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移動する遺失物P④宝箱を無視できる冒険者なんていないらしい

ジェイドはいつもは大きく長い剣を使っているが、双剣を難なく使いこなす。

武器全般の扱いが上手だと以前店主が言っていたが、その評価に間違いはないようだ。


「またこの筋肉馬鹿?」

「変な使い方したらただじゃ置かないわよ」


ミランダとメリンダは口では嫌そうにしているが、前回戦った時の高揚感が忘れられないのかすんなりとジェイドに従う。


三体のうち、一番左側にいるスライムにジェイドが斬りかかる。

硬く弾力のあるゼリー状の身体が衝撃を吸収するようにたわむ。

このような物理攻撃の効きにくい魔物は、体内のどこかにある核を壊すことができれば倒せる。

双剣では刀身が短い分、身体の中心にある核にわずかに届かない。

だがそこは経験がものを言う。

片足を強く踏み込み左の剣、メリンダで思い切り斬りつける。スライムはその衝撃を逃すために身体を薄く伸ばした。その隙をついてすぐさま右の剣、ミランダを突き刺す。

正確に核を貫いたその攻撃により、スライムはゼリー状の身体をどろどろに溶かして消えていく。


「さすがですね、ジェイド」


店主は感心しながら、片手をスライムに突き出した。スライムの下敷きになったエッジが「早く助けて~」と情けない声を出す。

スライムの色は赤。炎属性だ。店主の手から大量の水が高速で飛び出す。勢いのついた水は剣のように鋭くスライムの身体を真っ二つに切り裂いた。

その間にジェイドが最後の一体も斬り捨てる。

あっという間に三体のスライムを倒すと、エッジは感動したように目を輝かせて立ち上がった。


「すげぇ! すげぇっすわ、まじで! なんで冒険者じゃないのにそんなに強いんすか! 団長と店主さんいればどんなダンジョンも恐くねえっす!」

「お前はまず自分を鍛えろよ」

「サーセン」


エッジは反省した様子もなく謝罪を口にし、上の前歯だけ見せる独特な笑顔でへらへらと笑う。

呆れたように「まったくこいつは」と零すジェイドに店主が笑う。


「何笑ってんだよ」

「いえ、ちゃんとリーダーなんだなと改めて思っただけで」

「僕たち基本的に、ジェイドがお酒飲んでるとこしか見ないからね」

「俺だってなあ、いろいろ苦労してるんだよ」

「そのようですね」


気を取り直して歩きはじめると、しばらくしてエッジが大声を上げた。


「宝箱! あっちに宝箱発見!」


彼が指差した方向を見ると、洞窟の天井付近に、植物のツタに絡まった宝箱があった。


「おい宝箱は諦めろ。いまはお前のパンツを回収するのが先だ」

「えー! 駄目っすよ。目の前の宝箱を諦めるなんて、冒険者失格です!」

「お前なー! お前が冒険者を語るなよ」

「まあいいじゃないですか。遺失物は逃げませんし、冒険者になりたてなら、宝箱はきっと憧れがあるんでしょう」

「店主がいいならそれでいいが……」


ジェイドは渋々ながら頷き、エッジに向かって叫んだ。


「さっさととってこい。早くしろよ!」

「はいっ!」


エッジは意気揚々とツタを登りはじめた。先ほど穴を降りるのに使った太めの茎が幾重にも絡まって壁のようになっている。手足を器用に動かしながらするすると上っていく。

天井に着くと、宝箱に手を伸ばして表面を覆っているツタをちぎり取る。

それを見ていたジェイドがぼそりと呟いた。


「なんかすっげぇ嫌な予感がする」

「ジェイドもですか。実は私も」

「僕も……」


ダンジョン内にはいくつか罠が仕掛けられていることがある。

落とし穴があったり、天井が落ちてきたりとさまざまだが、よく仕掛けられている場所は宝箱周辺だ。宝箱に目がくらんで注意がおろそかになった冒険者から罠にかかっていく。

中には宝箱の中に魔物が隠れていることもある。


満面の笑顔を浮かべたエッジが、嬉しそうに宝箱の蓋に手をかけた。かちゃりと留め金の外れる音が響いてゆっくりと蓋が開く。

次の瞬間。


「ぎゃああああ!」


エッジの悲鳴が響き渡った。


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