移動する遺失物P①突然の訪問者
カフェに来ていた物静かな常連客が帰った後、僕は皿洗いをやっていた。
ミランダとメリンダは双剣の姿に戻って昼寝をしている。
穏やかな午後の静寂を破るように遺失物センターの前にある魔法陣が光り、いつものようにやってきたのはジェイドだった。
カウンター奥で珈琲を飲んでくつろいでいた店主が立ち上がった。
下の棚から、冷えたグラスとエールを取り出す。ジェイドがいつも飲んでいるものだ。
エールの栓を抜こうとした店主がふと手を止めた。
ジェイドの様子が少しおかしい。
苛立ちを隠そうともせず、顔を顰めたままこちらにやってくる。
「どうしたんだろう」
「珍しいですね」
僕は思わず店主と顔を見合わせた。
ジェイドはがさつなところはあるが、ここに来るときはいつも機嫌がよく、酒を飲んでも愚痴をこぼすこともない。
不思議に思ってよく見てみると、ジェイドの背後には若い男がいた。
ダンジョン帰りなのか二人とも服が汚れている。
ジェイドはその男の腕を引っ張り、引きずるようにして歩く。
そして店のドアを開けると、乱暴に男を前へ押し出した。
「ほら、自分でちゃんと説明しろ!」
「サーセン、団長」
ジェイドは男から離れると、カウンターのいつもの席に腰を下ろした。
店主がジェイドに水を差し出し、少し首を傾げた。
「どうしたんですか? 珍しいですね、人を連れてくるなんて」
「俺だって連れてきたくなかったさ。すまない店主。こいつは俺のパーティのメンバーなんだが、落し物をしちまった」
「落し物、ですか?」
「詳しくは直接聞いてくれ」
所在なさげに立っていた男が、がしがしと頭の後ろを掻きながら軽く頭を下げる。
「いつも団長がお世話になっています」
「ちげーよ、何を落としたのか自分で話せって」
促されて店主を正面から見た男は目を見開いた。
「うわっ、すんごく男前じゃないすか。身長も高いし、なんかシュッとしてる。そのダサいエプロンも逆にかっこいいっすね」
「ダサい……」
仮面のような完璧な笑顔を張り付けたまま、店主がぼそっと呟く。
意外と根に持つからあんまり余計なこと言わないでほしい。
「この人あれっすか、この間団長が話してた鳥の人」
「鳥?」
「お、お前余計なこと言ってんじゃねえよ」
「痛っ、サーセン」
店主を見て不思議なことを言う男に、ジェイドが焦ったように頭をはたいた。
男は眉を下げ、上の前歯だけを見せる独特な笑顔でへらへらと笑う。そして気を取り直して自己紹介をした。
「俺、エッジっていいます。団長のパーティの新入りです」
「ジェイドは団長って呼ばれてるんですか?」
不思議そうに店主がジェイドを見た。
冒険者のリーダーが団長というのは、どこか違和感がある。
「いや、こいつが勝手に呼んでるだけだ」
「俺、騎士団に入るつもりだったんすけど、間違えて冒険者になっちゃって」
「へえ……」
なんで⁉ 騎士団と冒険者って絶対に間違えないよね?
詳しく聞きたい僕とは対照的に、店主は深く聞かないことにしたらしい。面倒なことはなるべく避けて通りたいタイプの人だから、店主にとってエッジは面倒に映ったようだ。
だからすぐに本題を切り出した。




