前を見ながら後ろを見る⑨またお願いします。
「もっと他になかったのかよ」
ぶつけられた額をさすりながらジェイドが口をとがらせる。事前に物理攻撃によって精神魔法が解けるという情報を教えてくれたのはジェイドだった。だが石を投げられることは想定外だったようだ。
「なぜだ!」
城主の声に皆が振り返る。
「この魔法を自分で解くのは不可能なはず。……おまえはなぜ動けたのだ!」
魔法を破られたことに驚いているのか、興奮して全身がわなないている。だが店主は完璧で美しすぎる笑みを浮かべた。
「とても面白い魔法でした。なんなら定期的にあなたと戦いたいくらいに」
「なんだとっ!」
「あの光景……後悔なんてものは、私にとってはむしろ忘れないように毎日毎日思い出すものなんです。いまさら捕らわれることなんてありませんよ。いいですか、過去を見ながらでも前に進む方法はいくらでもあるんです。あなたもいつか、このまやかしの世界から抜け出せるといいですね」
店主はそれだけ告げると急に興味をなくしたように手を伸ばし、炎を出し城主に火を放った。炎に溶けていく城主の表情はここからはわからない。無限に復活を繰り返す魔物に感情があるのかどうか、それは永遠に謎のままだ。
「あとは好きにしてください」
血の気の多い双剣とそれをうまく操るジェイドが城主を倒した後、僕たちはようやく店に戻ったのだった。
◇◇◇
そのバングルはある冒険者のものだった。
その冒険者は剣の扱いに長け数種類の魔法も使えた。向かうところ敵なしの彼は次々とダンジョンを攻略し、着実に経験を積み重ねてきた。冒険者の最高ランクであるS級に到達すると、国防や王侯貴族の護衛なども任されるようになった。それは冒険者にとっては最高の名誉であり、彼の名は広く知られるようになった。
だが彼はだんだんとその生活に渇きを感じるようになる。一生かかっても使いきれないほどの金銭、使用人のいる大きな家と動くことよりも見栄えを重視した上質な衣服。普通の人ならあこがれるはずのそれが、一層彼から潤いと熱を奪っていった。
強大な魔物に対峙した時の血が湧き肉が躍るあの高揚感を感じたのは、いつのことだったか。だが再びあの場所に戻るには年を取りすぎていた。
彼はある日突然王宮仕えを辞し、森の中の小さな小屋に隠居した。せめて人生の最後くらいはなにものにも縛られない自由な冒険者として過ごしたかったのだ。
しばらくして、そこに小さな少年が現れた。ニロという名のその少年は、彼に弟子にしてほしいと頼み込んだ。
あまりにも小さく非力な少年にはじめは断ったが、毎日毎日彼の小屋を訪ねてやってくるニロにとうとう彼は折れた。
そうして師匠と弟子になった彼らは十年以上の長い時間を共に過ごし、師匠は弟子に自分の持ちうる技のすべてを伝え、冒険者とはどうあるべきかという心得を教え、教示をもって生きていくことの大切さを諭した。弟子はそれらをすべて漏らさず吸収し、師匠を誰よりも慕い、尊敬した。
バングルは誰よりもそばでそんな彼らを見守ってきたのだ。




