異世界列車で、通じるスマホ
発車時間になり、動き出す列車。
千春はごそごそとカバンを漁ると、錠剤を取り出してそれを服用する。
現実世界で普通に売ってる市販の酔い止めだ。
「…千春、それ効くの?」
「あんたみたいに列車にトラウマ抱えてるわけじゃないからね。体質的なものだから普通に効くわ」
「そうなんだ。…なんだかうらやましいな」
「…私もあんたのトラウマ知らなかったわけだし、何か言うつもりはないわ。…お互いさまってことにしときましょ」
列車の到着時間まで割と時間がある。
この列車は冒険者もよく利用する、大きな列車だ。
列車の中に、会議用の車両があり、集った冒険者たちが依頼達成のために会議を行うためのものだ。
それ以外にも、色んな国の軍隊が移動中の軍議に使用したりもしてる。
んで、今回はその車両を俺たちが利用させてもらう手筈になっているみたいだ。
「先ほどの大嵐海賊団についてだ。千春がどうやら主犯格の男について何か知ってるらしい」
「千春が?」
「あぁ。こっから先は本人に話してもらおう」
フェイト兄が千春に目線を向ける。
「ていうか千春。お前顔青いが大丈夫か?」
「…あんまり良くないけど。まぁ話せる程度には酔い止め効いてるし大丈夫よ」
千春は一呼吸置くと、続けて語りだした。
「中にいた人は知ってると思うけど、大嵐海賊団の首領と思わしき人物。マリク・テンペストって言うんだけど…
あれ、何年も前に失踪したはずの、風の聖戦士の血を引く…つまり私の叔父にあたる人なの」
その言葉に苦い顔をしたのがマキュ姉。
「…噂は聞いていたよ。名前は知らなかったけど。なんで失踪したのかも不明だったけども…そう、海賊に身を落としていたんだね…」
それに続けるように、バリー兄が言葉を紡ぐ。
「なるほどな。考えられない話ではないな」
「確かに、そうだよね。…その理由、康治くんわかる?」
「…うん。レーヴァテインとも関係しているからね」
どういうことかというと、そもそもなぜレーヴァテインが失われた神器になってしまったか。それを話す必要がある。
簡単に言うなら、100年以上前、炎の聖戦士が世界征服を企んだのだ。
俺の曽祖父の弟にあたる人間だったそうで、その時にレーヴァテインがそいつに奪われて、無理矢理精霊を使役した。
その時、精霊が怒り狂ったのかはわからないが、男は炎に包まれ、火炎の怪物へと変貌してしまった。
そして、怪物となった男を退け、打ち取ったはいいが、神器レーヴァテインはどこにも存在しなかった。
それから100と10年。現在も一族を上げてレーヴァテインを捜索しており、レーヴァテインの発見及び、それの継承は一族の悲願でもあった。
炎の聖戦士の一族に学者が多いのは、その一族の悲願を叶える為、なのだとか。
「…それで、その人がなぜこういう蛮行に及んだのか調べるために、その人の遺体の残留魔力を調べてみた結果、暗黒の力に染まってしまっていた。
だから、今回マリクがああいった行動に出たのも、暗黒の力に染まってしまったからだって思うんだ」
暗黒の力。
聖、邪ともつかない、完全に真っ黒な力。
暗黒教団の人間が信仰している力の源であり、常人が身体に取り込めば確実な死を迎えるとされている、非常に危険な力だ。
この力に適性のある人間は存在している。
なんとそれは聖戦士達の血族だ。
詳しい理由は定かにはなっていないが、聖戦士など聖なる力を操る人間は暗黒の力に呑まれやすく、同時に使役するための適性が高い。
そのことは聖戦士達自身がよくわかっていることであり、世界中の国々には「我々聖戦士が暗黒に呑まれるようなことがあれば、情け容赦なく我々を滅ぼしてほしい」
というお触れを出している。
そして、聖戦士達も完全に暗黒に呑まれてしまった、手遅れな人間には情けをかけることをしない。
…だけど、助けることが叶う可能性があるのならば、救うことに命を懸ける。それがどんな人間であろうとも。
その『甘さ』こそが俺たち聖戦士のやり方、だからだ。
物凄く簡単に言ってしまうなら、暗黒に染まるってのは単純に「性格や素行が救いようのないくらいめちゃくちゃ悪くなる」と言うことだ。
「そうだね。康治くんの言う通り。…ところで千春、このことは家に伝えなくていいの?」
「…伝えなきゃ、だけど…電話なんて通じないでしょ?何より今この状況で話したりしたら吐きそ…」
千春はそう言うと、さらに顔が青くなり、「ごめんもう無理横になっていい?」と言って備え付けのソファーに横になった。
「…そういやさ、本当に電話って通じないのかな?」
俺は答えを聞く前に、スマホを取り出して父さんに電話をかけてみる。すると…
『ん?どうした?今ヴァルハイムに向かってるんじゃ…』
「うおっ!?通じた!?」
俺は電話が通じてしまったことに驚き、スマホを落としかけた。
『ん?どういうことだ?父さんに説明してみろ』
「じつは…」
かくかくしかじかと、電話した理由を伝えた。
『なるほど…通じてしまうのか、電話が。確かに、通信機があるくらいだしな。もしかしたら何か波長が合ったのかもしれん』
ちなみに、ハンズフリーにしてみんなにも聞こえるようにしてある。
「それじゃあ、もしヴァルハイムで何かあったら父さんに電話するってことでいい?」
『わかった。気をつけてな。流奈も由衣も、な』
「うん、気を付ける」
「またね、お父さん」
俺は電話を切って、みんなに向き直る。
「…びっくりした」
「…通じるもんだね。電話」
「でも、流石にネットには通じないみたいだ」
「ふんふん…それスマホって言うんだ…」
俺と真菜が顔を見合わせていると、ルーファが横からのぞき込んでくる。
「ん?どうした…って、魔法世界じゃ珍しいか。これ」
俺はスマホをゆらゆら揺らしてルーファに見せる。
「ね、科学世界の人たちはそんなの当たり前にように持ってるの?」
「まぁ…そうだな」
「私も持ってるし、千春も持ってるよ。勿論三奈も持ってるよね?」
「今の時代の必需品だからね。持ってないほうがむしろ珍しいよ」
「ふーん…そうなんだ…」
ルーファは腕を組み、何か考えている様子だ。
「…どうした?」
「んーん。ただ、今計画してるある構想の参考になるかなーって。…あとは形だけだし…」
ルーファは「んー、ちょっとシミュレーションしてみるかぁ…」と言って椅子に座りなおし、何か設計図のようなものを広げて唸り出した。
…そっとしておいてあげよう。
その後、約2時間の時が流れ。
『間もなく、列車は終点へと到着いたします。お荷物のお忘れなどないように、ご注意くださいませ』
「…着いたの?」
アナウンスが流れ、俺たちは列車を降りる準備を始める。
千春は、酔い止めの薬が効いてきたのか、今は普通に椅子に座っている。
「…それにしても」
「ん?」
「いくら技術の結晶、とはいえさ。大陸縦断を2時間でよく移動出来るものよね」
窓の外を見ていた千春がそう呟く。
確かに、冷静に考えればそうだよな。
現実世界での列車なんて、2時間だと特急でも2個隣の県に行けるか行けないか、くらいだよな。
そして、言っていなかったけど俺たちが乗ってる列車は超特急。
時速にすると、音速は出るんじゃないかってくらい早い。
普通なら、こういう列車に乗ったらものすごいGがかかって、千春ではないけどグロッキーになりがちなものだ。
だけど、乗員乗客に、そんな様子は一切ない。…いや、千春みたいに列車に弱い人もいるから一概にそうとは言い切れないけれど。
その理由としては、以前にも言った、上位属性。それの、「空」属性…空間を操る力によるものなんだ。
上位属性。
空属性ってなんなんだ?と言われたら。
研究段階で仮説なのもかなり多いんだけど。
『空間そのものを操ることが出来る』属性、とでも言うべきだろうか。
その中には、重力や質量、密度など…現実世界の物理学者が見たらあまりにも常識離れした結果が出て、SAN値削れて発狂してしまうような、そんな代物だ。
そこまでわかっているのに、なぜ未だに研究段階なのか?
それは、『生物が魔術として操ることはできないが、魔動機など、生物に頼らない方法を用いれば、空間に干渉できる』という特徴があるからだ。
研究段階って言うのは「あくまで人間が魔術として、属性として操る方法」を模索している、ということだ。
「時」の属性はこれよりももっと研究が進んでいない。
『確かに属性として存在することは、確認できている。しかし、それを何かを用いて操る術が現在の技術では確立できない』というのが、現段階の研究で出された結論。
そして現在は、レグヌムという国にある『魔道研究院』と呼ばれる、世界でも有数の魔術の研究をしている施設で、現在も研究が進められている。
そんで、この列車の中に重力を操る魔動機を設置し、列車が進んでいる時に内部にかかるGを相殺している、というわけだ。
同じような魔動機で、列車の外で発生するであろう、衝撃波…ソニックブームってやつも完全に無効化し、ただの風になっている。
…うん、現実世界の物理学者には絶対見せられない光景だ。




