嵐は去って、大地に降りて
~嵐は去って Mana~
「まぁ、いろいろとあったけども…」
マキュ姉が私たちを見渡して言う。
「船員・乗客、そして私たち。多少の積み荷は盗まれてるみたいだけど、人的被害がなかったのは幸運だね。…フレッシュゴーレムによる腐臭がものすっごいけども」
「そうだな。まぁ、相変わらず一人グロッキーではあるがな」
フェイト兄が康治を見て言う。彼はグロッキーというより、もう完全に意識がない。今は静かに寝息を立てて眠っている。…顔色はかなーり悪いけど…
「本当は状況のまとめとかしときたいんだけど、みんな疲れちゃってるでしょ?諸々のことはメルカトゥーラについてからにしよっか。私も疲れちゃったし、客室で休んでるね」
マキュ姉はそう言って自分の客室に戻る。私はこのままここにいて康治の様子を見ながら到着を待とうと思う。
「…ま、今回一番頑張ったのはマキュリーだからな。休ませてやるのが道理ってもんだろう」
確かに、甲板で起きていた諸々のことは大体マキュ姉が指揮取ってた気がする。私は客室にいたから甲板で起きたことはまだわかってないけど…
「そうね。それなら私たちも休息をとりましょう。船員に話を聞いたら、到着まではあとは自分たちが何とかするから、戦って頂いたあなたたちはきちんと休息を取ってください、と言ってたからね」
そう言ってリア姉やフェイト兄たちもここを離れ、自分の客室に戻る。
「…姉さんもこう言ってるし、私たちも休息取りましょ。到着までまだ時間あるみたいだし」
ティアナの一言を皮切りに、ほかのみんなも客室に戻る。でも、千春だけは怪訝な顔をしながら何か物思いにふけっていた。
「千春、どうかしたの?さっきあの男の名前を聞いてからずっとそうだけど…」
「…ちょっと、ね。多分これは、私たち全員に関係のあることよ。だから、そこで寝てるそいつにもちゃんと聞かせてあげなきゃダメなのよ。
到着してからの状況まとめでちゃんと話すわ。安心して、別に隠し事とかそんなのじゃないから」
千春はそう言うと、部屋の入口へ向かう。
「ちょっと甲板に行ってくるわ。外の風浴びたい気分になったからね。流奈、由衣もあまり無理はしないでね」
顔が青いから、多分フレッシュゴーレムの腐臭にやられたのかもね。…正直私も疲れと腐臭でちょっとしんどい。
「うん、わかってる」
それからは、特に大きなことが起こるわけでもなく、無事にメルカトゥーラの港へとたどり着いた。
到着するのとほぼ同時に、康治も目を覚ます。まだ若干具合が悪そうだから、私が付き添う形でそのまま下船した。
というか、まだ足元がふらついてて危ない。
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~大地に降り立って Sieg~
「ふぅ…」
どうにかたどり着いた、東の大陸、〈ブッシュ・エルーモ〉その港口である〈貿易都市メルカトゥーラ〉
この町…いや、都市は、魔法世界で最も近代化が進んでいる。
魔力で動く魔導機や、魔力で動く自動車。そして、ビルなどが立ち並ぶ、まさに現代の都市と言えよう。この世界の貿易の中心で、人が多く集まるというのもあるだろう。故に、冒険者ギルドの本部もこの都市にある。
そして、このブッシュ・エルーモ。俺たちの住むグロウ・テーレから北東に位置する大陸だ。温暖で穏やかな気候、大陸の中心には大きな草原。大都市メルカトゥーラから少し出れば、そこはもう大自然の広がる場所。
大陸を縦横断するように伸びている鉄道が、どこか日本の田舎のような風情を醸し出している。
余談だが、フェミリィやティアナ、ルルリアなどはメルカトゥーラに来たのは初めてらしい。
「…現実世界の風景にどこか似てますね」とはフェミリィの談。
勿論、グロウ・テーレから外に出たことがないわけではなく、ここから真反対の方角にある国に出向くことの方が多かった、ということらしい。
俺たちはこの後列車に乗り、大陸最北端にある〈ヴァルハイム〉という町へと向かう。そこは妖精族が多く住まう町ではあるが、人や魔族、ドワーフなども暮らしている。
この多種族が一様に集う町、というのは現在では非常に珍しい。ドワーフはドワーフ、魔族は魔族でテリトリーを作り、そこで暮らしているものが多数だからだ。
ここも、人間や妖精族が多く住まい、魔族やドワーフなどはほとんど住んでいない。が、最近はメルカトゥーラでもその動きが弱まり、多種族が生活するようになったとは俺も聞いている。
理由としては、「貿易の中心に居を構えることは、種族間交流として大きな利点を持つから」だそうだ。
そんな話を初めて聞いた時、真菜や千春達は、多種族が一様に住む町、というのに違和感を覚えたそうだ。
だが、イグニースの町はヴァルハイムに似たようなもので、多種族が一様に集っている。だから、俺はルーファからヴァルハイムという町の在り方を聞いたとき、大きな違和感を覚えることはなかった。
もひとつ余談なんだが、魔族やドワーフは、王制を敷いている。
彼らはそれぞれの地域を統治しているが、ここメルカトゥーラは多種族による民主制。議会が中心となり、政治をやっていく…まぁ、日本と同じようなものだ。
世界中から人が集まる貿易都市なだけあって、港口だけでも大いに賑わっている。船から降りた俺たちを待っていたのは、物々しい警備隊の集団。彼らがここにいる理由はただ一つ。
「大嵐海賊団、ザ・テンペストの一味を捕らえたそうですね?」
船員が伝書鳥でも送ったのだろう。既にメルカトゥーラの警備隊には話が行っていた。
「えぇ、こいつらがそうよ」
マキュ姉が差し出したのは、俺たちが捕縛した数人の男。
「非常に助かります。大嵐海賊団は正に神出鬼没で、構成員を捕らえることすら敵わなかったのです。この男たちから聞いた情報は、世界中の同志たちに届けます」
「…こいつら下っ端の中の下っ端のようですので、大した情報はないかもですが」
そう言って、隊長と思わしき男が頭を下げる。そのまま、海賊たちを連行していった。
「…あいつらの行く末は、よくて刑務所、悪くてコレルの大監獄行きだな」
「そこで与えられる裁きがどんなものであれ、今後恐らく、奴らが陽の光を浴びることはなくなるだろうな」
バリー兄とビリー兄の呟き。
コレルの大監獄…についてはまたいずれ話そう。…そこについて話すと本当にめっちゃくっちゃに長くなっちゃうし。今は列車に乗ることの方が重要だ。
「忘れかけていたけど、これって学校の授業の一環なのよねー…」
続くようにしてティアナがそんなことを呟く。忘れんな。いや気持ちはわかるけどさ、制服着てるだろ?
港から出た後、俺たちは一路駅に向かう。
「ちょーっと予定が狂っちゃったけど、こっから先は列車よ。ヴァルハイムのすぐ近くの集落まで列車に乗っていくわ」
「本来ならここで少し準備を整えるはずだったんだが…予定が狂ってるからな。とっとと列車に乗るぞ。出発が近い」
フェイト兄の言葉を聞く限りでは、列車の時間までに各自準備を整える時間をくれるはずだったらしい。
まぁ、列車に弱いやつだっているしな…と思いつつ、俺は千春を見る。
「…何よ?」
「いや、別に…」
「あんたの船酔いほどじゃないからね?」
俺たちはそのまま列車に乗り込む。…実はまだ船酔いの後遺症で足元がふらついている。




