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移動する遺失物P⑦Pの行方

「確かこのあたりだったな」


ジェイドがあたりを見回す。エッジが「あっちです!」と駆け出し僕たちは後に続いた。

代り映えしない洞窟の景色の中で、エッジが何度も行ったり来たりを繰り返して首を傾げた。


「おっかしいすね。絶対ここに落としたと思ったんすけど」


確認するようにジェイドを見る。

ジェイドも確かめるように何度も視線を周囲には知らせた後ゆっくりと頷いた。


「たしかにここだったはずだ」

「でもないんですね?」

「ああ」


落としていたとしたらこの粘着質の床に張り付いたままになっているはずだ。

僕らはもう一度床をじっくり見ながら歩き回る。

エッジは落とした時のことを思い出そうと、ぶつぶつと呟きながらハンカチだと思っていたパンツで顔を拭く様子を再現する。


「で、ここから魔物が出てきてうっかり落としたから……」


エッジが一か所を指差す。


「やっぱここっすね」


僕はその場所にしゃがみこんで顔を近づけてみる。

岩の上にべったりと張り付いた粘液の上に、うっすらと細い糸のようなものが見える。

綿製品の繊維のようだった。

さらによく見てみると、粘液の表面が波立っている。

他の場所はツルッとした見た目なのに対し、その一か所だけは何かを無理やり剝がしたように粘液の表面が乱れている。


「ここに遺失物があったのは間違いなさそうだよ。でも、誰かが持って行ったみたい」

「俺のパンツを⁉」


下着泥棒にあったかのように両手で口元を抑えて顔を赤くするエッジの頭をジェイドがはたく。


「誰がお前のパンツなんて欲しがるんだよ。おおかたどっかの魔物がエサと間違えて持ってっちまったんじゃねえの」

「ええ、魔物が持って行ったと考えるのが自然でしょう。ひょっとしたらもう胃の中かもしれませんね。問題はその魔物がどこに行ったのかですが……そのあたりはバルムンクに任せましょう」


店主はにこりと微笑むと僕の肩に手を置いた。

魂胆はわかっている。

自分はパンツの声を聞きたくないから、店主より少し耳の良い僕に丸投げするつもりなんだ。


「卑怯者」

「何か言いました?」

「何も」


とはいえこのまま闇雲に探しても埒が明かない。

どうかエッジとパンツの心温まる思い出話みたいなものが聞こえてきませんようにと願いながら、僕は集中して耳を澄ませた。

僕の本体である剣は店主の腰に差してある。僕は刀身の感覚を研ぎ澄ませ、剣の刃を揺らす音の波を掻きわける。


『だ………て…………よ』


風の音やどこかに潜む魔物の息遣いに混じって微かに意味のある言葉が聞こえてくる。

音の聞こえ方からしてここからかなり距離がある。

僕はさらに集中した。


『…………って! そんな……や……け……すよ』


もう少し。

あと少し——。


『だから駄目だって! そんな無理に引っ張ったら破けるっすよ!』


僕はぱっと顔をあげた。

期待のこもった眼差しで皆が僕を覗き込んでいる。


「……誰かがエッジのパンツ、履いてるみたい」


その瞬間、皆の顔から表情が抜け落ちた。



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