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港の見える丘

花は美しい。


アンは古びた石の十字架を見つめながら、足元の写真のすぐ隣に花束を供えた。


どぎついピンク色で大きくて、それでいて元気で存在感のある花。名前は…なんだっけ。忘れた。でも、あなたみたいな花。アンはそっと手を合わせた。


綾港の墓は、写真が飾られている墓が多い。ここは街中の公共墓地。アンは写真の中の恰幅の良い女性を見ると、荷物を持って墓を後にした。


あぁ、思い出した。トボトボと墓の中を歩きながら、アンは花の名前を思い出していた。アスターだ。花言葉は、変化…


アンは足を止めて、夕焼けを見た。その花言葉が、妙に言葉に刺さった。


瑪瑙姐めのうねぇというアンが慕っていたベビーシッターが亡くなって、もうすぐ20年が経とうとしていた。この頃、アンはすでにエスパーだった。そんなアンを受け入れてくれた、初めての人だった。


瑪瑙姐

「あんたはね、ただ、敏感なだけなんだよ。冬になりゃ、誰だってバチバチと静電気が起こって火花が見えるだろう?それが人よりちょっと強いだけだよ。」


瑪瑙姐はゲラゲラ笑うと、小さなアンの肩をバシッと叩いた。


よく笑い、よくしゃべり、でも、本当は繊細な人。


瑪瑙姐、僕ももう、当時の僕くらいの子どもがいますよ。でも、いくら頑張っても、あなたみたいな立派な母親になれそうもない。


誰もいない墓地で、アンは夕焼けを眺めていた。


昔から思っていたことは、すぐに叶った。思い通りに人も、物も、動かせた。それはごく普通のことと思っていた。だが、そうではなかった。


アンは辺りを見回して、瞬間移動をした。


セキエイの家に着いたときは、まだ誰もいなかった。携帯電話には、ヒスイとセキエイからメールが入っていた。


アンは台所に立って、手を洗い食事の支度を始めた。ひとり増えるのか。米、多めに炊かなきゃな…

いつも作っていた量よりも多く、少しだけ新鮮な感じがした。瑪瑙姐はもっと手際が良かったのに。


それでもアンの刻む野菜はテンポ良く刻まれていった。


ヒスイ

「ただいまー!」


元気な声をあげて、ヒスイとルチルが家に来た。




セキエイ

「なんだよ、今日はいつもみたいにガッツかねーのかよ。ずいぶん大人しいな。」


今日のルチルは、いつものような威勢がない。セキエイは大人しく炒め物を摘むルチルを見てつぶやいた。


ルチル

「たまにはいいだろ?」


アン

「…ごめん、口に合わなかったか?」


アンも気になっていたのか、ふとルチルの顔色を伺った。


ルチル

「いやいや、めちゃ美味しいです。」


…何で俺にゃタメ口なんだよ…

とセキエイは思ったが、


セキエイ

「さっきから気になってたけどよー、このお菓子高いやつじゃん。どうしたんだ?」


ルチル

「あっ!おい!」


セキエイはルチルが持っていた紙袋をごそっと開けて、菓子折りをテーブルに出した。


アン

「あ、それ!フランス菓子のアベンチュリンだ!おー!美味そう!」


セキエイ

「そこかよ。」


ルチル

「…渡そうと思って。今日。」


ルチルはうつむきながらセキエイを見て、ぼやいた。


セキエイ

「は?うちに?いいよお前、何考えてんだ?」


セキエイはルチルを見て、プッと吹き出した。


ルチルはセキエイに笑われて、少しムキになったようだ。箸を持ったまま、先ほどよりも顔を赤くする。


ルチル

「んだよ…俺のせいで事故に遭って、申し訳ないと思ってんだよ!」


セキエイ

「だから気にすんなっていってんの。」


ヒスイ

「…違うよ。」


「?」


ルチルの次は、ヒスイが今にも泣き出しそうな顔でセキエイを見た。


ヒスイ

「…僕が時間を戻したから…」


セキエイ

「あーお前ら面倒くせーな!」


セキエイは箸を置いて、頭をボリボリとかいた。


アン

「2人とも、気にし過ぎだ。」


セキエイ

「ったく。ガキのくせになー、大人の真似してんなもん持ってくんなや。」


セキエイはそう言うと、椅子から立ち上がった。


ルチル

「お、おい!何すんだよ!」


セキエイはルチルの座る椅子を引いて、ルチルの両脇を抱えてそのまま持ち上げた。


セキエイ

「ほーれルチルちゃんや、高い高~い!」


ルチル

「ちょ、おい!やめんか!!天井にぶつかるわ!」


ルチルは少し暴れるも、それは無駄な抵抗だった。


セキエイ

「お前はな、もっと甘えりゃいいんだよ。飯食って笑ってな、何でもひとりで抱えんな。ガキが泣くな。こっちまで悲しくなんだろ。人の顔色伺うのも気を張るのも、金のことを考えるのも、大人になってからでいいんだよ。俺みてーな6フィートあるおっさんが甘えてみろ、警察沙汰だぞ?」


アン

「うん、キモイな。」


アンも泣きそうなヒスイの頭に、ポンと手のひらを置いた。


セキエイ

「…わかってるからキモイって言わないでくれよ…」


セキエイはルチルを椅子に座らせた。


ルチル

「………」


ルチルは顔を真っ赤にして、声もなくポロポロと涙を流し始めた。


セキエイ

「まーいい。今だけ泣け。んで、食えよ。アンがせっかく作ってくれたんだ。そしたらデザートは、お前のうまい菓子でもいただこうか。」


セキエイは、箸を持ってご飯をかきこんだ。


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