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忘れられた落とし物②店主の謎

遺失物はすべて意思を持っている。ここにある遺失物はすべて、深い眠りにつくための封印が掛けられている。かつての持ち主を思い出し、つらい気持ちや寂しい思いをしないようにという店主の配慮だ。


「我々の中で一番耳がいいのはバルムンクです。頼りにしていますよ」


意外と面倒なことを嫌う店主にいろいろと押し付けられがちな僕だが、こういった頼られ方は素直に嬉しい。

僕は張り切って遺失物の山に足を踏み入れた。


整然と並んだ棚に、白い箱がぎっしりと置かれている。

目を閉じて耳を澄ませてみるが、どこからか吹く微かな風の音しか聞こえない。

封印が完全に解けたわけではないのかもしれない。


「困りましたね」

「アデラインって言ってたから、『逆行する草原』にあった遺失物を見てみる?」


遺失物の箱の前には、いつどこにあったのかという情報が記録された小さな紙が貼られている。


「ですが、彼女がダンジョンで落としたわけではなさそうなので、あまり参考にはならないかもしれません」

「じゃあ片っ端から見ていくしかないね」

「えー!」


不満の声を上げるミランダとメリンダを宥め、僕たちは手分けして探すことにした。

僕は右側の棚。

まずは箱の状態を見る。封印が解けかけているのなら、箱にも変化があるはずだ。


上から下、左から右へと調べていくがなかなか該当のものは見つからない。


「ねえ、バル。いつまでこんなことしなくちゃいけないのよ」

「飽きたわ」


左側の棚を担当していたミランダとメリンダがいつのまにか僕の近くに立っていた。棚の下段に足を延ばして座っている。もうすっかり集中力が切れたのか、探す気はなさそうだった。


「そうは言っても、せっかく持ち主が来たんだよ。持ち主の元に戻れるように協力してあげなきゃ」

「そんなに持ち主は大事なの?」

「私たちにはろくな持ち主はいなかったけど」

「あんなのを持ち主だなんていわないでよミランダ」

「そうね、ただの屑な人間だったわ」


魔剣であり双剣であるミランダとメリンダには、心を通わせた真の持ち主はまだいない。だから持ち主を大切に思う気持ちも彼女たちにはわからないのだろう。


「自分を誰よりも理解してくれて、相手のことも理解している。そんな相手がいたら最高だと思わない?」

「私たちみたいに?」

「確かに君たちは双子だからなんでも分かり合えるんだろうけど、もしも自分が持っている以上の力を引き出してくれる相手がいたとしたら?」

「自分が持っている以上の力……」


『時の牢獄』でジェイドが双剣を使ったとき、最初こそ反発していたが、はじめてとは思えないほど動きが一体化してどちらの力も存分に引き出せていたように思えた。

サラマンダー戦以降双剣がジェイドに使われることに異を唱えなかったのは、剣としての本能と欲求が満たされたからだと、同じ剣である僕は感じた。

双剣も同じことを考えていたのか、じっと何かを思い出すように黙っていた。


「そんな相手がいたら、素敵だと思うわ」

「そうね、考えただけで何か斬りたくなってきた」

「でも、人間は僕たちよりもずっと寿命が短いんだ」

「寿命?」

「すぐに死んでしまうってことだよ」


作業の手を止めずに僕は続けた。


「どんなに最高の相手に出会えても、すぐにいなくなる。人間というのはそういうものなんだよ」

「弱いのね、人間って」

「逆だよ。強いんだ。僕たちからすればあっという間に終わってしまう一生を、笑いながら生きられるなんて強い証拠だよ」


僕はたくさんの冒険者を知っている。彼らはよく笑いよく食べよく怒り、皆楽しくて美しかった。


「バルは封印されたいとは思わないの?」


楽しい思い出がある分、それがどうしようもなく胸を締め付けることがある。

だからここで眠る遺失物たちの気持ちがよくわかる。

だけどいまは……。


「僕は……店主と一緒に、君たちと一緒にいる遺失物センターが楽しいんだ」

「そう」


そっけなく双剣が相槌を打つ。それが彼女たちらしい。


「……ところで、店主は人間なの?」


メリンダが小さな声で訊ねた。


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