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山の上のマンション 〜うさぎの管理人と、ひとり暮らしの瞳さん〜  作者: まーサンタ


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3/19

第3話


 午後二時。


 山の上のマンションに、一台のバスが到着した。


 停留所から降りた瞳は、両手に買い物袋を提げていた。


「少し買いすぎたかしら」


 袋の中には、卵や牛乳、それから頼まれていた日用品が入っている。


 自分の分だけなら、こんなに重くはならなかった。


 けれど、買い物の途中で近所の店の主人から、


「これ、よかったら持っていってください」


 と、季節の果物までいただいてしまった。


 断るのも悪い気がして、ありがたく受け取った結果だった。


 マンションのエントランスまで来たところで、瞳は一度立ち止まった。


「ふう……」


 袋を持ち直す。


 そのときだった。


「お帰りなさいませ、瞳さん」


「まあ」


 顔を上げると、うさぎさんがいた。


 ちょうど掲示板の前で、何かを書き込んでいるところだった。


「お買い物、お疲れさまでした」


「ありがとうございます。少し買いすぎてしまって」


 瞳が笑う。


 うさぎさんは、両手の袋を見る。


「ずいぶんありますね」


「果物をいただいたんです」


「それは結構なことです」


 うさぎさんは掲示板にペンを置いた。


「お部屋までお持ちしましょうか?」


「大丈夫ですよ」


「ですが――」


「いなばさん」


 瞳が穏やかに言った。


「私はまだ、これくらい持てますよ」


 うさぎさんは少しだけ目を細めた。


「……失礼いたしました」


「ふふ」


 瞳は笑う。


「でも、エレベーターまで一緒に来てくださる?」


「もちろんです」


 二人でエレベーターへ向かう。


 途中、廊下の角から小さな声が聞こえてきた。


「あっ」


 見ると、小さな男の子がしゃがみ込んでいた。


 床には、何冊かの絵本が散らばっている。


「どうしました?」


 瞳が声をかける。


「本、落としちゃった……」


 男の子は困った顔をしている。


「まあまあ」


 瞳が袋を片手に持ち替え、絵本を拾おうとする。


「瞳さん、こちらは私が」


 うさぎさんが素早く絵本を拾い集めた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 絵本を渡すと、男の子は嬉しそうに頭を下げた。


「お母さんが待ってるから!」


 そう言って、廊下の向こうへ走っていく。


「走ってはいけませんよ」


 うさぎさんが声をかける。


「はーい!」


 遠くから返事が聞こえた。


 瞳はその様子を見ながら、くすりと笑った。


「本当に、いろいろなことに気がつきますね」


「管理人ですから」


「それだけではないでしょう?」


「そうでしょうか」


 うさぎさんは、とぼけたように首を傾げた。


 エレベーターが到着する。


 二人で乗り込む。


 瞳が十五階のボタンを押した。


「今日は静かな午後ですね」


「ええ」


 エレベーターが上っていく。


 十五階に到着すると、扉が開いた。


「では、私はこれで」


「ありがとうございました、いなばさん」


「こちらこそ」


 瞳は部屋の前まで歩き、鍵を取り出した。


 扉を開ける前に、ふと振り返る。


「いなばさん」


「はい?」


「果物、少しお裾分けしましょうか?」


 うさぎさんの耳が、ぴんと立った。


「それはありがたいお話です」


「では、あとで下まで届けますね」


「お待ちしております」


 うさぎさんがエレベーターへ戻っていく。


 瞳はその背中を見送った。


「ふふ……」


 そして、買い物袋を抱え直す。


 今日は少し買いすぎた。


 けれど――。


 誰かと分けられるなら、それも悪くない。


 瞳はそう思いながら、部屋の中へ入っていった。

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