奥門にて
翌朝、目が覚めたアンの目元は湿っていた。
あれからセキエイとヒスイの在り処を割り出すことは容易いことだった。2年間の悩みが嘘みたいに晴れた。
日本に帰ったのかと思った。奥門は綾港の隣の国である。入国審査はあるが実際はほぼ同じ人種で占められている、近くて遠い国だった。
アン
「…」
アンはゆっくりと体を起こし、その足でそのまま冷蔵庫へ向かった。冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出して口をつけた。眠い。時刻は朝で、大きな窓からは強い日差しがアンの白い肌を舐めた。
奥門での火災で、アンはセキエイとヒスイから離ればなれになった。
セキエイ
「逃げろ」
そう叫ぶ火だるまを最後に、アンはセキエイの姿を見ていない。目が覚めたときにはすでに病院のベッドの上だった。
そこからが本当の地獄が始まった。もう忘れろ、周りの言葉をすべて踏みしめてアンは殺し屋を続けながらセキエイ達を探した。
アン
「これは見つからないな。すべてデータを変えてる…」
アンは厳重にロックのかかったパソコンを指で遊んだ。
アンは昨晩のことを思い出していた。あれから夜が明けるまで、アンはゴーと話した。
ゴー
「どうするんだ?ハンはやるのか?」
アン
「ハンはとりあえず、見つければいいんだろ?ならやるよ。」
ゴー
「もう1人は」
ゴーはアンの弱味を握るかのように、不敵な笑みを浮かべた。
アン
「…受けない。彼に僕のやり方は通用しない。」
アンはむっとしながらつぶやいた。まるでやんちゃ坊主が、クラスメートの女の子をからかっているかのようだった。
ゴー
「じゃあ、誰なら出来るんだ?紹介してくれよ。マージンは出すからさ。」
嫌な奴だな。アンは思った。だがここは仕事、アンも割り切った。
アン
「いない。いくら積まれても、多分誰も引き受けない。」
ゴー
「ここは道場破りでもしてみたらどうだ?」
ゴーの提案は、まさに悪魔の囁きだった。
センリガン。セキエイの生まれ育った国ではそう言うらしい。
掌を太陽に翳すと血管が透けて赤く見える。そんな感じでアンには狙った人物の全てを見透かすことができた。
透視、念力、瞬間移動など、そのような特殊能力をもつ人を、人は超能力者つまりエスパーと呼ぶ。
アンはまさしくそれだった。
それ故に血と涙を流した人々も多い。ショーヨム・アンデシンの先祖は西洋の魔女であり、苦渋を飲んだ一族でもある。
こんな力があるから悪いんだ、だから僕は…
アンは手元にある薬の束を握りしめた。
もう嫌だ、ようやく人並みの幸せを掴んだのに。僕はまだこの世界から抜け出せないでいる。
エイジは?ヒスイは?…あぁ、今、平和に暮らしてるんだ。
僕なんか、いない方がいいのかもしれない。その方がきっと…
と、アンの携帯電話が鳴った。




