プライバシーは配慮しております⑤恋の行方
日記が届いてから半日ほど経って、店の前の魔法陣が青白く光りだした。
そこに現れたのは長身の店主が見上げるほどの大きなスキンヘッドの男。冒険者か荒くれものか区別がつかないほどの風貌で、耳や鼻、唇にはたくさんのピアスがついていた。珈琲を飲みに来たとは到底思えない。かといって日記の持ち主にも見えなかった。
彼は店に入ってくるなり、ずかずかと店主の前に立った。
「落としたもん、ここにあるかもって聞いて来たんだけど」
「ええ、何を落とされました?」
「……き」
「え?」
「日記!」
男がぶっきらぼうに言い放つ。
それに僕たちは誰からともなく目を合わせる。
目の前の男が、あの繊細で真面目そうな冒険者エリオだというのか。信じられない思いで彼を見る。
ということは、この無数のピアスってもしかして。
僕ははっとする。先ほど日記が言っていた、心が痛むと体に傷をつけるってのは、ひょっとしてこのピアスのことだったのか。
むしろどんどん外見がいかつくなり、女性を口説くには逆効果なんじゃないだろうか。
何とも言えない気持ちでそっと目を逸らした。
男はふとカウンターに目をやり、そこには例の日記が置かれているのを見つけた。
「これだよこれ」
奪うように手に取り、ぴたりと動きを止める。そしてゆっくりと睨みつけるように僕たちを見渡した。
「中、見てねえだろうな」
「もちろん。プライバシーには配慮していますから」
「じゃあなんでニヤニヤしてんだよ」
その言葉に思わず店主を見ると、隠しきれない笑いが零れている。
「いえ、もともとこういう顔なんです」
「いやぜってぇ見ただろ」
「見てはいません」
「なんだよその含みのある言い方」
店主は赤くなって怒る男を帰らせようと、半ば強引に背中を押して店の外に出した。
「無事に持ち主の元に戻ってよかったです」
「無事じゃねえわ! こっちは大火傷だわ!」
「だから見てないですって」
半笑いのまま店主が男を魔法陣に乗せた。
「あなたの幸せをお祈りしています」
「ほらやっぱり見てんじゃねえか!」
男の喚く声が転移直前まで響いていた。
彼はきっと、もう二度と日記を落とすことはないだろう。




