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山の上のマンション 〜うさぎの管理人と、ひとり暮らしの瞳さん〜  作者: まーサンタ


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14/19

第14話


朝の仕事を終えかけた頃だった。


いつもより、マンションの中が静かな気がした。


エントランスへ出て、外を見る。


通勤する人の姿も少ない。


学校へ向かう子どもたちの姿もない。


そこで私は、ようやく気がついた。


今日は祝日らしい。


らしい、というのも変な話だ。


管理人の仕事をしていると、曜日や祝日をあまり意識しなくなる。


マンションには、休日でも出かける人がいる。


仕事の日でも家にいる人もいる。


それぞれの生活があるからだ。


私は掲示板を確認してから、エントランスの掃除を始めた。


しばらくすると、外から足音が聞こえてきた。


「ただいまー!」


元気な声とともに、自動扉が開く。


入ってきたのは、亀の佐田さんと息子さんだった。


「お帰りなさい」


「こんにちは、うさぎさん!」


息子さんが元気に挨拶する。


佐田さんは少し息を整えながら、笑った。


「今日は少し長く歩いてきました」


「いいお天気でしたからね」


「うん!」


息子さんが頷く。


手には、小さな葉っぱを握っていた。


「途中で見つけたんだ」


「きれいですね」


「お母さんに見せる!」


「それは喜ばれるでしょうね」


息子さんは嬉しそうに葉っぱを眺めた。


佐田さんが時計を見る。


「そろそろ昼ですね」


「そうですね」


「家で妻が昼食を作って待っているんです」


「それは楽しみですね」


「はい。今日は家族でゆっくり食べようと思いまして」


祝日らしい過ごし方だ。


普段なら学校へ行っている息子さんも、今日は家にいる。


お母さんも家で昼食を作って待っている。


家族が揃う時間というのは、それだけで少し特別なのかもしれない。


「じゃあ、僕、お母さんに葉っぱ見せてくる!」


息子さんが先にエレベーターへ向かう。


「走らないように」


「はーい!」


佐田さんがその後を追う。


「では、また」


「はい。よいお昼を」


「ありがとうございます」


エレベーターの扉が閉まる。


親子を見送っていると、今度は別の足音が聞こえてきた。


「こんにちは、うさぎさん」


振り返る。


猫の小林さんだった。


いつものように、買い物用のバッグを持っている。


「こんにちは、小林さん」


「今日は祝日なんですってね」


「そうみたいですね」


「管理人さん、知らなかったんですか?」


「今朝、気づきました」


小林さんが笑った。


「相変わらずですねえ」


「祝日でも、マンションは動いていますから」


「そうですよね」


小林さんは時計を見た。


「私は、少し早めにお昼を済ませたんです」


「もうお昼を?」


「ええ。これから少し離れた百貨店まで行こうと思って」


「百貨店ですか」


「ちょっと見たいものがありまして」


小林さんは楽しそうだった。


「祝日だから混んでいるかもしれませんけど、せっかくのお休みですからね」


「お気をつけて」


「ありがとうございます」


小林さんはエントランスの外へ出かけかけて、ふと振り返った。


「そういえば」


「はい」


「佐田さん親子、今帰ってきたでしょう?」


「ええ」


「今日は家でお昼なんでしょうね」


「奥さんが作って待っているそうです」


「あら、それはいいですねえ」


小林さんは少し笑った。


「私も帰ってきたら、何かおいしいもの買ってきましょうかね」


「それもいい休日ですね」


「でしょう?」


そう言って、小林さんは外へ出ていった。


私はエントランスに残った。


ほんの少し前まで、佐田さん親子が帰ってきた。


そして、入れ違いに小林さんが出かけていった。


同じ祝日でも、過ごし方はそれぞれ違う。


家族で昼食を囲む人。


一人で買い物へ出かける人。


仕事へ行く人。


家でゆっくり過ごす人。


マンションの中には、それぞれの休日がある。


私は外を眺めた。


今日はいつもより、街の音も穏やかに聞こえる。


けれど、マンションの中では、いつもと変わらない生活の音がする。


エレベーターが動く。


玄関の扉が開く。


誰かが「行ってきます」と言い、誰かが「お帰りなさい」と言う。


祝日だからといって、暮らしが止まるわけではない。


ただ、少しだけ時間の流れ方が違うだけだ。


私は掃除道具を持ち直した。


今日も、いつもの仕事を続ける。


午後になれば、小林さんが百貨店から帰ってくるかもしれない。


佐田さん一家は、家でゆっくり昼食を食べているだろう。


そんなことを考えながら、私はエントランスの床を掃いた。


外から、秋の風が入ってくる。


祝日の山の上のマンションは、今日も静かに動いていた。

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