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アキハバラ、トウキョウ。

…うー、来ちまった…


非常に天気の良い朝である。それなのに、セキエイの表情は晴れない。その理由は、すぐにわかるが。


ここは日本の東京都千代田区にある秋葉原。


セキエイの祖国だ。


セキエイがいたのは小学校の高学年までだったが、まるで昨日までいたかのように街に溶け込んでいた。


ヒスイ

「パパ~、ここ、どこ?これ、外したい」


ヒスイは人混みの中を、セキエイと離れないよう必死に着いてきていた。出来立てのパスポートのコピーポーチに入れて、首からかけていたため、首が重い。


セキエイ

「それは絶対に外しちゃダメだ。」


まー本物は俺が持ってるんだけどな。でもヒスイも、これから海外に行かなきゃいけないし。練習させないとな。セキエイはヒスイの手を握り、人でごった返す山手線を降りた。


ヒスイ

「…すごい…電車いっぱい…」


初めての日本は、何もかもが新鮮だった。ヒスイは駅にある電車の路面図を見つめた。迷路のように入り込み、ヒスイの神経細胞もうまく情報を飲み込めない。


セキエイ

「パパから離れるなよ。離れたらもう見つからないぞ。」


ヒスイ

「うん。気をつける。」


この混雑ぶりを見て、ヒスイもすぐにわかったようだ。ヒスイはぐっとセキエイの手を強く握った。


2人は電気街口を降りた。


昼間だというのに綾港にも負けず、看板がギラギラ輝いている。ゴミゴミした圧迫感は負けなかったが、日本の方が道が広く感じた。


ヒスイ

「パパ、僕、日本語大丈夫かな?」


右斜め下にあるヒスイの顔から、すでに不安が滲み出ていた。お前はすぐに顔に出るな。誰かさんにそっくりだ。セキエイはそんなヒスイの一面もシフォンのように包もうとして、先ほどよりも更に強くヒスイの手を握った。それなのにこの不器用な男は、


セキエイ

「おじいちゃんと話せただろう?大丈夫だ。」


ヒスイ

「パパ、痛いよ。」


セキエイ

「ヒスイごめん。もう着くから。」


セキエイは手の力をニュルッと緩めた。どうも力加減がうまく行かなかった。


2人は電気街口をしばらく道なりに進んだ。待ち合わせ場所は少々分かりにくいところにあった。1階は賑やかなゲームセンター、そこの地下だった。明るい音楽がかかり、可愛い人形がシャボン玉のような入れ物に山積みになっているUFOキャッチャーが所狭しと並んでいた。そこに、子どもたちが集まっている。これにはヒスイも目が釘付けになってしまう。


ヒスイ

「わぁ!パパ、あれなぁに!?」


羨ましいほどに不安をかき消し、ヒスイはUFOキャッチャーの中の熊の人形を指差す。


セキエイ

「ゲームだよ。急いでるから、後でな。」


セキエイはヒスイのおねだり攻撃を、なんとか交わした。


ゲームセンターの1番奥にある狭くて暗いエレベーターは、今にも止まりそうだった。この建物も古いのだろう。そこへ着くとセキエイは、悪霊に取り憑かれたかのように、急に足取りが重くなった。


セキエイ

「…ヒスイに会わせたくないんだけどな…」


エレベーターは、ゆったりと止まり、開いた。


「ここで会ったが100年目!関瑛司!覚悟しろ!!!」


エレベーターを開けてすぐに、何者かが扉の前で待っていた。扉が開くや否やその男がセキエイ達を怒鳴りつけた。そのせいで、


ヒスイ

「えっ!な、なに、今の人!!」


と、ヒスイは体をビクつかせ、セキエイにひっつく。


セキエイ

「………」


セキエイは顔色ひとつ変えずに、すぐに扉を閉めた。これには男も慌てた。


「お、おい!!閉めるなー!!」


セキエイ

「パパ、間違えちゃった。」


セキエイは1階のボタンを押した。ヒスイはまだ、セキエイの足に蔓の木のように体をつけている。


ヒスイ

「えっ、でも、パパの名前を呼んでたよ…」


セキエイ

「気にするな。あれは妖精だ。」


セキエイ達の乗ったエレベーターは、チンと鳴って1階に到着した。


…相変わらずバカだなぁ…


セキエイ

「ヒスイ、下がってて。」


セキエイはまるで変わっていないライバルの姿にため息をつきながら、ぎゅっとセキエイのデニムを握るヒスイの頭の上に、手のひらを置いた。


そして、カタンという音を立ててエレベーターは開いた。


日本語で書かれたTシャツに首元にタオルをした、眼鏡に無精髭でぽっちゃり体型の日本人が腕を組んでエレベーターの前で仁王立ちをしていた。全く可愛くはないが、例えるなら熊の人形のような男だった。


さっきの人だ。


ヒスイ

「ひぃっ!」


ヒスイはこの男に果てしない恐怖を感じていた。


「関くーん?…」


男は脅し口調で、2人の真ん前に立つ。


セキエイ

「降りるんです~どいてください~」


セキエイは無表情で、スタスタとエレベーターから出た。もちろん、男は黙っちゃいない。


「ってオイゴルァ!!テメェとの決着もついてないのに頼み事だぁ!?舐めとんのかぁ!!」


男は低い声を更に低くして、素通りしようとしたセキエイの左肩をガッと掴んだ。


もちろん1階は先ほどのゲームセンターだ。客が3人だけなわけがない。ゲームセンターの中自体が音が大きいため、男の声があまり響いていなかったことが救いだった。しかし、ヒスイはもう完全にビビってしまっていた。


「…ん?その子は?」


男はヒスイに気づき、声のトーンを落として顔を近づけた。しかしその刹那はヒスイにとっては恐怖度マックスだった。


ヒスイ

「やっ!やだっ!!パパ!」


セキエイ

「俺の子。お前が馬鹿でかい声を出すから、ビビってんだろーが。いいから下に戻るぞ。」


自分が1階に来たにもかかわらず、セキエイは左肩の手を払ってエレベーターへ戻った。


「お前の子だぁぁぁ!?いつの間にぃ!!?」


セキエイ

「うるせーなー…」


面倒くせーな。セキエイは、またまたため息をついた。


あれから3人は地下に戻っていた。地下は事務所のようなところだった。建物は古く狭いためか、ドアtoエレベーターのような感じで、エレベーター前には廊下とはいえないほどの廊下と事務所らしき地味なドアがいくつかあるのみ。広さはまるで、玄関の靴置きだった。


そのわりにはドアや事務所の中は小綺麗だった。この男、意外に?綺麗好きである。


「まー飲めや、関瑛司とそのご子息。」


どこから買ってきたのか、男こと天眼はセキエイにコーヒー、ヒスイにオレンジジュースを渡した。


セキエイ

「いつの間に買ってたんだよ。予知か?ありがと。」


セキエイは営業所という名のこの部屋に通され、会社にある2つのデスクの椅子を出してヒスイと並んで座った。そして、天眼から紙パックのジュースとコーヒーを受け取った。


セキエイ

「っていうか、何でフルネームなん?武田天眼。」


男の名は武田天眼という。エスパーだ。天眼は缶コーヒーのプルタブを、カチッと音を立てて開けた。


天眼

「セキエイって呼んでたなー、そういや。何となく、今日は2人来るなーって姿は見えた。けど、やっぱり力を使うのは疲れるな。」


天眼はそう言うと、セキエイ達の隣の椅子に座り、先にコーヒーに口をつけた。セキエイを挟んで、3人仲良くならぶ形になった。


3人はのんびりここで一服をした。営業所はデスクはたくさんあるが、まるで人がいなくガラーンとしていた。しかし、なぜかアイドルらしきポスターが壁一面に貼ってある。しかも地下のためか窓もなく、時間がまるでわからない。窓が欲しいな。こんなとこ、1日いたらおかしくなりそう。コーヒーを飲みながら、セキエイは辺りを見回した。


セキエイ

「相変わらず、趣味悪いな。」


セキエイは事務所を見て、苦笑いをした。


天眼はその言葉に、ピクリと耳を傾けた。逆鱗に触れる言葉の1つであったが、我慢したらしい。セキエイのつぶやきに返事をした。


天眼

「あーん?いいだろ!?お前も子ども作ってるだろ。」


それを聞いて、何を思ったかセキエイはフッと笑う。


セキエイ

「あのなぁ、子どもの前でそんな話はすんなよ。」


ヒスイは天眼を怖がっているようだ。せっかく貰ったジュースも飲まずにいた。そんなヒスイの不安を消そうと、セキエイはヒスイの持っていた紙パックのジュースにストローを挿した。


天眼

「で、いつ結婚したんだよ。知らなかったぞ?」


セキエイ

「まじで?もう10年も前。」


セキエイは、ヒスイにジュースを飲ませた。


天眼

「はぁ!?相手誰だよ!?」


天眼は更に機嫌を損ねたようだ。ぶすーっと頬を膨らませた。


セキエイ

「…………」


そうきたか。うわー、言いたくねー!セキエイは頭を抱えた。


しかし。天眼はチラッとヒスイの顔を見て、気がついた。あの人にそっくりだったからだ。


天眼

「僕、ママの名前は?」


と、ようやくジュースを飲もうとしたヒスイに聞いた。


ヒスイ

「ア、アンデシン…」


天眼

「……」


この一言で、風林火山ならぬ武田の火山は大爆発することになった。


あっ!と、とっさにセキエイは、


セキエイ

「きたねーぞ!」


と天眼に叫んだ。しかし時、すでに遅し。


天眼

「…テンメェェ…」


やべ。セキエイは口元を引きつらせた。


天眼は立ち上がり、ガッとセキエイの胸ぐらを掴んだ。


天眼

「アンちゃん!?エスパー界のアイドルに手を出すなんて貴様ぁぁ!!」


天眼は僻みと怒りにまみれた。


セキエイ

「う、うるせーなー!いいだろ別に!」


セキエイも言い返すが、


天眼

「黙れ!許さん!ゆるさーん!!」


天眼は、言うだけ言ってそっぽを向いた。わかりやすい男である。


…そうかと思ったわ。


こういうこともあろうかと用意していたセキエイは、天眼にある小さい封筒を渡した。


セキエイ

「そう思って、お詫びを持ってきたわ。これやる。」


天眼

「?」


むすっとしたまま椅子に座り直した天眼は、セキエイからただの茶封筒を受け取って、ちらっと中を見た。するとここで状況は一変する。


天眼

「よろしい。用件は何だ?」


封筒の中身を見た天眼は、一瞬にして普通の顔に戻った。


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