそっと覗いたジェイドがはっとして口を押さえる。


「なんだありゃあ……」


店主と僕もそっと隙間を覗き見た。


隙間の奥は空間になっていて、中には二十体程のゴブリンがいた。

しかし、こちらに気づいた様子はない。

魔物は音や嗅覚で敵を察知するというが、もしかしたら終始漂うこの甘い匂いに、魔物たちの鼻も利かなくなっているのかもしれない。

ここは巣のようで、ゴブリンたちは楽しそうに遊んでいた。

追いかけっこをしたり地面の砂に絵をかいたり雑草を眺めたり——。

きゅわきゅわと楽しそうな笑い声をあげて遊ぶその様は、さながら子供を集めた保育施設のような光景だった。


エッジはまた指をさして何かを伝えようとする。

その方向にいたゴブリンに視線を向ける。

壁の粘液でスライムのようなものを作って遊んでいるゴブリンだけ、他のゴブリンと服装が違った。


「あっ!」


思わず零れた声に、僕は口を両手で押さえる。


他の皆は黄色い擦り切れた布を腰に巻いているのに、そのゴブリンはエッジのパンツを履いていた。

エッジは涙目でそれを見ている。


「どうしましょう」


小声で店主がジェイドに訊ねた。


「数が多すぎるな。ここで待って、あのパンツのゴブリンが出てきたところを狙うか」

「そうですね」


僕たちはゴブリンの様子を静かに眺めることにした。


パンツをはいたゴブリンはスライム作りに飽きると追いかけっこの仲間に加わった。

暫く楽しそうに遊んでいたが、突然、他のゴブリンがパンツを指さして何かを言い出した。

そのゴブリンがパンツに手を伸ばして無理矢理奪おうとする。

奪われないように必死で抵抗するが、何体ものゴブリンに押さえつけられ、とうとう奪われてしまった。

パンツを取られきゅわきゅわと大きな声で泣き出したゴブリンに、思わず胸が痛くなる。


「お、俺、いま履いてるパンツ脱いで、あの子にあげてくるっす」

「馬鹿か!」

「だってかわいそうじゃないすか」

「お前ノーパンで歩く気かよ」


ジェイドとエッジの会話を聞いていたミランダとメリンダがエッジに斬りかかろうとする。


「ノーパン?」

「レディの前で下品な会話しないでくださる?」

「あんたの下半身ごと切り刻んでやる!」


突然暴れ出した双剣にジェイドが焦っていると、「シー」と店主が人差し指を立てた。


「ちょっと君たち、静かにしないと気づかれますよ」


僕たちは再び静かにゴブリンたちを眺めた。


パンツを奪い取ったゴブリンはそれをぶんぶんと振り回しながら走っていたが、やがて他のゴブリンと一緒に綱引きのように引っ張り出した。

今度は伸びてしまったパンツの端を二体のゴブリンが持ち、もう一体のゴブリンが真ん中に座りブランコのように遊んでいる。


「俺のパンツ……」


エッジの悲し気な呟きが聞こえる。

パンツの悲鳴も聞こえていたが、僕は聞こえないふりをした。おそらく店主も同じだろう。


「もうこれ以上待てないっす。俺、取り返しに行ってきます!」


エッジが勇ましく立ち上がった。その手には剣が握られている。

ゴブリンは比較的弱い魔物とはいえここは深層。その強さは未知数だ。


「俺のパンツで遊ぶなああああ!」


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