既視感のある、このやり取り
そんなことを考えていると、いつの間にか僕たちは見覚えのない場所にいた。あたりを見渡す…ほどでもない小部屋。いつの間にか、僕たちはそこにいた。
「なん…これ!?」
「いきなりびっくりしたぁ…ていうか、全く意味が分からないんだけど…」
他の3人は割とおろおろしていたけど…僕は何故か冷静になってしまった。
「康治あなたずいぶん冷静ね?」
「慌ててモノ考えてドツボにハマると後が怖いし。冷静になって考えてみようかなって。というより、一週回って冷静になった」
「…いや、まぁ確かにわかるけども」
「とにかく、こっから脱出しなきゃならないってことはわかったし、そこの扉をまずは開けよう」
僕はとりあえず目の前の扉を開ける。なんにも考えずに。
「康治も意外と冷静じゃないね。罠とか考えたりしないの?」
「いや、普通の人は罠なんて考えないでしょ」
扉を開けると、少し広い部屋に出た。そこには大きな台があり、そこに乗っていたのは…
「これ、武器…?」
「まって、これ本物!?刃物じゃないのこれ!?」
「…はぁ」
始めて見る本物の武器を見て騒ぐ僕たちを尻目に、ため息をついて僕たちの前に立ったのはボクっ娘。
「なんて言うか、強引だなぁってボクも思ったよ。実はボク、一応、本っっっ当に一応、事情を知ってるんだ。だからこっからの流れを軽く言っとくね」
かなり恨みがこもった声を出しながらそういうと、ボクっ娘は僕たち全員に向かって、言葉を投げかける。
「こっから先、魔物とか怪物みたいなのが当たり前のように出るよ。そこにある武器を使って戦わないと…」
ボクっ娘は少し迷いつつも、意を決して僕たちに言う。
「死ぬよ」
ボクっ娘の言葉に僕たちは戦慄する。…もしかして師匠は、このことを予見してたのか…?だから外でも武術を使ってもいいって…?
少し不安になりつつもボクっ娘の顔を見る。しかし、ボクっ娘は真剣な顔からすぐにニヘラッと笑う。
「とはいっても、いきなりこんな世界に投げ込まれて混乱してるでしょ?大丈夫、ボクが先導して皆を守るから」
「…それじゃあ、さすがに悪いよ」
僕は台に乗ってた武器を手に取る。よく漫画かで見るような、一振りの剣。僕は適当に構えてみながら、ボクっ娘に言う。
やたらと手に馴染む一振りの剣。僕はそれを振りながら、言葉を放つ。
「なんていうか、ゲームの主人公になった気分。気楽に…とはいかないけど。せめて生き残るくらいは頑張ってみようと思う」
「わ、私だって!」
真菜が持っていたのは弓。さっき弓道をやっていた、と聞いた。それ故に、彼女の弓の構えは堂々としたものだった。
「一応弓道やってたし、的以外のものを射るのは初めてだけど…頑張ってみる。…あ、すごい。手に馴染むね、コレ」
「なら、私もやってみようかしらね」
千春が持っているのは、鞭。馬上鞭などとは違う、よく漫画やゲームとかで見るような、長い鞭。
ウィップって言うんだっけ、ああいうの。
「なんで鞭渡されたのかはわかんないけど、やるだけはやってみるわよ…なんか手に馴染むわね、コレ」
「私も、これがどこまで通じるかはわからないけども…」
三奈はナックル…っていうのかな?手に金属をつけている。メリケンサックかな?空手で戦えってことだろうか。
「…やれるだけ、やってみるわよ」
「ははっ、じゃあ安心かなー」
ボクっ娘は1本の剣を取り出し、その場でくるくる回して…あ、落とした。赤面しながらサッとそれを拾って、キリっとした顔で剣を構える。顔真っ赤だけど。
「えっと…締まらないけど、ボクも本気出していくから…その…」
僕たちは口ごもるボクっ娘を見て、笑ってしまう。
「な、なにさぁ!」
「いや、なんかわかんない。でも、頼りにしてるよ」
「うん、ありがと」
そのあとになにかを言おうとして言葉を飲み込むボクっ娘。首を横に振った後「なんでもない、早くいこっ」と言って、先に進んでしまう。
僕たちは迷宮をガンガン進む。ボクっ娘の言ったように、僕たちに襲い掛かる魔物のようなものはいた。普通ならSANチェックもの。
真剣を用いた武芸。それに通じていない人間の集まりが4人いてもどうにかなるんだから、そこまで厳しい道のりじゃあないみたいだ。とはいえ僕は師匠から教わった武術が中心だけど。
あの人は迷宮なんて言ってたけど、基本的には一本道だった。
だからそこまで迷うことなく出口らしき場所へとたどり着いた。
「なんだ、迷宮と言ってもそこまででかいわけじゃないのか」
「案外すぐに出口にたどり着けたもんね」
僕たちは軽い足取りで出口のほうへ向かう。
「まーたしかに、ちょっと手応えがなかったのが気になるけどここは最初一部分にすぎない… !ちょっとまって!ストップ!」
ボクっ娘が大声を上げる。同時に、全身に衝撃。
「がっ…!」
僕が地面に伏せると同時に、うめき声。5人とも倒れてしまったようだ。何やら強い気配を感じる。あぁこれ、負けイベントってやつなのかな。
一撃を受けて倒れ伏した僕は、何故か冷静になってしまったのだろう。のんきにそんなことを考えていた。
「やばいやばいやばい…!ガーゴイルじゃんっ…!多分これ下層の奴だよね…!?ボクもこんなの想定外だよぉ…!」
ボクっ娘の慌てる声。この子でも想定外ってことは、僕たち相当やばいんじゃ。
「ぜああああああああああああああああああ!」
「あっ…!」
誰かの叫び声、僕はその姿を途切れそうな意識の中で捉える。髪型、髪の色、服装、口調。色々な差異こそあれど、それは僕が鏡で見ているものと同じ顔をしていた。
「…にぃ…!」
「あっぶねー…死なれちゃ困るってのに…ていうかコイツ、下層のヤツだろ?なんでここに…」
「そうだね、ていうかアル姉、内緒で仕込んだりしてない?」
「さ、さすがにそんなことはないと思いますけど…」
「転移陣仕込んだ時に事故ったんじゃない?まぁ今考えることではないわね」
何か、誰かが話している姿が見える。
「あれは…僕と…真菜に…千春…?」
「…私…?」
「どうして…?」
武器を構えた自分達の姿。
僕と真菜、千春の三人と…見覚えのない二人の女の子。
彼らはこちらを見るとニカっと笑う。
「安心しとけ、もう大丈夫だ」
「後は私達に任せといて」
「一旦寝ときなさいな。 …術式展開…」
自分たちの言葉を聞くと同時に、意識が暗転。
次に目を覚ましたとき、僕たちは…
「うっ…」
「あ、気が付いたみたいね?」
「ここは…なんにも変わってない」
どこかのベッドの上で目覚めるかと思いきや、別にどこかに移されるわけでもなく、倒れたそのままの体勢で目を覚ました。
その代わり、受けたであろう傷は既に治っている。
しかし、見慣れぬ少女が二人いる。一人は顔立ちの整った、少し長めの薄紫の髪。低めのポニーテールにした、これまたスタイルのいい少女。
もう一人はこれまた美少女。白味がかった黄色の髪。それをツインテールにした長髪の、スレンダースタイルな少女。
「魔物は片づけたから安心して?それにしても、なんでこんなの配置しとくかな…」
「ですよね。まぁ、意図された配置じゃないとは思いますけど…」
「えっと、君達は?」
「んー…もう少ししたらわかると思います。とにかく、今はここを出ましょう?」
彼女たちと倒れていた全員の復帰を見届けてから、僕たちは全員で出口から外へ出る。
「…戻ってこれたみたいね」
先ほど僕たちを飛ばした人が僕たちを一瞥する。そして、安堵のため息を漏らす。
「ふぅー…無事戻ってこれてよかったわ…念のためあの子達向かわせて正解だったわ」
「ねぇ、ボクにも手に負えない魔物がいるなんてそれこそ本当に聞いてないけど?」
「それは完全に私のミスね…」
そういうと、ボクっ娘の頭を撫でだす。
「ごめんね。ちょっと無茶させすぎちゃったみたいで」
「むぅ…べつにいいけど」
「しかし下層の魔物がまさか最序層に上がってくるなんて…なんかきな臭いものを感じるわね」
「…とか言って、転移陣仕込んだ際にミスったんじゃない?」
「アル姉さまはその辺り抜けてますからね、正直私も疑ってます…」
考えを巡らせているであろう、お姉さん。
二人の女の子がフレンドリーに話しかけているあたり、深い関係、のようだけど…
僕たちは呆然としながらその姿を見つめている。
「さて、オリエンテーションは終わり。これから一度全員で学園長室へ行きましょう。
なぜこんなことをしたのか、どうしていきなり非現実的な目に合わなきゃならないのか。いろいろと説明が必要だからね。付いてきて」
僕たちは言われるがままに、その人の後についていった。いや、ついて行かざるを得ないと、そう思った。
またしばらく歩き、案内されたのは学園長室。僕たちは並べられた椅子に適当に座る。待っていたのは学園長と、3人の若い男性に若い女性が1人。そして…
「と、父さん…母さんも!?」
「えっ…なんで?」
「どうしてここに…?」
僕の両親。そして、リアクションから察するにこの人たちが真菜と千春の両親達だろう。
「あー、まぁ…説明すると長くなるんだが…なにから説明すべきか」
僕の父さんが何か迷っている様子で口をもごもごさせる。その隣で学園長はフッフッフと微笑んでいる。
「うーん、そうだね…みんなさ、ここに来るまでに何か門を通ったの覚えてるでしょ?」
「確かに、門は通った。空気が変わった感じがあったけど,あれは一体…?」
「単刀直入に言うね。みんなが向かったのはこの地球とは違う、別の世界」
僕たちは騒ぐでもなく驚くでもなく、ただ茫然としていた。無理もない。いきなりそんなことを言われたら誰だって混乱する。
「そっか、だから魔物とかそんな…」
「そうよ。 …真菜は納得してくれたみたいね」
「えっ、私のこと知ってるんですか?」
さも当然のように真菜の名前を呼ぶ学園長。真菜はそれに驚いている。
「うん。それどころか、ここにいるほとんどのメンバー。私、そしてこっち側にいる人たちはみんなあなた達のこと、知ってるよ?」
学園長はニッコリと笑う。ほとんど…ということは知らない顔もいるということだろうか。
そんな僕たちを横目に、先ほどのアルフィさんが学園長に話しかける。
「マキュリー、言葉で説明したところで多分ほとんど頭に入らないわよ」
「ん、それもそっか。だから、この事実だけははっきり教えておくね。あなたたちがさっきいた別の世界。そこには、あなた達三人…康治くんに、真菜、千春。君たちと同じ姿、性格をした人間がもう一人存在するの。そして…」
学園長は僕の両親を指して言う。
「この人たちみたいに、1つの存在として…なんていうのかな、合体?するのが最善策なの」
「最善策って…一体何の!?」
「うーん、さっきも言ったけど口で説明してもほとんど頭に入らないと思うよ。突拍子もなさすぎてね。
だから、百聞は一見に如かず、かな。もうやっちゃったほうが早い気がする。この人たちは何かあったときのための保険」
そして、僕と真菜と千春の3人は鏡のようなものの前に立たされる。しかし…
「あー、松川さん。キミだけは、別。この説明もきちんとするから、キミはそこで座ってて」
「あ、はい…」
三奈は少し納得がいかない顔をしてる。そして、鏡のようなものの前に立った僕たちは、その先を見て驚く。
「なっ…!?」
『おー…すっげ。さっきも見たけど本当に俺だな…』
「い、いったいどういう…!?」
「…!…!」
謎の言葉を発する学園長。同時に、僕たちの体は光に包まれ、そのまま意識が飛んだ。
『これから状況の整理も必要でしょうから、今まで起きたことを追体験させるよ、
そうだね…2週間くらい前のあの事件!あれがきっかけになったからその時からの記憶をさかのぼって追体験させるね!』
そして、僕の…いや、「現実世界」の「俺」の意識はそこで自分の意識と同調した。




