聖戦士、集まる一日
「状況は?」
列車から降り、待機していた一人の男性が開口一番に俺に言う。
彼は【フェイト・リュミエール】
光の聖戦士。聖戦士の男性陣の中では最年長で、俺たちの実質的なリーダーだ。
俺は男性は〇〇兄、女性は〇〇姉と呼んでいて、俺は彼をフェイト兄と呼んでいる。
彼には妹がおり、俺と同い年。今彼の後ろで回りを警戒しているが、紹介は後にしよう。
「まだ魔物の大群はここには来ていない。まだ少し遠くにいるから、出来るなら町の外でケリ付けたいんだけど…」
俺は見張り台の上で見たことを伝える。フェイト兄はそれを聞いて即断。
「…なら大群は俺たち成人組に任せておけ。それで、町の人たちの避難はどうなってる?」
「自警団の団長を中心に冒険者も避難を手伝ってもらってる。…何分、高ランクや実力者が軒並みいない状況だからさ…」
聖戦士が来るだろうからと、実力者がかなりの人数、他領や他国へ行っている。
故に、現時点での戦力じゃ迎撃不可なんだ。
もちろん、この避難については後ほど正式な依頼として受理してもらうように手配する。
「わかった。…ところで、一ついいか?」
「ん?なに?」
「実は、さっきからイルとエルが妙な事を言っているんだ。詳しくは本人から聞いてくれ」
そう促されて、列車の中からイル他数名が降りてくる。
「えっと、これはボクだけじゃなくてエルも聞いてたことなんだけどね…」
イルフィ・ラント。地の聖戦士の次女。一人称がボクだが、立派な女の子で、由衣と同い年。イルは俺のことを
「こうにぃ」と呼んで慕ってくれている。
(現実世界ではもう会っていたな、確か)
みんなは彼女のことを親しみを込めて「イル」と呼んでいる。
「実は、列車の中で甲高い音が聞こえたんだ。なんか、笛?みたいな…」
「…笛?」
「うん、そうだよね、エル?」
「うん、聞こえた。なんか、ピーっていうよな…甲高い音」
イルの後ろから顔を出して話しているのは【エルフィ・ラント】。地の聖戦士の三女、10歳。聖戦士の中では最年少である。みんなからは「エル」って呼ばれてる。
「この二人はこう言ってるんだが、俺たちは全くそんな音聞いてないんだよ。だから、ちょっと妙だと思ってな」
「…なるほど」
「ってことは、それ魔鳴り笛じゃない?」
俺たちが考え込んでいると、突然、後ろから声。「とうっ」と同時に背中に重さを感じる。
「うおっ!?…いきなりびっくりするじゃねーかよ」
「にひひー」
今背中に乗りつつ話しかけてきたのは、〈妖精族〉のルーファ。【ルーファ・ウィズダム】。
妖精族っていうのは、この世界に住む人間以外の種族の一つ。
他に、〈魔族〉や〈ドワーフ〉がいる。絶滅した種族もいるらしいが、その辺りはまだ研究段階であまり詳しいことはわからない。
ドワーフは鍛冶技術に優れ、妖精族は観察眼や開発力に優れている。人間は、他に種族に比べて優れているものはないが、団結力の高さで他を圧倒している。
魔族は、それ以外の多種族の俗称であり、亜人のような、ちょっと変わった見た目の人々だ。
魔族や妖精族は長命であり、数百、数千年は当たり前に生きている。…が、500年以上生きている者でも、500年より前の歴史は誰も知らない。そして、その理由も誰も知らない。
「…なるほど、君が剣聖と入れ替わりでやってきたという妖精族の子か?」
「あ、はい。私が剣聖の代わりにやってきた妖精族です」
剣聖。
俺の祖父、天田 源治の称号。ソードマスターと呼ばれることも。
あらゆる戦場において、彼に敵対した者は勝利を収めることのなかった男であり、『その剣を血で汚す時、討伐されるのは紛れもない悪である』と言われた「一殺多生の活人剣」を体現してきた男である。ただ一人、彼の親友の男のみが、彼との戦いで勝利を収めたと言われている。
因みに、本人曰く400勝400敗199引き分けだそうだ。
それと同時に、俺と流奈、由衣の剣の師。そして天田流剣術こと、『剣聖一刀流』の祖である。これは他人がそう風潮してるだけであって、自称してるわけではない。天田流が本来の名称。
1年ほど前に、突然旅に出てしまったが、それから1か月ほどして、我が家に「妖精族達の住む町に世話になっている。そっちに、お前に興味を持った妖精族の子を一人向かわせる」
という手紙が届いてからしばらくして、いま話題になっているルーファが、イグニースの町にやってきた。
ルーファは魔力で動く機械、通称〈魔導機〉などに詳しく、町の魔導機修理屋を引き受けてくれた。その技術も、今有志に伝授しているところらしい。
そして、ルーファは〈魔装具〉とよばれる魔力を用いて使用する道具についてもそこそこ知識がある。因みにかなーり俺に懐いている様子。
結構嬉しいが、こう見えてルーファは俺と同い年。妖精族は12歳くらいまでで肉体が成熟、そっからかなり長生きする。最長の人が2000歳らしい。
要は永遠のロリショタかつ、合法ってことだ。
…祖父は、その町からも出て現在は行方がわからないらしい。
「ところで、魔鳴り笛って?」
「えっと、昔大道芸人とかは小さな魔物を手なづけて芸をさせたりしてたって教わったでしょ?それに使っていた魔装具なの。
でも、今は禁術具として扱われているから、歴史資料くらいでしか見ないんはずだけど」
「じゃあ、ボク達が聞いた笛の音はそれ?」
「…だと思う。かなり高い音だから若い子や聴覚が発達した人。それこそ魔物や魔族くらいにしか聞こえないはずなんだけどね」
ルーファの言葉通りだと、確かにイルやエルくらいにしか聞こえないのであろう。
「…なるほど、話は分かった。なら、そいつを持ってる人間を叩けばいいってことか?」
その言葉を聞いて、フェイト兄が頷く。「若い子に聞こえる」と言われて自分の年齢を自覚したのか、若干顔が曇ってはいるが。…十分若いと思うけどね。まだ23だし。
「そういうことだね。…でも気を付けてね。大型の魔物も見受けられるし、何よりこんな多数の魔物を同時に操るってことは並大抵の魔力じゃ無理なの。
相当実力のある…まさに達人と呼ばれるような人じゃないとできない芸当…じゃないかな」
少し考えて「もしくは…」と言ったが、首を横に振り、なんでもないという。
「わかった、肝に銘じておく。それで、それを聞いてどう動けばいい?この辺りに詳しいお前にある程度俺たちの動きを指示してほしいんだが」
俺はルーファやイル達から得た情報を元に、残りの聖戦士達にどう動けばいいか、ある程度指示をした。
戦闘に参加するのは次代の聖戦士。現代…俺たちの親の世代は町や屋敷の守りを固めてくれるそうだ。
「とにかく、町に魔物たちが入らないようにしてくれ。それ以外は自由に動いていい」
「わかった。まぁ町に入ったところで他の聖戦士に片づけられるだけだがな。それで、笛の使い手はお前が探すんだな?」
「うん、俺が探すよ。魔装具に詳しいルーファと…後は流奈、と…聖戦士から誰か2人ほど来てほしい」
「それじゃ、私が行く。康治との連携は私が一番でしょ?」
「頼むよ、真菜」
俺に同行を申し出たのが、氷の聖戦士、真菜。
(現実世界では10年前に別れを経験したが、こっちの世界ではそれの鬱憤を晴らすかのように沢山の時間を一緒に過ごしている)
彼女も俺と同じで【マナ・グラース】と「吉原 真菜」という2つの名前を持つ。
ちなみに、真菜の後ろに立っている千春も一緒で、千春は風の聖戦士。【プリム・ヴェント】 という。どこかの国の言葉で、プリムってのは「春」を意味する言葉から来てるらしい。
因みに彼女も「千春」で通してあり、プリムって呼んでも「…あ、私だ」ってなる。
(確かイタリア語のプリマヴェーラ、が春って意味だったかな?)
「…ごめん…私…無理…出来れば寝かせて欲しいかも…は、吐きそ…」
千春は腕をバツにし、力なく首を横に振りながら言う。…ていうか、めちゃくちゃ顔が青い。こっちには来させないようにしよう。かなり列車に酔ってるようだ。
「それなら、もう一人はボクが行ったほうがいいかな?」
そして、もう一人の同行に名乗りを上げたのはイル。
「笛の音が聞こえたんだから、ボクも行ったほうが特定しやすいんじゃないかな?」
「ん、わかった。じゃあイル、頼む」
俺は流奈、真菜、イル、ルーファの4人を連れて町の外へ。
「魔鳴り笛の音色は壁くらいなら貫通するよ。じゃないと魔物が遠くに行ったときに大変だからね。ていうか音ってそんなもんでしょ?
だから列車の中に犯人がいる可能性は捨てないほうがいいけども…限りなく低いんじゃないかな」
ルーファの助言と、イルの指さす方向。地図を見ながら大体の位置を割り出し、俺たちはその場所へと向かう。
二人から得た情報をもとに割り出したのは、街道から外れた場所。近くには深い森があり、潜伏するにはもってこいの場所である。
ただ、今魔物たちがいる場所に音が響くのかは疑問が残る。列車に聞こえたんなら届くとは思うが、それでもだいぶ離れた場所。
「聖戦士のみんななら心配はいらないと思うけども、少し戦闘が激しくなってきたな。急いで片付けよう」
皆に目をやると、真菜は目を閉じて何かに集中していた。
「…真菜?」
そして、イルとルーファが目を見開き、何かに気づいたような素振りをすると同時に、真菜は弓を構え、斜め上方向にいくつか矢を撃ち出した。
「見えたっ!」
真菜が矢を撃って一瞬の間。直後、何かが樹上から落ちてきた。奇襲に反応できなかったのか、回避に専念したのかはわからない。
落ちてきたのは、バランスを崩したであろう、ローブを着た男。
「ぐぅっ…」
俺はそれに反応し、落ちてきた人間に銃を突きつけホールドアップ。
ちなみに、これは魔銃といって魔力を弾として打ち出す銃。 殺傷能力は魔力次第で思いのまま。
今は殺傷能力が0になるように調整してある。らしい。
借り物だからその辺わからん。
「抵抗するなよ?しかしそんな恰好でよく登れたな?ローブは迷彩柄みたいだし、怪しい笛も持ってるし…完全にお前がこの騒動の犯人だな」
「くそっ…!」
俺は両手が塞がっているため、イルとルーファに武装解除を頼んだ。
「この笛が…魔鳴り笛?」
「うん、そうよ。…しっかし何これ?なーんか変だね…」
「どういうこと?」
「…うっわー…これ、相当やばいブツだね。多分、禁術で力を増幅させてる…と思う。この状態なら魔物使いでなくても魔物どころか、人すら操れるね…」
禁術。
この世界では、非人道的な魔術は国際法で禁じられている。
魔鳴り笛が禁術具と言われているのは、「魔物とはいえこの世界に住む生命。我々人間が無闇に操ってしまっていいものではない」と、昔制定されたからだ。
この辺りは、西の大陸にある、魔導大国「レグヌム・マギア」という国が世界に向けて発信し、共通認識にまでさせた「魔術装具禁止法」という法が元になっている。
具体的に言うと「非人道的魔術装具の戦争的使用・単純所持。これを禁ずる」というものだ。さっきの魔鳴り笛なんかがいい例だ。
とはいえ、非人道的でなければ魔装具の使用は禁じられてはいない。
魔鳴り笛のような、意思に反して何かを操ったりするような、『悪事に向いている能力を持ったもの』を禁止している。
そして、それとは別に『禁じられた魔術』も存在する。それが所謂禁術だ。
それこそ正に非人道的な魔術。
直接的な死を与えるもの。
人を思いのままに操るもの。
心を破壊するもの。
そういった非人道的なものは、禁術として扱われ、人々の目に入らないようにさっきの魔法国家、レグヌム・マギアがその習得法、魔術書を厳重に保管、管理している。
一般的に、習得はおろか許可なしに魔術書などの資料すら見てはいけない。
禁術は、主に命や闇の属性に多い。他の属性も、ないわけではないが…
命や闇の聖戦士は、血筋として受け継がなければならない禁術もあるため、厳重な法の管理下で、限定的に習得が許可されている。勿論使用は禁止だ。
もし一般人が「本人の意志に基づいて習得した」場合、よくて禁固数十年、悪くてとある監獄送り、及び死刑にされる。
「本人の意志にそぐわない形での習得」に関しては、法の判断を仰ぐ形だ。
一説によると記憶を飛ばされるらしい。
…だから、ルーファが言った相当やばい禁術っていうのが気になる。
「そういう禁術はマギアが管理しているんじゃないか?それにしてもお前詳しいな」
「故郷の知り合いに魔族がいるの。
その人、昔マギアの魔術院に勤めてたの。だから禁術に詳しくて、私も一応何かのためにってことで知識だけ学んだんだ。習得はしてないよ。
今は監獄で働いてるみたいだけど。
んで、こいつ拘束したらマギアに一報入れるといいかも。禁術書を盗んだかも」
「一先ず、その辺りは連行してから考えよう。…操られたヤツらを開放する手段はあるのか?」
操られて魔物扱いはしているが、元は普通に暮らす動物たちだ。彼らに罪はない。出来ることなら生かして逃がしてやりたいが…
「それで軽くこの笛調べたけど、強制認識と洗脳の術が同時に掛けられるようになってるね。だから、真っ当な手段で解放するのは難しいかも。
…恐らく私とかが鳴らしたところで無駄骨に終わるね」
使った時点で私が捕まるし、とルーファは言う。
まぁ、禁術具だもんな。
「…ということは、殲滅するしかないってことか?」
「…そうなるね」
あまり無益な殺生はしたくないんだけどな…仕方ないとはいえ気が進まない。
せめて、その奪った命をきちんと素材として有効活用してやらないとな。
無駄にするわけにもいかん。
「とりあえず、こいつは重要参考人だ。連行しよう」
「…!こうにぃ、ちょっとこれ見て」
男を拘束し、連行しようとその場を去ろうとしたとき。
イルが俺に何やら見せてくる。それは布で出来た紋章のようなものだった。
「ん?…こいつは…!暗黒教団か!」
「そうみたい。…ボクも現物は初めて見たかも」
「なるほど、暗黒教団なら禁術を操るのも納得いくね…」
暗黒教団。
暗黒神の復活を目論み、それを信仰する集団だ。
暗黒神復活のためなら、ありとあらゆる手段を用い、無差別殺人や戦争の教唆など、悪行の限りを尽くしている。
とはいえ、その暗黒神っていうものが何なのかははっきりしてないんだよな。幹部クラスを拘束しても、具体的な名前を一切出さないらしいし。
そして、暗黒教団は俺たち聖戦士を目の敵にしているところがある。今回の襲撃も、恐らく聖戦士の会合があるからという理由で行われたものだろう。
…だが、今回は単独犯だ。余程の手練れか、余裕の表れか。それとも、無謀なだけか。はたまたこいつはただの囮に過ぎないのか。目的がなんであれ、今俺達のパーティに実力者がいない中で拘束できたのは幸運の賜物なのかもしれない。
―――俺たちはそんな話をしつつ、町に戻る。…途中、フェイト兄に出会い状況を説明したところ、もう魔物の殲滅はほとんど終わっていて、使える素材を集めていたところだった。
闇の聖戦士の一人が魔物の死骸を調べ、ある程度状況を把握したらしい。流石だ。
損傷が激しく、素材として活用出来ないのは、一ヶ所に集めて燃やし、埋葬する。
炎の聖戦士は、聖なる力を込めた炎で火葬をするのも役目の一つ。
これをやることで、アンデッドとなることを阻止しているとかなんとか。俺ももう少ししたらその辺りの儀礼なんかを学ぶことになるだろう。
町に戻った俺達は、先に冒険者ギルド・イグニース支部へ立ち寄った。
「おっと、少し騒ぎが収まったと思ったが…」
彼はここの受付。名前は【ソル・エリオス】。
「ちょっと依頼を出したくて。今いる面子でいいんでこれを受理してほしいんだ」
俺は「拘束した騒動の犯人の監視」という依頼をギルドに出す。そのついでに、今回の騒動で動員した冒険者達に報酬を与えるため正式な依頼として受理してもらう手続きをしてもらう。
内容は要約すると「うちの屋敷の牢屋にコイツぶち込むから、少しの間見張っててほしい」というものだ。
「あと、できればマギアの魔術省に連絡を入れてはもらえないだろうか?禁術具関連で、ちょっと報告したいことがあって」
「…ふむ、どっちみちいったん冒険者ギルドのマギア支部に連絡を入れてからになるけれども」
「その辺りは任せる。とにかく、禁術具の使用痕跡があるということを伝えてもらえれば」
「なるほど、了解。…よっと」
ソルは、待機していた面々を呼び、俺の依頼を受理させた後、通話機でどこかへ連絡を入れる。まぁ、マギアにある支部だろう。
連絡の終わりを見届けた後、俺たちはギルド支部を後にする。
「後でまた来る。会合が終わったあたりにな」
「あぁ、待ってるよ。それと、ギルドのマギア支部に連絡を入れたところ、今すぐに監察員を寄越すといったことを言われたよ」




