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夢と現実の交錯の中で・その3

その翌日。


セキエイはスーツ姿に菓子折りを持って、昼過ぎの校舎へ向かっていった。


眠いな。セキエイは聖太子第一学園に向かう途中に、寄り道をしてカフェでコーヒーを購入した。平日の昼間だというのにカフェは混んでいた。インキーブラックと言われるほど真っ黒で、インスタントで、練乳で味付けをするアジア特有なコーヒーよりも、エスプレッソが好きだった。


そういえば昔、イタリアでアンと飲んだコーヒーが美味かったな。あいつ虫歯あったくせにジェラート食いまくって、歯が痛いって騒いだっけ…


セキエイはコーヒーを飲みながら昔話を振り返りたかったが、そのような余裕はあまりなかった。


ゴミゴミとした街中を颯爽と歩く。セキエイは街歩きが好きだった。ヨーロッパの石畳もアジアの狭い道も、毎日通う道でも、どこでも。


残念ながら今は時間がない。セキエイは紙カップを、近くにあったゴミ箱に押し込んだ。


コーヒーを飲んだのに、頭の中はイマイチすっきりとしない。昨日の夜はなぜか忙しかった。


夜勤明けで、家に帰ってきた家のポストに投函されていた手紙を見て、喉の奥に魚の小骨が突っ掛かったかのように気持ちが悪くなっていた。


敢えてすぐには開かずにモヤモヤしたまま、朝一でヒスイの元にいるアンのところへ寄った。それに、アンから見てくれと言われた、あの綾港の夜景の絵も。セキエイはその2つをアンと見た。


アン、セキエイ

「嘘だろ…」


2人は手紙から目を離して、互いを見つめ合う。見たことのない数字がここに出ていた。


手紙はESPC本部からのものだった。ヒスイの、エスパーとしての審査が終わったのだ。その結果である。


アン

「ランクS+って、今までいたか?僕はSが2人とA+1人しか知らないぞ…」


アンは目をシバシバさせながらセキエイに尋ねた。セキエイの返事は、テーブルホッケーのスマッシュのように早い。


セキエイ

「いねーよ。何だこれ。もう、俺も天眼も手に負えねーよ。」


セキエイの指先が、震えていた。珍しいな、エイジがここまで動揺するのも。セキエイに比べて、アンは比較的冷静だった。


アン

「1人なら無理さ。2人で負えばいいだろ。何をそんなに悩む必要がある。」


アンは、すぐそばで安らかに眠っているヒスイを、柔らかい眼差しでそっと見つめた。


アン

「あの子は昨日、僕に言ったんだ。せっかく力があるなら誰かを守りたいってね。まぁ、そのせいで、第三者にヒスイがエスパーだとバレてしまったけどね。」


セキエイ

「何かあったのか?竜巻か?」


アンは、ゆっくりと首を横に振った。


アン

「違うよ。ジンさん覚えているか?出版社の人の。あの子は、ジンさんを守ったんだよ。」


アンはヒスイを見つめたまま、昨日のことを思い出していた。


アンは昨晩のジンとのことを、セキエイに話し始めた。



時系列が飛んで申し訳ないがここからは、昨晩の話だ。一頻りジン達から、何があったのかをアンは聞いた。


アン

「そうですか。ジンさんが無事なら、それが一番です。」


アンはジンの女性の割に少し広い肩に、そっと手を置いた。


アン

「お怪我がなくて何よりです。」


ジン

「あ、ありがとうございます…」


ジンは、力なく笑った。


ヒスイ君に比べて、私は無力だ。ジンは恥ずかしさと情けなさが相まって溶け込んだ、シェイクのようなドロドロの感情を胸に抱えていた。


ジン

「助けてもらってばっかりですね、私。仕事だって、おふたりがいなかったらどうしようもなかったし、今回だって」


アン

「そんなの、誰だってそうですから。僕なんか役立たずで存在感のあるもないですよ。それでも良いなら、いつでも。」


アンはジンの曇り空を吹き飛ばそうとした。その効果は抜群だった。あの2年前のスラム街、突きつけられた鉛のおもちゃの音、唇に食い込む白い布、痺れかけた足。その全てが走馬灯のように、ジンの頭の中を駆け巡った。


ジンの目頭は、熱くなった。


ジン

「もう一度、助けてください。2年前の尖沙西、私はあなたを忘れてはいません。」


アン

「えっ…」


馬鹿な。アンは、自分の耳を傾け疑った。もちろんアンは、その件はハッキリと覚えていた。


ジン

「あなたは自分が思っているよりも、誰かを助けています。私は、あのデモ以来、あなたをずっと探していましたから。」


アンは、ジンから目を離すことができなかった。


思い出話はここまでだ。現在に戻る。


セキエイ

「なるほどね。そう言われちゃうとなー。俺ならもう、何も言えねーよ。」


セキエイは風のような小さな声でつぶやき、寝返りを打つヒスイを見た。


アン

「あの子は優しいんだよ。誰に似たのやら。あ、ジンさんの記憶は一部消させてもらったよ。念のためね。学校での喧嘩も、僕は気にしないで通うってさ。このままの性格で、エスパーとしてやっていければいいが…」


セキエイ

「それこそヒスイ次第だな。あと。」


アン

「?」


セキエイはクスッと笑ってアンを見た。


セキエイ

「性格は母親ソックリだな。泣き虫で感情的で、優しいのに頑固だ。」


そうか?とアンも笑い、負けじと言い返した。


アン

「不器用で優しいところは、君似じゃないか?」


2人は見つめ合い、こみ上げた照れを隠すために、クスクスと声を合わせて笑った。


ヒスイ、起きろ。セキエイは冗談のつもりで、テレパシーでヒスイをからかった。ものの数秒で、ヒスイの体はピクリと動き、ノソノソとランクS+のエスパーは目を覚ました。



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