最終話 婚約破棄第2ラウンド ②
「シャーロットを出してくれ、僕が迎えに来た!」
「な、シャーロット様はお亡くなりになられている!お前は何者か?」
取り押さえられた老人は、かなり色あせているが、派手な貴族が好きそうな服を着ていた。
シャルロットを見ると、ニコライはシャーロットと誤認した。いや、もう自分のみたい光景しか見られなかった。
「何だよ。シャーロットは生きているじゃないか?僕だよ!ニコライだよ!やり直そうよ!」
・・・シャルロットは、シャーロットの聡明さを引き継いでいた。ある事実から、物事を推察する能力。
ニコライの名とその派手な服で、全てを察した。
「シャーロット、僕と再婚約をしよう!僕と結婚すれば、賎民から抜け出せて、差別をうけなくなるよ!
君と結婚出来れば、僕は、家に帰れる。父上と母上、兄上と義姉上と暮らせるんだ。皆、いい人だ。シャーロットも気に入っていただろう」
「お前、何を言っている。無礼にもほどがあるだろう!」
「お嬢様、お下がり下さい」
と護衛騎士が止めにかかるが、
シャルロットは、シャーロットの気持ちを代弁しなければならないと強く感じた。
「ニコライ・・・という名は帝国系の名前ですね。貴方は、もしや、名無しの伯爵家?」
「うん?僕の家名は伯爵だよ。伯爵は伯爵だよ。屋号は特にないよ」
「「「??????」」」
・・・帝国から、王国に亡命してきた貴族がいた。
帝国で政争に敗れて、王国に一族で亡命したが、王国での功績があるまで、家名を公表することは禁じられた。というか名乗れなかった。
当時、最盛期の帝国は各国に侵略の手を伸ばし、近隣諸国は帝国人に深い恨みを抱いていた。
「あのね。スペンサー家はとうの昔に、差別はされていなかったわ。
パーマス子爵家など功績がなく、貴族の血しか誇りのない。貴族血統主義以外にはね。彼らは自分の派閥以外は見下していたわ。貴方の一族の方が差別されていたの。
身に覚えがない?貴方は伯爵家なのに、騎士爵家以下の友達しかいなかったのじゃない?
例えば、あの時代、派手な服を着て、無頼を気取っていた片手のマックスとか・・」
「ううう、何を言っている・・何を、マックスは片手じゃない。良い奴だ」
・・・そう言えば、皆、僕をニコライとしか呼んでいない。伯爵家以上の者は話しかけてくれない。こちらから、話さなければ答えてくれない。
いちいち面倒だから、平民やマックスたちと友達になったのだっけ?
あっ、シャーロットと一緒のときだけ、話しかけてくれた?
「また、難しい事をいって、煙に巻く。シャーロットの悪いクセだよ。どうしても婚約をしてくれないのなら、僕は死ぬ!」
ニコライは父からもらった自裁用の短刀を取り出す。
「「お嬢様、お下がり下さい!」」
しかし、シャルロットは下がらない。
「貴方が死ねば、貴方は私と結婚できるのですか?」
「う、うるさい。黙って見てろ!」
「分かりました。見て差し上げましょう。男子の本懐お示しなさい!」
「ううううううう、本当にいいの?いいの?いいの?」
ニコライは、首に短刀を当てたが、少し血が出ると、驚いて、短刀を落した。
「今だ、短刀を取り上げろ!」
ニコライは死ねなかった。
シャルロットは、執事に命じる。
「衛兵隊に連絡は不要です。救貧院にいれてあげなさい。問題があるようなら、私に連絡を、父上には後で私が報告します。
このことは他言無用というほどでもありませんが、職務上必要で、詳細を知りたいのなら、私が説明します」
「「「はい、お嬢様」」」
・・・曾お婆様の尽力で、名を回復した家門があったわね。スペンサー家の本領の隣の・・何故、曾お婆様が尽力したのかわかった気がする。
おそらく、ニコライが差別すら感じなかったのは、愚鈍さもあるけど、ニコライのお父様は差別されているけど、差別されていると主張しない気高い人だった。
曾お婆様は、そういった人は見捨てられない。優しかったのね。
だから、ニコライを犠牲にして助けようとした?
「そんな。母上は平民出身、兄上は、探しまくって、ようやく小さな商会の六女の義姉上と婚約できた。
イザベル様も、王子たちも、僕を名無しの伯爵と罵倒しなかったよ。何故、お前は今になって言う?お前が名無しの伯爵と罵倒しなかったからこうなった!家族バラバラだ!ウググゥお前のせいだ。結婚しろよ!」
・・・どんなに豊かになっても、一定数貧しい人がいるわね。
経済的に、理不尽な差を無くそうとする努力はするべきだけど、心の問題は、どうにもならないのね。
シャルロットは護衛騎士に命じた。
「待って、連れて行く前に、その派手なマフラーを貸して下さらない?ロバート、お願いします」
「?はっ」
戸惑いながらも、護衛騎士は、ニコライのマフラーを取り、シャルロットに手渡そうとしたが
「お嬢様、お勧めしません。その・・臭いです」
「いいわ。すぐに終わる」
シャルロットは、自身の首に巻き。すぐに取った。
「さあ、ニコライ、これは私が身につけたマフラーです。結婚はしてあげられないけども、これを私と思って、無聊を慰めなさい」
「うううううううう、うわーーーー、中途半端に優しくするな!もっと優しくしろよ!厳しくしろよ!僕を見捨てるなよ!」
ニコライは、号泣しながら、貧救院に連れて行かれ、以後、シャルロットと二度と会うことはなかった。
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