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非日常、その入り口は

時は流れて今日は如月学園の入学式。

師匠はああいったけど、逆恨みによる襲撃とかは特になく、平和な時間を過ごしていた。まぁ例えあったとしても、師匠譲りの武術でどうにかしていただろうけど。


それから、噂も聞いた。…僕に暴力や暴言を吐いた教師達はどうやらしばらくの減給で済み、その他生徒達はお咎めなしらしい。教育委員会はどこまで腐っているんだろうか。

警察からも特に連絡はなく、完全に隠蔽する方に舵を切ったのだろう。元から信用していない。

まぁ、もう関わらないだろうし今さらどうこう言うつもりもない。


噂しか聞いていない理由としては、何故だかわからないけど、ずっと道場に泊まり込みで修行させられた。その上、道場から出してもらえなかったから。

平和な日常を過ごせていたのはこのおかげなのかな。

内弟子にするのかと聞いたらそれも違うみたいだし。

なんかこう、みんなどこかそわそわしてるような、ニヤニヤしてるような。少なくとも、悪い心は感じない、なにかサプライズを企んでるような…そんな感じ。


それで今、先日説明会の時に手渡された制服に袖を通し、鞄を持って僕は外へ出る。

流石に今日は両親がいる。ただ「明日からまた少し家を離れると思うが、まぁ、いつも通りだ」と言っていた。入学式には顔を出す。とは言っていた。


「それじゃ、行ってきます」


僕は如月学園に向けて歩き出す。徒歩でも通える場所にあるから、通学はかなり楽だ。


「…あれ?隣って春休み前まで空き家だったような…」


ちょっと記憶に引っかかるところがあるけど…まぁいいや、先を急ごう。

その道中、真二や智明たちと会う。


「よっ」

「おっ、おはよう。みんな揃ってるね」

「偶然会ったんだよ。まぁ、お前だけ家離れてるから通学で会えたらいいなってみんなで言ってたとこだし丁度いいや」

「しっかし、お前ホント表情変わったよな。少し前はあんなに真っ暗だったのに」

「ホントだよね。やっぱり、色々スッキリしたから?」


歩美や智明の言うように、僕は鏡を見て自覚出来る程度には表情が変わっていた。

まぁ単純に、笑顔が増えたんだ。些細な事でも笑えるようになった。


「ま、その辺は鏡見て自覚してるよ。…それにしても…」


僕は周りを見渡す。そこには如月学園の制服に身を包んだ新入生らしき人たちでいっぱいだ。その中には、僕の知った顔もそこそこ見受けられる。同じクラスだった奴らだ。

んで、その群衆の半分以上が、こちらを見て驚いている。それはなぜか。


「…なんか、お前も制服の色違わない?」


お前も、というのはきっと三奈が僕と同じ制服を着ているからだろう。

他のみんなが紺色のブレザーなのに対して、僕と三奈のブレザーは白を基調としたものだ。黒が好きな僕としては、少し落ち着かない。


「もしかして、お前学校間違えた?」

「いや、違う…と思う。校章は同じだし、特別推薦枠…?みたいなこと言ってるし」

「確かに他の人たちとは違うよね…ていうか、私と康治だけ白であんたらが青。要は普通の生徒っぽい人たちが青基調みたいね」


僕たちがそんな話をしていると、後方が少し騒がしい。気になって後ろの方を見ると…


「…うわぁ…」「すっげ…」「美少女二人…」


周りの視線を一様に集め、僕の友人たちも呆気にとられている。道を歩いているのは、僕や三奈と同じ白を基調とした制服に身を包んだ、二人の美少女。

片方は黒のセミロングヘアで、スラっとしたスタイルの少女。もう片方が黒の長髪。スタイルはモデルのように美しいものだ。

二人の少女…特にセミロングヘアの子を見ていると、胸のドキドキが収まらない。なんだろう、この感覚。

僕も他の男たち同様、彼女たちを見て呆気にとられていた。すると、セミロングの少女が僕に笑顔を振り、僕の方へ走って近づいて来ると同時に、柔らかい感触。

どうやら抱き着かれたようだ…!?


「えっ…えっ!?」


咄嗟のことで頭が回らない。本当に抱きつかれたん…だよね?


「…会いたかった…ずっと、ずっと会いたかった!」


彼女の声を聞いた瞬間、僕の脳内に走る電撃。そして蘇る、幼いころの記憶。


夢の中で見ていた光景。どこかモヤのかかっていた、おぼろげな記憶。


『おおきくなったら、またいっしょにいられるかな?』

『うん!ぜったいいっしょにいられるよ!』


同じように、モヤがかかっていたかのようにぼやけていた姿。

今の声を聞いた瞬間に、たくさん夢で見ていたあの姿が鮮明になる。

あぁそうだ。なんで忘れていたんだろうか。

ずっとずっと、小さいころから心の中で思いを寄せていた、幼いころ隣に住んでいた、僕の大好きな女の子。そしていつもその隣にいた、もう一人の女の子。


…今抱きついている彼女。僕はこの子を抱きしめ返してあげなきゃいけない。そんな気持ちになった。

はっきりと思いだした記憶がある。しかし、彼女がその人なのか…まだ確信が持てない。だから、こんな言葉しか出てこない。


「…ごめん、僕、君のことがよくわからないんだ」

「えっ…」

「でも、でもさ。なんでだかわからないけど…君を抱きしめ返さなきゃいけないって、そんな気分になって…」

「…父さんから聞いたけど、記憶がなくなってるってのは…本当だったんだね…」


彼女は悲しげな顔をしながら僕から離れようとする。でも、その前にどうしても聞きたいことがあった。


「うん。でも、一つだけはっきり覚えていることがあるんだ。もし、間違ってたらそのまま突き放してくれてもいい。…聞いてくれない?」

「…うん、教えて」


僕は意を決して、思い浮かべていることを告げる。


「幼い頃、大きくなったらまた会って…一緒の時間を過ごそうって…約束してなかった…?」


そう、これが僕が唯一と言っても過言ではない。そのくらい、はっきりと覚えていたこと。

『幼い頃、大きくなってまた会ったら必ず一緒の時間を過ごそう』と、約束した女の子がいたこと。…そして、それが二人だったこと。


「そうだ、そうだよ。僕は2人と約束したんだ。思い出した、思い出したよ!」


同時に、夢の中で見た光景。靄がかかったかのようにぼやけていた子。その名前をはっきりと思い出す。今僕の腕のなかにいる少女。そしてその後ろにいるもうひとりの少女の名を。


「…真菜ちゃんと…千春ちゃん…だよね?」

「…うん…うん!」

「そっか…思い出してくれたのね!」

「ははっ、本当に些細なことで記憶ってもどるんだね…」


僕はこの記憶障害で、今でも医者に通っている。頭痛とかも頻繁に起こしてたし、それの対策やこれ以上記憶をなくしたりしないようにとか。そういうことを病院で定期的に看てもらっている。

その時に「あなたの記憶は…そうですね、なにか小さなきっかけがあれば。はっきりと戻ってくれるのではないでしょうか?」と。そんな感じのことを言われていた。

だから、今ここで昔の記憶が少し戻ったことにはさほど驚いてはいない。…ただ。


「あー…」

「イチャラブしてるとこ申し訳ないんだけど」

「ここ、通学路。周り、見て」


僕たちはハッとなった。周りのみんなは呆れるか呆気にとられているか。ギャラリーも割と見受けられる。


「やっべ…」

「いきなり過ぎよ。まぁ、正直私もこらえきれないだろうなーって思ってたし別に気にはしないけど」

「あはは…ごめんね」


再会の余韻に浸っていると、三奈が訝しげに尋ねる。


「それで、あなたたちは?」

「んー、10年前までこの街に住んでて、高校進学を境に戻ってきた、彼の幼馴染…といったところかしら?」

「…ってことは、あなたたちが」

「こいつがずっと言ってた」

「昔に約束した」

「女の子?」


一人ひとりが交互に言う様はどこか間抜けだ。…けど、同じ境遇になったら僕もそうするだろう。


「そういうことね。あ、自己紹介がまだだったわね。私の名前は春日千春よ」


スタイルのいい、黒髪のロングヘアの子。今自己紹介したのが春日(かすが) 千春(ちはる)。


「それで、今この人に抱きついている私が、吉原真菜」


そして、今自己紹介をしたのが吉原(よしはら) 真菜(まな)。

幼いころから、僕が想いを寄せていた子だ。

真菜と千春。この二人は幼い頃に別れた僕の幼馴染。

…とはいえ思い出したのはそれだけなんだけど。

それ以外のことはまだ不鮮明だ。


「いいよ、それでも。名前を思い出してくれただけで嬉しいんだから。…ね?康治?」


僕に向かって笑顔を見せる真菜。…変わったようで、何にも変わってないような。懐かしい感じだ、この感覚。


「どうでもいいけど、このままだと入学式から遅刻まっしぐらだぞ?」


真二に言われて、僕たちは気づく。確かにこのままじゃ入学式から遅刻だ。


「少し急ぎながら行こうか。入学式遅刻はシャレにならないし」


というわけで、僕たちは如月学園へと急ぐ。



如月学園に着いた僕たちは、講堂へと急ぐ。その後すぐに入学式は始まった。


『えーまずは、高等部へのご入学おめでとうございます。中等部からいた子もね。如月学園は、文武両道をモットーとしており―――』


学園長の、明らかに「台本読んでますー」な挨拶。

如月学園は、初等部、中等部、高等部に分かれる小中高一貫の学校である。

私立ではあるが、入学にかかる費用はあまり高くはない上に、教育もしっかりとしている。故に、初等部からここを選ぶ家庭もそこそこいるくらいだ。というより、小中学は公立と同等の扱い。


僕も初等部からここに通えばよかったのではないか?という疑問も出てくるだろう。しかし、当時記憶障害だった僕には入学のハードルが高く、通うことが出来なかった。

…中学の時転校も考えたけれど、土屋先生がいたから頑張れたんだよな。

何より、担任が僕を拘束して、嫌がらせをしていたから無理だったって話だ。


学園長の話をそこそこ聞き流しながら、僕は周りを少し見渡す。

周りが青色基調のブレザーなだけに、僕や三奈たちの着ている白のブレザーがかなり浮いている。何せ着ているのは4人だけだからだ。

特別推薦枠についても特に言及とかはないみたいだし…一体これは何なんだろうか?

そんなことを考えていると、いつの間にか入学式は終わってしまった。


『それでは、白の制服を着た―――特別推薦枠の皆さんはこの場に残ってください。

他の生徒の皆さんは、担任の指示に従い、それぞれの教室まで行ってください』


講堂は少しざわついている。


『特別推薦枠については…まぁ後で担任からでも聞いてくださいな。今はちょーっと話せない事情があるんです』


講堂から人がいなくなり、残ったのは白のブレザーを着た僕と真菜と千春。そして三奈の4人。


「どしたの?」

「ううん、ちょっとね…」


周りを見渡すと、見事に僕の知り合いばかりだ。


「残ってるのが僕の知り合いばっかだなって思って」

「へー、そうなんだ。…あの子も?」


真菜が指を指したところにいたのは、茶色の短い髪をした…男か女か…ちょっとわかりにくいな…

制服じゃないけど、日本では違和感の強い服装。


「あ、ボク?」


声を聞いた感じは、女の子っぽい。…ボクっ娘とかすんごい珍しい。


「ふーん…」


少女は僕たちの顔をじろじろと見つめる。


「…なに?」

「あーいや、えっと、えっとね、何でもない。ちょっと、あー、えー、知り合いに似てるかなーって思っただけなんだ」

「そっか。なら、名前だけでも教えてくれないか?」

「えっ!?えっ、あーっとね…」


少女はなぜか戸惑っている。名前を聞かれることに相当驚いたようだ。


「えーっと、ボクはイルフィ・ラント。よろしくね!」


【イルフィ・ラント】

初めて聞くはずなのに、どことなく聞き覚えのある名前。なぜだろう。


「もしかして、外国人の方?にしてはずいぶん日本語が達者だけど」


真菜の問いに笑いながら答えるボクっ娘。


「あっはっは…あー、うんまぁ、そうだね。…意識したことなかったけど、確かにそうだよねぇ…」


何かを小声でつぶやいたような気がしたが、僕たちにそれを聞き取ることは叶わなかった。


「?何か言った?」

「ううん、何でもない!…あっ、アル姉…た、担任が来たみたいだよ?」


ボクっ娘の指さす方向を見ると、彼女と同じ茶色の髪を後ろで束ねた、大人の女性がやってきた。

服装は、ボクっ娘と同じような感じの、日本じゃ違和感のある服装。

なんだろう、ファンタジーRPGで良く見るような服だ。


「…おぉう、でかい痛い痛い真菜わかったからつねらないで痛い痛い」


少し見とれていると、真菜から腕をつねられた。千春は自分の胸と比べて「私より大きい…」と呟く。


「4人、揃ってるわね?さて、これからあなたたちにはオリエンテーション、受けてもらうわよ」

「オリエンテーション…ここでですか?」

「さすがにここではやらないわ。こっち、付いてきて」


そういうと、担任と思わしき教師は僕たちを先導して体育館の外へと出る。


しばらく歩き、僕たちは学園の少し外れへと来た。そこには大きな門のような鳥居があり、僕たちはそれをくぐる。同時に、何か違和感。


「…ん?」

「どうかしたの?」

「空手やってる三奈ならなんとなくわかると思うけど…なんて言うか、空気が変わった」

「…確かに、空気が変わったね。私も一応弓道やってたからその辺りは察知できるよ」

「何よ、この中で武術やってないの私だけじゃない。でも、空気変わったのはなんとなくわかるわよ」


僕たちがそんな話をしていると、先行してるお姉さんの呟く声。


「…さすがね…世界は違っても、察知能力は変わらないか…」


呟いたのはわかったけど、僕たちの話し声の大きさで、何を言ってるのかはあまりわからなかった。…世界、がどうとかは聞こえたけども…?


案内されて付いたのは、古びた校舎…のような場所。一見すると屋敷にも見える。


「さ、入って。この中でオリエンテーションをするから」

「…うーん?」

「今度はどうしたの?」


僕が唸っていると、真菜が話しかけてくる。


「…僕、デジャヴを感じてる」

「どういうこと?」


僕の言葉に反応する千春。僕は少し考えを巡らせてから、こう答える。


「最近、夢で見たような…そんな、朧げだけど…何かを画策していた、ような…」


どことなく、夢で見たような。

以前に「俺」が出てきた時のような感覚が、ほんの少しだけあった。


「あー…わかるかも」

「…真菜も?」

「うん、私もなんとなく…自分だけど自分じゃないっていうか…変な感覚…」


教師は小さな壇上に乗り、僕たちに向かって話しかける。身体能力はかなりよさそうだ。


「さて、まずは自己紹介ね。私はアルフィ・ラント。そこのイルフィの姉に当たるわ。一応言っとくけど、私は教師でもなんでもないわよ。…今はね」


【アルフィ・ラント】か。

…まただ、聞き覚えがないはずなのに、何故か名前とこの雰囲気に親近感を覚えている。

もうこの時点で嫌な予感しかしていない。というより、この人教師じゃなかったんだ。確かに格好が少しラフだとは思ったけど。


「で、これが今からあなたたちに受けてもらうオリエンテーションよ」


そう言って、何やら長柄の武器…のようなものを何処からともなく取り出し、地面をトンと叩く。すると、僕たちの足下が輝きだし、光が僕たちを包む。


「えっ、待ってアル姉、ボクも!?」

「当たり前じゃない。何のために呼んだと思ってるのよ?一応、あなたがこの子たちを引っ張ってくるって設定で組んでるわよ?」


お姉さんはニヤつきながら言っている。

あ、これはドッキリを仕掛けている時の顔だ。


「待って!?ボク本当に聞いてないよ!?」

「さて、今からあなた達5人をこの町…あー、この学園の地下迷宮に転送します。それから生還することが、オリエンテーションよ。さ、気張っていってらっしゃい!あとイル。あんたが知らなくて当然よ。言ってないもの」

「待って!?うそ!?ボクホントに聞いてないからぁぁぁぁ!?」


…僕たちが何を言うまでもなく、転送が始まった。ていうか、いきなりなんだ!?平凡な学園生活を送れると思ったら…まるでゲームや漫画の世界じゃないか!?

言いたいことはボクっ娘がまとめて言ってくれたからいいとして…一体どうなってるんだ!?これは!?

見る人が見たら分かるかと思いますが、転移のくだりは某ゲームからインスパイアさせてもらいました


ラッキースケベからのビンタのあれです

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