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移動する遺失物P⑧全力でなかったことにしたい

◇◇◇


「あー、よく寝た」

「ようやく回復したわね」


今日一日ずっと夢と(うつつ)の狭間を行ったり来たりしていたミランダとメリンダがすっきりとした声を上げた。

ジェイドの腰に差さった状態で僕に話しかけてくる。


「おはよう、二人とも」

「バル、あんたは疲れないの、その体」

「僕はもう慣れたから」

「私たちはまだ無理ね」


このところよくカフェの手伝いをしていたから二人とも疲れが溜まっていたのだろう。

店主の魔法で人間の姿になって動くのは、慣れないと結構疲れる。

二人はここまでの経緯を聞くとすごく嫌そうな声を出した。


「てことはなに? あの小汚い男のお古の下着を探すためにこんな大人数でダンジョンに来てるってこと?」

「まあ、そういうことになるね」

「はあ、私まだ寝とこうかしら」


移動を続ける遺失物を追いかけて、僕たちは中層を抜け深層に入った。

ここから先は魔物の強さも段違いになる。

洞窟内に漂う甘い匂いもどんどん強くなっていくが、ジェイドの言うとおり鼻が利かなくなってきたのでそこまで影響はない。


「誰だよ俺のパンツ履いてるやつは」


エッジがぶつぶつと呟く。


「バルムンク、声は?」


ジェイドに訊ねられ、僕は指を差した。


「あの中だと思う」


洞窟の壁に亀裂が入っている場所があった。亀裂の隙間は大きく、成人男性が何とか通過できそうなほどの幅がある。その奥から声は聞こえていた。


「魔物の巣でしょうか」


暗くて中は見えないが何かの気配が濃厚に漂っている。

きゅわきゅわと楽しそうな声も聞こえてくる。


「しかたがねえ、行くか。エッジ、お前が先頭だ」

「えー、こんなとこ行きたくねえっす! 絶対なんかいるじゃないすか!」

「誰のせいだと思ってるんだ!」

「サーセン」


エッジはへらへらと前歯を見せて笑うと、腹をくくって隙間に身体をねじ込んだ。


「うわ」

「どうしました? もしかして挟まりました?」


動きを止めたエッジに店主が声をかける。


「むしろ逆っす。ぬるぬるしてて滑りが良すぎて足があああああああ!」


そのまま足を滑らせたのか、エッジが勢いよく滑り落ちていく。中は坂道になっていたようだ。あっという間にエッジの姿が見えなくなる。

一部始終を見ていた店主が無言でこちらを振り返り、涼しい笑顔を浮かべた。


「……見なかったことにしませんか」

「店主、お前……」


顔をひきつらせたジェイドががしっと店主の肩を掴んだ。


「え? ちょっと、ジェイド? わっ!」


そのまま有無を言わさずに引っ張っていき、肩を組んだ状態のまま店主と一緒に隙間に消えた。

一人残された僕は、ため息をつきながら後に続いた。


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