移動する遺失物P⑤レディへの誓い
中から出てきたのは蜂の形の魔物、キラービーだった。手のひらほどの大きさのそれが何匹も宝箱から飛び出してエッジに向かって鋭い針を突き刺そうとする。
ぶんぶんと低い羽音が警戒音のように鳴り、思わず鳥肌が立った。
「なるほど。ここは『蜜壺』ですし、蜂もいるでしょうね」
雄叫びを上げるエッジを冷静に眺めながら店主が納得する。だがキラービーは蜜ではなく人間の生き血を好む肉食の魔物だ。
「助けてください〜!」
半泣きで叫ぶエッジが足を踏み外して天井から落下する。
「うわあああ!」
地面に激突する直前、店主が魔法で出した風で受け止めた。
だがキラービーは一度狙った獲物は逃さない。エッジめがけて地面へと垂直に降下してくる。
「あれって毒あるんですか?」
「あるぞ、3日は激痛が続く」
「それは嫌ですね」
エッジはなんとか体勢を整えると、こちらに向かって走ってきた。
「おい! なんでこっちに来るんだよ!」
キラービーを引き連れたエッジがこちらに来ると、僕たちも刺される。
すぐさま僕たちも走り出した。
「なんで逃げるんすか〜! 置いてかないでください〜!」
「馬鹿、お前こっち来るなって!」
「ひどいですよ団長〜!」
「ほらジェイド、呼んでますよ。メンバーはちゃんと守らないと」
「おい店主押すなって!」
「誰でもいいからなんとかしてよ!」
「バルムンク、君は剣なんだから痛くないはずです」
「やだよ、やめてよ店主!」
醜い小競り合いをしながら逃げ続けていると、エッジが床の粘液に足をとられて勢いよく転んだ。
「あ」
絶望の色を顔に浮かべ、エッジが僕たちを見た。
キラービーがエッジを囲む。
「まったく、仕方ないですね」
その鋭い針がエッジに突き刺さろうとしたその時、店主が起こした炎がキラービーを包んだ。
まず羽が焼け落ち、ぼたぼたと地面に墜落する。しかし炎は勢いを保ったまま燃え続け、やがて灰になった。
涙目のまま店主を見上げたエッジは、ゆっくりと立ち上がると店主の手を握り跪いた。まるでレディに誓いを立てる騎士のように。
騎士団に入ろうとしていただけあって、その仕草は様になっている。
「俺、店主さんに生涯忠誠を誓います。本当に、何でも言うこと聞くんで」
「そうですか。じゃあ二度とダンジョン内で落とし物をしないでくださいね」
「はいっ!」
だが僕とジェイドは店主をじとっと見る。
あの一撃で倒せるならさっきの茶番は何だったんだ。
店主はこちらの視線に気づいているくせに、涼しい顔をして無視している。
「さ、先を急ぎましょう」




