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対決の場

天眼

「へぇ、おもしろいな。エスパー同士の子どもはエスパーねぇ。」


3人は天眼の事務所にいた。一頻りセキエイから話を聞いた天眼は、飲み終わったコーヒーの空き缶を握りしめ、セキエイの話にうんうんと相槌を打っていた。


セキエイ

「困ったことに、ヒスイはまだ完全に自分の力をコントロールしきれていない。」


セキエイは振り返ると、ヒスイと目が合った。ずっと緊張していて、疲れたのだろう。どこか目は伏せがちで、セキエイに視線を送っていた。大丈夫だ。そう言わんばかりに、セキエイはヒスイの茶色い髪をそっと撫でた。


天眼

「ただ、俺はもう力を使ってないんだよねー。相手になるかな?」


セキエイ

「お前はうまくあそこから逃げたよな。それで正解だけどさ。」


セキエイが言うと、天眼はフッと嘲笑った。


天眼

「ちっとも上手くなんかねーよ。ほれ、見るか」


セキエイ

「?」


天眼は、着ていた上着を腹の部分からそっとめくった。


天眼

「お前は医者だからわかるだろ?」


天眼の腹の中央から少し左に、袋がついていた。


セキエイ

「ストーマか。」


天眼

「ぴんぽーん。九死に一生を得た、ってところかなー。」


天眼は、再び上着を下げて腹を隠した。


ストーマとは、人工肛門である。


セキエイは、ぐっと眉毛を曲げる。まだまだ、セキエイの頭の中でぐちゃぐちゃといろんな思いが混ざっていた。


セキエイ

「ヒスイをESPCに報告したくない…」


天眼

「ま、そりゃそうだと思うよ。アンちゃんも嫌なんじゃない?俺は1番上手く逃げたのは、お前だと思うけどね。」


天眼はそう言うと、ふぁっとあくびをした。


天眼

「しっかしお前、丸くなったな。子どもってすごいなー。昔は超尖ってて、俺とアンちゃん以外寄せつけなかったのに。」


天眼はセキエイをからかった。


天眼

「俺はもう、結婚は諦めているよ。ゲーセンの店長として、頑張って生きるか。」


セキエイ

「……」


セキエイは後悔した。そして、心の中でアンに謝った。多分今の天眼の心境は、恐らくセキエイが1番わかっているだろう。


もう力を使いたくない。過去を思い出したくない、それなのに、頼んでいる。それは頼むセキエイも辛かった。


アンも自分に力を使ってと頼んだ時、同じ思いをしたはずだ。


セキエイ

「天眼、嫌なら無理をしなくていい。」


セキエイは、つい謝った。


天眼

「いーよー別にさ。俺も気になるんだよ。ヒスイ君のこと。」


セキエイ

「?」


天眼は意外と乗る気だったことに、セキエイは少しびっくりした。


天眼は椅子から立ち上がり、両手を組んで天井に向かってクーッと背伸びをした。


天眼

「俺より強そうな奴に会いたかったし。行くか?」


3人はテレポーテーションをして、どこかにやって来た。


仄かに木漏れ日が差し込む、美しい森の中。小鳥は囀り、落葉樹は葉を落とし、人っ子一人いる気配はない。歩くと落ち葉が、カサカサと存在を主張した。亜寒帯気候の冬の光景が、目の前に広がっていた。


ヒスイ

「どこ?ここ…」


甘えん坊ヒスイは、パパにくっついたまま、キョロキョロとミーアキャットのように辺りを見回していた。


セキエイ

「俺もわからん。天眼、どこだよ?」


天眼はセキエイ達の向かい数メートル先に立っていた。セキエイは声を張り上げていた。そうしないと、届かない。


天眼

「俺の田舎。安心しろ、時は止めた。騒いでもだーれも来ねーよ。」


これくらい、余裕のようだ。天眼はまた、グーっと背伸びをした。


天眼

「ヒスイ君。遠慮はいらないよ。遠慮しても、君が傷つくだけだよ。セキエイ、審判を頼むなー。」


天眼はそう言うと、2人に向けて手を振った。


セキエイ

「ヒスイ、行け。お前の力を入れ見せつけるんだ。あいつは強いから、気にしなくていい。ぶつかってけ。」


セキエイは、ヒスイの背中をポンと叩いた。


ヒスイ

「う、うん…」


セキエイ

「よーい、始め。」


セキエイは、そう叫んだ。


天眼

「おっしゃ!行くぞ!!」


天眼は右手を握りしめた。瞬時に前に差し出す。ブワッとアルコールをかけたかのように、火炎放射がヒスイを襲った。


ヒスイ

「あっ!」


天眼

「おー、動きが早いね!」


ヒスイはとっさにテレポーテーションをして、炎を交わした。そのまま近くの木の枝の上に飛び乗る。


こまめに動くヒスイとは違って、天眼はその場に止まったままだった。あいつ、まだ余裕だな。セキエイは天眼を見て思った。


天眼はチョコチョコと飛び跳ねるヒスイに、次々と火炎放射を食らわす。しかし、次の瞬間に、ふとその場から姿を消した。


あれっ?…ヒスイは一瞬、戸惑った。こっちに行くと思ったのに…天眼の動きを予知していたのに、そこに天眼がいなかったからだ。


天眼

「いや、君の予想で合ってたよ。」


ヒスイ

「?!」


天眼は、ヒスイの目の前にいた。


ヒスイ

「はっ!!」


ヒスイも天眼に負けじと手を伸ばし、火炎放射を手のひらから食らわす。勝負は互角だったようだ。炎は互いに飲み込みあい、消えた。


天眼

「俺も予知が出来るんだ。お互いがどう来るかお互いわかるから、さっきは同じところに着いた。発火能力は、アンちゃん並みに強いね。」


そう言うと、またしても天眼は姿を消した。


おー。まだまだ手加減してるな、天眼。セキエイはコッソリと木陰に隠れて、目を閉じていた。透視で現場を探っていたのだ。ヒスイ、どうした。お前もまだテンパってるな。じっとはしているものの、セキエイは内心ハラハラしていた。


ヒスイ

「どこいっちゃったんだろう…そうだ」


ヒスイはキョロキョロと天眼を探していたが、あることを思いついて、すぐに目を閉じた。


ヒスイ

「あっ!」


ヒスイはふと天眼を見つけ、その場から逃げた。


地響きは刹那だけだった。地面がゴボッと盛り上がり、火山が噴火したかのように落ち葉は舞い散り、地面に穴が開く。土石流が宙を舞うヒスイに向かい、激しく飛んで来た。


ヒスイ

「そうだ。」


ヒスイはゆっくりと土石流に向かいながら、ぐっと拳を握った。


セキエイ

「はっ!?」


セキエイと天眼は、同じタイミングでがっと目を開き、その場で動きを止めた。その途端に、天眼がヒスイに向けた土石流は、念力により風に乗って、木っ端微塵に吹っ飛ぶ。


よし、やってみよう。ヒスイは作戦を決行した。


「隙あり。」


天眼の前に、スカート姿の何者かが翻りながら、宙を舞っていた。


「…君の負けだ。」


天眼

「くっ…」


天眼は誰かに押し倒された。仰向けに倒れた天眼の上に馬乗りになっていたのは、まさかのアンだった。


セキエイ

「おい、どうなってるんだ!?」


セキエイが駆けつけると、そこにはアンに押し倒されている天眼がいた。


天眼、セキエイ

「あれ?」


アンは一瞬で天眼から体を離れ、あっという間にヒスイに戻った。


ヒスイ

「ちょっと、精神操作してみたんだ。ダメだよ、2人ともぼーっとしていちゃ…」


アンの姿から元に戻ったヒスイは、何事もなかったかのようにケロッとしていた。


天眼

「あっ、アンちゃんのパンチラ!!ウヒョー!!」


セキエイ

「………」


負けたくせに、即座に身体を起こして飛び跳ねる天眼を見て、セキエイは呆れて何も言えなかった。


セキエイ

「どう考えてもお前の負けだ、天眼。」


セキエイ達3人は森から離れて、またあのゲーセンの地下の事務所に戻っていた。


そして、先ほど同様、3人仲良く横並びに座る。流石にもう、ヒスイの天眼に対する恐怖は薄れていた。


天眼

「ムフフ、アンちゃんのパンチラゲットだぜ!」


セキエイ

「うっせーバカ、俺とヒスイの前で、いつまでも浮かれてんじゃねぇ!」


セキエイは腕を伸ばし、天眼の頭を軽く叩いた。


ヒスイ

「…あの勝ち方でよかったの?……」


セキエイがあまりに天眼にイライラしているためか、ヒスイは苦笑いをしながらセキエイに尋ねた。


セキエイ

「いや、あれでいい。完璧だ。いわゆる精神操作の幻覚を使ったんだろう?敵に合わせた勝ち方を試すのは、立派なストラテジーだ。」


それを聞いた天眼は、


天眼

「っておい、俺は子ども以下か!」


と、腑に落ちないと言わんばかりにセキエイに突っかかった。


セキエイ

「おせーよ!早く気付け!」


喧嘩するほど仲が良いのか、この2人の口論?は絶えなかった。


しばらくして。口論も落ち着いたところで、


天眼

「まぁまぁ、お茶でもどーぞー。」


と、天眼は、2人にペットボトルのお茶を渡した。


セキエイ

「なんか申し訳ないなぁ、ありがとう。いただきます。」


セキエイは、天眼からお茶を受け取って、ヒスイに1本渡した。


天眼

「いいって。こちらこそ中国菓子ごちそうさん。」


ヒスイ

「いただきまーす!」


3人は事務所で一服をした。その後、疲れなのか、セキエイ親子が猛烈な眠気に襲われて、倒れるまでは時間はかからなかった。






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