第九十九話 決意
「エリアスっ……!」
突然、尾の長い巨大な竜の魔物が海面から飛び出したかと思うと、その竜がすぐさまエリアスの船に襲いかかって――その一部始終を目にしたアキは、船のへりに飛びついた。
ここからでは遠目で、はっきりとは見えないけれど、竜はなにか小さな人影を……そう、たぶん、あの男性教師をかぎづめのある手に捕らえているように見える。
獲物を捕らえた竜は、その体勢のままに海面にざぶりと飛び込んだ。
水しぶきが立ち昇り、その反動で海が大きく波打って、エリアスの船やアキたちの乗る船をぐらぐらと激しく揺らす。
「きゃああっ」
「アキ、しっかりつかまれ!」
大きく揺れる船に、アキが悲鳴をあげながら必死にへりにしがみつくと、船の帆柱に手でつかまって体勢を保っていたレオが鋭く声をあげる。
アキはレオの言葉に何度もうなずきながら、顔を左右に振って、濡れて額にへばりついた前髪を払った。目を凝らして、前方にいる大きな魔物を見据える。
(あの海の魔物――……。エリアスたちを狙って現れたの!?)
そうだとしたら、すぐに加勢に行かなければならない。けれど、これだけ揺れる波を縫ってエリアスの船に近づくにはどうしたらいいのだろう。
そんなことを考えながら、アキは船のへりにつかまって激しい揺れをやり過ごす。
前方――竜の魔物は、いまは尾を海面に打ちつけて執拗にエリアスの船を攻撃していて、エリアスは船につかまりながら聖剣でそれを防ぎ、応戦しているようだった。
「――あれは、まさかッ……!」
反対側の船のへりにつかまっていたヨハンが、エリアスの船を襲っている魔物を凝視して表情を強張らせる。
「ヨハン! あの魔物のこと知ってるんですか!?」
ヨハンはさまざまな知識を持っているから、あの魔物についても詳しいのかもしれない。 そう思って聞いたアキに、ヨハンは大きくうなずいた。
「ええ、あれは『水竜』という魔物で間違いないと思います! 『神殿』が飼い慣らしている魔物の一種です。神官たちによって、特殊な餌を与えられて育てられていますので、かなり手強いことが予想されます」
そんなっ……、『神殿』は魔物まで飼っているんですか!?
融合魔法、死霊魔法、そして人間が魔物を捕まえて自分たちのいいように育てて武器とする――『神殿』はどこまで人道に反することに手を染めているんだろう。
他にも、『創世記』を独り占めしてその内容を隠匿したりと、前例を挙げ始めたらきりがない。『神殿』はこの世界の支配者にでもなるつもりなんだろうか……。
(……それを未然に防ごうとしてるのが、ヨハンなんだよね!)
アキは、ヨハンの凛々しい横顔を見つめてから、前方の水竜を振り仰ぐ。
そういえば、以前、港町の結界が崩壊したときにドラゴンと戦ったことがあったけれど、ああいった竜の姿をした魔物は全般的にレベルが高い……というか、強力なのだとミーナから聞いたことがある。
そのため、ドラゴン型の魔物はよっぽどのことがないと人間の前に出現しないらしい。
その強力な魔物がさらに『神殿』の力で強化されているとなれば、少しでも油断すれば、たとえ百戦錬磨の勇者パーティでも苦戦を強いられるかもしれない。
アキは、船のへりをつかむ指にぐっと力を込めて、水竜の攻撃を受け続けるエリアスをはらはらと見つめる。
(いつもなら、レベルカンストのみんながいてくれれば、そんじょそこらの魔物に負けることはないって心のどこかで甘えがあったけれど――)
今回は、そう安易に考えていい状況じゃないのだろう。
レオやヨハン、サトクリフの様子を見渡すと、みんな、いつもの飄々とした雰囲気はなく、張りつめた緊張感で次の出方を考えているようだった。
レオが、オールをしっかりとつかみながら、前方にいるヨハンに向かって声を張る。
「ヨハン! その『水竜』って魔物にはどう応戦したらいいんだ! こんだけ揺れると、魔法も満足に放てやしねぇ!」
「そうですね……、レオ、サトクリフ、まずは船をなるたけエリアスのところに近づけてください! 水竜への距離が近ければ、詠唱時間の短い魔法を連発したり、場合によってはエリアスの船に移って戦うこともできるかもしれません!」
「了解ッ! レオ様、行きますよォ!」
サトクリフがレオに声をかけて、ふたりはオールを漕いで必死にエリアスの船に寄せていく。でも、この間にも水竜はエリアスの船に何度も尾を振り下ろして攻撃を加えていて、そのたびに波が大きく揺れてアキたちの船を阻んでいく。
――そのときだった。それまでエリアスの船を執拗に攻撃していた水竜が、後援のために近づいたアキたちに、その血のように赤い双眸を向けたのだ。まるで、アキたちに標的を変えたとでもいうように。
「まずい、くるぞっ……!」
レオがみんなに声をかけて、
「全員伏せろッ……!」
サトクリフが、船の軌道を変えようとオールを力いっぱい漕ぐ。
途端、前方にいたはずの水竜が、驚くほどの俊敏さで飛び上がり、アキたちの目の前の海面に着地した。
「きゃああああっ!」
水竜の落下の衝撃で大量の水しぶきがアキたちを襲い、続いて津波が船を飲み込まんと大きく口を開ける。その波になすすべもなく呑まれた船は、めりめりと帆柱を折りながら、海の中で上下左右にひっくり返った。
(うっ、息が、苦しいっ……!)
必死に船のへりにつかまっていたけれども、目も耳も水に呑まれたアキは、いつしか手を離して海の中に放り出されてしまう。
(なんとかして、水面に出なくちゃ……!)
このままでは、息ができなくなって、いずれ沈んでいくだけだ。
アキは、上へ上へ向かうように、手を動かしてがむしゃらに水をかいてみる。けれど、服がどんどんと水分を吸ってずっしりと重くなり、思うように体が浮上できない。
力のかぎり動かしていた手も、水の抵抗を受けてだんだんと疲れがにじんでくる。
(急いで、早くっ……!)
そう思うのに、体が言うことを聞かない。
そのとき、ごぼり、と口からたくさんの空気が漏れ出てしまった。
途端に苦しくなる呼吸。
(いやだ、こんなところで負けたくない……!)
――それなのに、体に力が入らない――……!
とうとう体の力が抜けて、気を失いかけたそのとき――なにか力強いものが、アキの腕をしっかりとつかんだ。
その途端、有無を言わさないほどの強い力で、腕が海面へと引っ張りあげられる。
「うっ、げほ、げほっ……!」
わけのわからないまま海面に顔を出したアキは、肺いっぱいに大きく息を吸い込んでから、げほごほと激しく咳き込んだ。
涙目になりながら目を開けると、頭上には青空と、そして自分を心配げに見下ろすエリアスの顔が近くにあって――エリアスの綺麗な金の髪はずぶ濡れで、きっと自分を助けるために海に飛び込んでくれたのだろうと瞬時にわかった。
「エ、エリアスっ、ありが――……」
お礼を言いかけると、エリアスが堪えかねたように、片手をアキの腰にまわしてぎゅっと抱きしめてくれた。
もう片方の手は、彼が乗っていた船から伸びているロープをつかんでいる。
エリアスはアキを抱きしめていた力をゆるめると、そっとアキの顔を覗き込んだ。
「アキ、大丈夫!? ひとまず、いったん俺の船にあがろう! 俺につかまって!」
「は、はい……!」
アキがエリアスの体にしっかりとつかまると、エリアスは両手をつかってロープを手繰り寄せ、自分の船を徐々に徐々に引っ張り寄せていく。
そうして船が完全にアキたちのところまでくると、まずエリアスが船に飛び乗り、続いてアキの腕を引っ張り上げた。
「アキ、無事でよかった……! ごめん、あの魔物、なかなか手強くてね……」
疲労の滲んだ顔で、エリアスが後方にいる水竜を見て歯を食いしばる。
アキも振り返ってみると、レオやヨハン、サトクリフも無事だったようで、なんとか船を立て直してくれたのか、いまはエリアスの船と水竜を挟み撃ちにする位置まで船を寄せてくれていた。
レオたちがエリアスに代わって魔法攻撃で水竜に応戦してくれていて、水竜の悲鳴や海面に尾を振り下ろす激しい音、レオやヨハン、サトクリフが放つ魔法の破裂音が、ごおう、ごおうと響き渡っている。
エリアスが、アキを守るように前方に立ち、聖剣を抜き払った。
「あの魔物、どう対処したら倒せるのかな。海上じゃ上手く立ち回れないから、どうしても防戦一方になって、決定的なダメージを与えられないんだ。細々とダメージを与えるよりは、大ダメージを与えて一撃必殺で倒すしかないと思うんだけれど……」
エリアスの言葉に、アキも同意するようにうなずく。
「エリアス、さっきヨハンから聞いたんですが、あの魔物は水竜というらしくて、『神殿』で飼われている特別な魔物みたいなんです。神官たちにすべての能力を強化されているから、とても手強いって言っていて……」
「ああ、なるほど。あの魔物は『神殿』から遣わされたのか……。おそらく、あの男性教師が俺たちの妨害に失敗したとわかって、彼の存在を抹消するために――……そして、男性教師の代わりに俺たちを妨害するためにあの魔物を放ったのかもしれないね」
エリアスが奥歯を噛みしめる。
(あれ、エリアス、なんだかあの男性教師を庇うような言い方をしてる……?)
意外に思って、アキは口には出さないけれども、エリアスの顔を見返してしまう。
自分たちがいない間に、エリアスになにか心境の変化があったのだろうか。さきほど男性教師とふたりでなにかを話し込んでいたみたいだったから、そこでなにか大切な話を聞いたのかもしれない。
(いまはその事情をエリアスに聞いているときじゃないから、それはいいとして――)
いまは、あの水竜をどうやって倒すかを考えなければならない。
(さっきエリアスは、一撃必殺で倒すのがいいんじゃないかって、言ってたよね)
そうだとすると、船上から強力が遠距離攻撃を放って、水竜を一撃で仕留める必要がある。レオやサトクリフの魔法も十分に強いんだけれど、『神殿』によって異常なほどに硬化された水竜には倒すほどの決定打には至っていないようだ。
もっと強力な、一点集中型の斬撃で仕留める必要があるのかもしれない。
(――……あっ!)
思いあたって、アキは思わずエリアスの顔をまじまじと見つめてしまう。
脳裏に浮かぶのは、あの洞窟のクエストで、エリアスが太陽の女神様の力にその身を支配されて自我を失ってしまったとき、聖剣を振るうことで放っていた銀の剣圧だ。
あの技なら、船上からでも一撃で水竜を仕留められそうだけれど、あれはエリアスが太陽の女神様の力を顕現させることで扱えるものだ。それは、もしかしたら太陽の女神様の強大な力に押し負けて、エリアスがまた自我を失ってしまう危険性をはらんでいる。
(もしもいまの状況でエリアスが自我を失ったら、今度こそ私たちじゃ太刀打ちできないかもしれない)
水竜とエリアスを一時に相手取って戦うことにでもなれば、陸地に残った魔王の増援でもなければ、あっという間に悲惨な状況に追い込まれてしまうだろう。
(でも、このままじゃ状況は変わらない――)
太陽の女神様の力を試すしかないのかもしれない。自分は、あのときとは違って、いまなら月の女神様の力をコントロールすることができる。
(私の力で、なんとかエリアスのことを支えることはできないかな)
太陽と女神様の力と、月の女神様の力は相反する。
エリアスを太陽の女神様の力から守るのは、月の女神様の力を授かった自分の使命なんじゃないだろうか。
アキがそれを言おうと口を開きかけると、それを制止するようにエリアスが片手を軽く挙げた。
「アキ、君の言いたいことはわかっているよ。だって俺たちは、一蓮托生だからね」
「え……――え?」
いきなり照れくさいことを言われて思わず赤くなってしまうと、エリアスはふっと笑ってから、前方の水竜を見据えた。
水竜は、レオたちの怒涛の攻防によってだいぶ疲弊してきているようだ。
「アキ、俺、いまこそあのときの太陽の女神の力を――……すべてを破壊し尽くしてしまったあの恐ろしい力を使ってみようと思うんだ。……太陽の女神の力を発動すれば、また自我を失うかもしれない、アキやみんなに迷惑をかけてしまうかもしれない。けれど……」
エリアスは、聖剣の柄をぎゅっと握る。
「いつまでも、自分の力から逃げているわけにはいかない。この力をきちんと自分のものにして、みんなやこの世界を守ると誓ったんだ。だから俺は、この力が必要とされている今――乗り越えて見せようと思うんだ」
決意を込めて言うエリアスは、とても清々しい表情をしていた。
今がそのときなのだと、アキは胸の内から予感していた。
アキのそんな思いに呼応するように、エリアスも生き生きと言う。
「それに、君がいてくれれば、俺は自我を失わずに済むんじゃないかって思うんだ。君は、太陽の女神と相反する月の女神の力を宿しているからね。だからどうか、俺が太陽の女神の力に呑まれないように、俺のことを守ってほしいんだ」
(私が、エリアスを守る――……!)
その言葉が、じんわりと胸に染みわたっていく。
自分は、いつだってエリアスたちに守ってもらってばかりで、彼らの役に立てているのかどうか悩んでばかりいた。
いつか彼らを守れるようになりたいって、彼らと肩を並べて戦えるようになりたいと思っていた。
それがいま、自分の力がエリアスに必要としてもらえているのだ。
(ここで頑張らなくて、どうするの!)
アキは、自分の頬を両手で叩いて気合いを入れると、エリアスの隣に並んで、彼と同じように目の前に立ちふさがっている水竜を見据える。
「エリアス、任せてください! 私の月の女神様の力で、かならずエリアスのことを守ってみせます! だから、エリアスは思いっきり太陽の女神様の力をぶちかましちゃってください!」
いたずらっぽく言って、えへへ、と笑ってみせると、エリアスは、ありがとう、と可愛らしく笑って、勇ましい表情で聖剣を一振りして眼前に構えた。
そうしてエリアスは、向かい合わせにいるヨハンたちの船に向かって声を張る。
「レオ! 少しの時間だけでいい、水竜の動きを止められるかな!?」
「誰に言ってやがる! 勇者の魔法使いの俺に不可能なことはねぇよ!」
ここからでははっきりとは見えないけれど、きっとレオはいつもの勝ち気で自信に満ち溢れた笑顔で言い返してくれているんだと思う。
アキは、自分の気持ちを落ち着けるように、胸に手を当てて深呼吸をする。
――いよいよ、エリアスが太陽の女神様の力を使うときだ……!
そんな彼を支えるのは自分の役目。
大好きなエリアスを、今度こそ、太陽の女神様に奪われないように――。
アキが月の女神に祈るように両手を組み、そのとなりでエリアスが静かに目を閉じて、聖剣を眼前に垂直に構えた。
海の太陽の強い日差しを受けて、凛と輝いて見えるエリアスの横顔。
力強さを感じるその表情は、きっと太陽の女神の力に押し負けることはないって、そう思えた。
エリアスの額から金の光があふれ出て、頭上の青空や海面をなでるように光の波が広がってゆく。その中心に立つエリアスが、ゆっくりと目を開けると――彼のその瞳は、いつもの翠色ではなく金色に様変わりしていた。
自我を失ってしまった、あのときのエリアスを思わせる印象だ。けれども、今回は光を失ってしまった双眸ではなく、生き生きとした意思が彼の瞳を輝かせていた。
(私の力が、どうかエリアスを支えられますように……!)
アキが自分の額にそっと手を当ててそれを離すと、額に月の女神の紋章が浮かび上がり、銀の光がエリアスの体にまとわれていく。まるで彼のことを、太陽の女神の意思から守るかのように。
「エリアス、アキ、頼むぜ……! ――これでどうだっ……!」
レオが魔導書を開き、船上でもなんのそので正確に魔法陣を描いていく。そうして彼が魔法の詠唱を終えて魔法陣をその手で払うと、天空から一筋の稲妻が海へと落ちた。途端、ばちばちと音を立てながら、雷が海面を伝って水竜に直撃する。
――グギャアアアアッ!
水竜が、辺りを震撼させるほどの、もだえ苦しむ奇声をあげてのたうち回った。ばしゃん、ばしゃんと激しく尾を海面に叩きつけながら水竜は暴れ、そうかと思うと、水竜は全身がしびれて動けなくなったのか、ぴくぴくと痙攣したあとに、大きな水しぶきをあげながら海面に倒れ伏した。
「……すごい、レオ。さすがの威力だなあ」
エリアスはどこか楽しそうにつぶやいてから、アキのほうを振り返る。
「アキ、行くよ……! 俺たちもレオに負けないようにしないとね!」
エリアスが向けてくれた金色の瞳は、いつもの彼のおだやかな視線で、彼の自我がきちんと保たれていることがわかって、アキは嬉しくなって思わず涙ぐんでしまう。
「はい……!」
(エリアスは、ついに太陽の女神様の力を抑え込むことができたんだ。これならきっと、上手くいく――……!)
エリアスは、太陽の女神の力を流して金色にふちどられた聖剣を、水竜に向かって大きく振りかぶる。
途端、身の危険を感じた水竜が、これ見よがしに片手に捉えていた男性教師をエリアスの前に突き出してみせた。
「……っ!」
エリアスが怯み、一瞬動きを止める。
(そうだ、このままあの剣圧を放ったら、確実にあの男性教師も一緒に傷つけてしまう)
彼を庇う素振りを見せていたエリアスにとって、彼の命を盾に出されては、剣を振り下ろすことができないんだと思う。
(エリアス――……!)
冷や汗を顎に伝わせているエリアスの横顔を、アキが見つめたそのときだった。
「――やってくれ、勇者殿!」
男性教師が、身を捕らえられたまま、精いっぱい声を張った。
「私などのためにためらう必要などない! 私はもう十分に生きたし、私の願いを他でもない貴方に伝えることができた! もう思い残すことはない! これ以上、貴方の足を引っ張りたくはないんだ!」
っ、と息を呑むエリアスに、男性教師は満ち足りた笑顔を向けた。
「貴方の力で浄化してもらい、天に召されるのなら本望だ! 次はきっと、貴方の役に立てるような者に生まれ変わって、貴方が守ってくれたこの世界を生きてみたい。――私を安息の地に導いてくれ、勇者殿!」
決死の覚悟で言う男性教師に、エリアスは少し間を置いたあと、片手の胸に当てて誓うように言った。
「――わかりました。俺は、貴方のことを忘れない。貴方と約束したことを、かならず守ってみせると誓います。どうか、天の国で、貴方が幸せでありますように――……!」
エリアスは顔を上げてそう笑いかけると、金の燐光をまとう聖剣を高々と振り上げた。
それを、未来を切り開くかのように、鮮やかに振り下ろす。
そうして生み出された美しい剣圧が――空気を切り裂かんばかりにまっすぐに放たれて、男性教師と、そして水竜の胴に直撃した。
「ありがとう、勇者殿――……!」
彼の魂がエリアスの聖剣によって浄化され、光の飛沫が弾けて辺り一面に飛び交う。
聖剣を振るい、浄化の光のなかに立つエリアスの姿は、まるで神の奇跡の力を目の当たりにしたかのように、とても神々しいものだった。
エリアスの聖なる剣によって貫かれた水竜は、のたうち回りながら消滅していく。
大きく揺れ動く船体でアキが必死に船のへりに取りすがっていると、エリアスがアキに覆いかぶさるようにしてへりをつかみ、上から支えてくれる。
気づけばエリアスの瞳は普段の翠色に戻っていて、真剣だけれども、どこか寂しそうな目で海面から立ち昇っている男性教師の魂――浄化の光を見守っていた。




