夜更けの港で
深夜。その後エスパー達は、人気のない夜の海へ集まった。
風のない、月が綺麗な夜だった。漣はお淑やかになびき、大型のデリックは羽を休める。ふと海の向こうは、閑散としたこちら側とは違い宝石箱のように美しい。
三途の川を渡る手前というべきだろうか。100万ドルの夜景と謳われる綾港の夜は、どうやらまだまだ眠りにつかなさそうだった。
アン
「ここなら大丈夫そうだ。」
コツッとショートブーツの踵が、チャコールグレーのコンクリートの床に当たる音がした。ここは港湾地区の、とある大きな倉庫のすぐそばだった。貨物船に荷物を積める倉庫である。現在は使用していないであろう大きな船は明かりが消えていて、まるで眠りについたクジラのようだった。
時間の流れは止まっていた。いや、意図的に止められていた。
そこへ、その張本人の夜の港に似合わない、親子連れが現れた。
ヒスイ
「…ママもできるんだ」
アンより少し遅れて、スニーカーを履いたヒスイがアンのすぐ隣に現れた。
アン
「そうだよ。あれ?」
おかしい。誰だ?アンはふと人気を感じて、ヒスイの手を強く握り、とっさに振り返った。
セキエイ
「よっと。俺も仲間に入れてちょ。」
ヒスイ
「パパ!」
アン
「エイジ!何やってんだよ!寝てろよ!」
アン達の目の前に、パジャマにサンダルのセキエイが現れた。どうやら寒そうだ。パジャマは丈が短くて、足首がつんつるてんになっていた。
セキエイ
「もう散々寝たわ。さて。」
と言いつつ、セキエイは軽くあくびをした。
セキエイ
「ヒスイ、お前が出来る技を、ひとつずつ俺にかけてみろ。」
ヒスイ
「うん…わかった…」
セキエイはヒスイの向かいに立った。規則的に並んだ街灯以外明かりはなく、バックは海である。コールタールのようにうねりをあげて波が舞う。
ヒスイ
「……」
ヒスイは右手を、地面と水平になるように伸ばし、拳を握った。
セキエイ
「うわっちゃっ!!!」
突然、炎が昇り竜のように風を立ててセキエイに向かって燃え広がる。セキエイは左手のひらで竜巻を起こし、炎の竜を飲み込んだ。炎は瞬時に消えた。
セキエイ
「なるほど、発火できるのか。」
ヒスイ
「パパ、次は僕に、あの荷物の中身を透視させようとしてない?」
ヒスイは倉庫の入り口に積まれた包みを指差した。20袋ある包みはすべて黒い袋でくるまれていて、ここからは宛先のラベル等はまるで見えなかった。
セキエイ
「…なんでわかんだよ」
ヒスイ
「パパの考えは読めるよ。」
ヒスイは歯を見せて、ニヤッと得意げに笑った。
ヒスイ
「中身はね、えーと、上2つパソコンの部品!あっ、1番下だけ違うよ。同じ部品だけど、色違いだ。」
アン
「…何色?」
ヒスイ
「上2つ赤、1番下だけ黒、後はシルバー。」
アン
「…正解。」
アンはふふっと笑った。
アン
「予知、透視、精神操作もできるんだな。僕よりすごいよ。僕は予知はできないんだ。」
セキエイ
「…いや待てよ。俺は発火もできねーよ。」
セキエイはただ、苦笑いをするしかなかった。
アン
「…ヒスイ、今から僕と同じことをしてくれ。」
アンは倉庫のドアのすぐ真横にに置かれた鉄球を指差した。この倉庫の入り口には、このような感じで雑に荷物が置かれている。商品管理がなっていないようだ…
チェーンのついた、子供の背丈ほどありそうな大きな鉄球。クレーンに繋げて、ビルなどを破壊させるのにつかうものである。
アン
「行くよ。」
アンが指差すと、鉄球はベコッと熱を加えたプラスチックのように半分以上凹んだ。そして、その大きな図体はクマンバチのようにすーっと倉庫の天井目掛けてのぼっていく。
アン
「はいっ。」
アンが合図をした途端、鉄球は打ち上げ花火のように宙から消えた。
アン
「ヒスイ、同じようにやってみて…」
ヒスイ
「もうやったよ。」
セキエイ、アン
「…」
アンとセキエイはぽっかりと口を開けて、ヒスイの頭上を眺めた。
ベッコリと空気が抜けて、潰れたピンポン球のようになった鉄球がヒスイの頭上をプカプカと浮かんでいた。
ヒスイの動かしている鉄球は、アンのものよりも大きい。成人女性の身長くらい、軽く1.5mから1.7mくらいはあった。
ヒスイ
「戻した方がいい?」
アン
「そうだな、あぁ。戻すよ。」
アンは鉄球2つを、一瞬で元にあった状態と場所に戻した。
…化け物や…
アンとセキエイは目を合わせ、うんうんと同じタイミングで頷くしかなかった。こうしてここに新しいエスパーが誕生した。




