表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/53

昔むかし、あるところに

セキエイは目を閉じていた。


ここは静かだ。落ち着く。


どこにいるかもわからないのに、不思議と安心感をおぼえていた。


気がつくと、セキエイは夢を見ていた。


肌寒い気温。薄暗い場所。


あぁ思い出した。俺は今、記憶の海の中だ。だから落ち着いているんだ。


この先がどうなるか、もうわかっているから…


セキエイは夢を見ていたのではなく、それは単に、過去を思い出していただけなのだが。


誘拐犯その1

「ははは、ざまぁねぇな。あっという間に億万長者だ!」


セキエイ

「………」


セキエイは黒ずくめの男達が、ロープで体を縛り付けられた1人の少女を囲いながら話す姿を家政婦よろしく、覗き込んでいた。


どれくらい前のことだろうか。それすらあやふやなほど前のことだった。そこは、陰気臭い場所だった。暗くて、ジメジメして、何もない。ザ・無機質、ザ・殺風景。そんなところにセキエイ達はいた。


誘拐犯その2

「おい」


黒ずくめの男の1人が、体育座りをしている少女の目の前でしゃがみこむ。少女はうつむいて、猿轡をはめられていた。


男は少女の赤に近い茶髪をかきあけ、耳元でつぶやいた。


誘拐犯その2

「残念だったな。お前の母ちゃん、お前のこと、要らないってさ。」


少女

「…………」


少女は黙って、うつむいたままだった。


誘拐犯その1

「しっかしまー、こいつ本当に大人しいな。ウンともすんとも言わねー。つまんねぇな。」


すると、少女の髪をかきあげた男は、その手をそのまま顎へスライドさせていった。ごつごつしていて太い指は、少女の顎を撫でた。男はつぶやいた。


誘拐犯その2

「やっぱり芸能人の娘だなー。こいつ結構綺麗な顔してるぞ。色白だし、将来有望だな。」



誘拐犯その1

「お前ロリコンかよ。ビクともしねぇ、何も言わねーからつまらんわ。どうすっか?早目に売るか?」


もう1人の男が、呆れ顔でつぶやいた。


誘拐犯その2

「どうせ売るなら、楽しませろよ。さーて、ベッドに連れてくかな~っとわぁっ!!!」


少女を担ごうとした男は、謎の竜巻に巻き込まれ、部屋の端まで吹っ飛ばされた。


誘拐犯その2

「いてぇな!!」


すごい、俺と同じことができる!


セキエイはドアの隙間からその様子を眺めて思った。そこにはどこか嬉しさも相混じっていた。同郷の人がいたときと同じような安心感だった。セキエイは、途端に少女に魅せられてしまった。


少女に飛ばされた男はうつ伏せ状態からノロノロ起き上がる。そして少女に舌打ちをして、パンパンと布団のように服を叩いた。羽織っている黒い服は白い埃をつけていた。


誘拐犯その1

「バーカ、こいつエスパーだから。下手に扱うと秒殺されっぞ。おい、エイジ」


セキエイは男に呼ばれ、覗いていたドアを開けて部屋に入った。


誘拐犯その1

「こいつを連れてけ。お前じゃないと、力を封じ込められねぇ。あとは好きにしろ。売るなり分解するなり、殺して棄てるなり。」


セキエイ

「…はい。」


セキエイは男の言われるまま、体育座りの少女を抱えて、この何もない、醜さに溢れた部屋を出た。


セキエイは重い部屋の鉄の扉を閉めた。閉めてすぐ、少女の口元にかかっていた猿轡を片手で器用に外した。この子と友達になりたい。セキエイはワクワクしていた。


セキエイ

「なぁ、君は何ていうの?」


少女

「…」


笑顔が溢れるセキエイとは反対に、少女は暗い顔で何も言わず、黙っていた。


セキエイ

「…」


セキエイはしばらく廊下を歩いた。少女からの返事は、しばらくない。それでもこの長くて薄暗い廊下を歩いた。


セキエイ

「怖かった?俺もこうして、ここに連れてこられた。」


少女

「…」


長い廊下を渡り歩くと、セキエイは突き当たりにある、先ほどより更に重い鉄の扉を開けた。


セキエイ

「でも今は怖くない。」


鉄の扉はあまり開けて欲しくないようだ。ギィィと文句を垂れながら、ぎこちなく開いた。


セキエイは何とか少女を慰めようとした。海底の貝のように閉ざした少女の口を開いた。そこに真珠があるわけでもないのに、セキエイはそのときを待っていた。


少女

「君は僕をどうしたいの?」


セキエイ

「えっ?」


少女はようやく口を開いた。セキエイはとっさに胸元にある、少女の顔を見た。


少女の口は、また固く閉じてしまっていた。


セキエイ

「…」


セキエイは一瞬だけ躊躇った。どう言えば、俺のことを怖がらないかな。少しだけ思ったが、


セキエイ

「どうもするつもりはないよ。俺にそんな権利はないから。」


と、すぐに答えた。


少女

「何で?さっき、あの男たちが、君の好きにしろって言ってたじゃないか。」


セキエイは少女の顔を見ようと思って、何度も下を向いた。だが少女の高い眉骨と鼻筋が邪魔をして、顔がよく見えない。


セキエイ

「うーん、君がどうしたいのかによる。お腹すいてない??何食べたい?一緒にご飯食べようよ。」


少女

「そんなことしてどうすんの?」


セキエイ

「?」


セキエイは、一旦足を止めた。


セキエイ

「あれ?お腹すいてなかった?でも食べた方がいいよ。ここに来てから、ずっと座りっぱなしで、何も食べてないし、トイレだってろくに…」


少女

「そういう意味じゃない。」


少女はキッパリと言った。


少女

「もう僕は死ぬか生き地獄なのに、そんな優しさなんか無駄だろう。おかしい。」


セキエイ

「おかしいのは君じゃないか?」


少女

「何がおかしい?」


少女の口調が変わり、少し乱暴になった。セキエイは先ほどよりも強くなった視線を感じていた。


少女を見て、どうしたらいいんだろうという気持ち2割、助けたい気持ち8割だったが、セキエイはうちの8割を優先させた。


セキエイ

「君がどうなるかは俺が決めるんだろ?それなのに、どうして死ぬか生き地獄かなんてわかるんだ。俺は君のしたいようにするって言ったのに。」


少女

「そんなの信用できるかよ!わかった、じゃあまずはこのロープを外せ!僕を歩かせろ!」


少女は体を動かそうとするが、セキエイに動きを封じられて動けない。


セキエイ

「あ、そうだな。ごめんごめん。」


セキエイは少女の体に食い込むロープを切り、足を床に着かせた。


少女

「…ったっ!」


セキエイ

「あぁ、大丈夫?足が痺れたの?」


少女は両足を床に着けたはいいが、足が痺れ切って力が入らない。膝から崩れ落ちてしまった。


セキエイは、慌てて少女の肩に腕を回して担いだ。


セキエイ

「ゆっくり歩こう。じきに治るよ。」


少女

「…」


2人は二人三脚のような体勢で、長い長い廊下を歩き始めた。泣いているのかな。セキエイが思ったのは、うつむいた少女の唇が微小に震えていたからだ。顔にかかる髪が邪魔で、少女の目は見えない。少女はまた口を閉ざして、その肩はほとんど力が入っていなかった。


セキエイ

「…家に帰りたい?」


セキエイはそっと少女に尋ねた。


少女

「帰りたくない。」


セキエイ

「そうなの?どうして?」


間髪入れずに少女はセキエイの質問に答えた。セキエイも光反射の如く、少女に質問し返した。


少女

「帰りたくないよ。僕は母さんに、要らないって言われ…うっ…」


セキエイ

「…ご、ごめん!」


セキエイは謝った。なぜかわからず、とっさにその言葉が舞い降りてしまった。泣き始めた少女を、セキエイはそのまま抱きかかえた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ