嵐の中の、大きな邂逅
~精一杯の愛情を Mana~
「…っと、荒れてきたなぁ。それで大嵐海賊団ってのは…」
「…マキュリー、少し待ちなさい。康治の様子が変よ」
リア姉の言葉を聞いて、私は隣で横になってる康治の姿を見る。
顔が真っ青で、布団にくるまって体を丸めている。時折うめき声をあげて、嗚咽も聞こえてくる。それから感じるのは、何かに対する恐怖。
「っ!こんなに早く嵐が来るなんて…!」
「お兄ちゃん!薬!早く薬飲んで!」
流奈と由衣が康治の荷物から薬を一包み取り出す。
船酔いの薬か…多分鎮静剤。
「ぅ…うぁ…」
恐怖で体がこわばっているのか、二人の力じゃあまり体を動かせないみたい。
「ね、流奈、由衣。私に任せて」
私は康治の体をそっと抱きしめ、ゆっくりと語り掛ける。
「大丈夫、私たちがいるからね。うん、大丈夫だよ。一人じゃない。さぁ、薬飲んで?」
「ぁ…ぅ…」
康治はゆっくりと薬を口に含むが、吐きだそうとする。体が受け付けないのかな…
私は自分の指で、優しく康治の口を塞いで、そっと飲ませようとする。
「吐いたらダメだよ?もっと辛くなっちゃうから…ね?ゆっくりでいいの…」
私は彼をもう一度胸に抱きよせる。それが一番安心を与える方法だと思ったから。
「……」
「大丈夫…大丈夫だよ…みんないる、一人じゃないから…」
康治は耐えつつ、ゆっくりと薬を喉に通す。
その後、私の背中に手を回して、お互いに抱き合うような形に。
「……ちょっと…楽になった…ありがと…」
私の胸の中で康治はそう言い、私は彼をゆっくりと横にする。その寝息は若干苦しそうではあるものの、先ほどに比べたら大分穏やか。…もうしばらく、ギュッとしてあげよ。
「…落ち着いたみたいね」
「それにしても、流石ね…長年そばにいただけはあるわ」
「あぁ全くだ。…俺もティリアにここまで甲斐甲斐しく世話されたいもんだうぐっ!?」
「余計なこと言わないの。全くあんたは…」
「あはは…でもホントすごいよ真菜」
「まー…慣れてるし…ね?」
実際康治が病気になったときは私が看病しに行ってあげたりしてる。そして私が病気になったら康治が看病してくれている。お互いに慣れっこだったりするの。
「…それで、どうして康治さまが嵐が来ただけでこんな反応なのか教えてもらえます?ただの船酔いじゃないですよね、それ」
「うん、そうだね。でも、どっから話せばいいのかなー…」
「とりあえず、マキュねぇさま、大嵐海賊団の説明をお願いできる?そうしたらにぃさまのことも説明できるから…」
大嵐海賊団。私も名前しか聞いたことがないけど、嵐の中でのみ出没し、略奪を繰り返す非道の集団だということは知っている。
謎の多い組織で、世界中のあらゆる組織から指名手配を受けているって話。
暗黒教団との関わりもあるとか…
「…そういえば、町の冒険者ギルドでは必ず手配書が貼ってあるな。なるほど、それがこの嵐の中でやってくる…って感じか?」
「うん。それで、大嵐海賊団がなんでにぃさまの船酔いに関係してるかって言うとね…」
流奈と由衣が語りだす。
幼いころ、メルカトゥーラの遊覧船に乗っていた時予期せぬ嵐に巻き込まれて、その時に大嵐海賊団に襲われた。その時に、康治は海に落とされて、船に対するトラウマが植え付けられたってこと。
…詳しいことは本人しかわからないみたいだけど、幼い二人を守ろうとして姑息な罠にかかってしまった…ということらしいの。
康治が言うには「俺の人生の汚点の一つだな…」らしい。
「そうだったの…」
ひとしきり説明を行った流奈と由衣。その眼には涙が浮かんでおり、二人にとってもいい思い出ではないみたい。
「なるほどな…噂には聞いていたが、あの事件の被害者がこいつだったってことか…」
バリー兄さんが康治の隣に行って静かに言う。頭に手をポンポンとやり、その仕草からは優しさが見受けられる。
「別に隠してたわけじゃないんだろうな、こいつも。きっと思い出すだけでもしんどいだろうに。そりゃ、嬉々として話すような内容じゃないわな。真菜は知っていたんだろ?」
「うん。話すとき、結構苦しそうだったけどね…」
「なるほどな、それだけお前を信頼してたってことだ。うらやましい限りだぜ全く」
その時、波の揺れとは違う、大きな揺れが船を襲う。
『うわあああ!海賊だ、大嵐海賊団だ!』
乗客の叫び声が聞こえる。
「チッ!話をしてたら現れやがったか!」
「よし、それなら私たちが出ましょう!真菜と流奈と由衣…それとティリア!ここで康治をまもりな…」
「…海賊団が出たのか…!」
「!?康治!無理はしないで!」
「…正直かなりきつい。でも、足手まといにはならない…!」
康治は杖を取り出し、床に突きながら立ち上がる。その足取りはふらついてはいて、身体が震えてはいるものの、確固たる意志を感じる。
「…借りを返すまたとないチャンスなんだ…!このまま寝てたら一生後悔しそうで…!」
「………わかったわ。ただし、絶対に無理しないことと、前衛には回らないこと。杖を持ってるってことは、術で戦うってことでしょ?」
「…そういうこと…うっぷ…!」
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~耐えがたきトラウマに耐え Sieg~
大嵐海賊団が出たという話を聞いて、俺は震える体と恐怖で塞ぎ込む心を押し切り、立ち上がる。
真菜がいなかったらきっと薬すら飲めなかったくらい、体が強張っている。
俺の魔術の触媒である、長い杖を取り出し、それを床に突く。正直かなり揺れている感が強いし、身体の震えが治まる気配はない。だがそれでも…!
「…借りを返すまたとないチャンスなんだ…!このまま寝てたら一生後悔しそうなんだ…!」
「………わかったわ。ただし、絶対に無理しないことと、前衛には回らないこと。杖を持ってるってことは、術で戦うってことでしょ?」
「…そういうこと…うっぷ…!」
襲い来る吐き気と恐怖に耐えながら、マキュ姉の指示に従う。
バリー兄をリーダー兼指揮及び千春の二人が中衛。流奈と由衣とフェミリィの三人を前衛。そして俺と真菜が後衛をこなす戦闘パーティを組む。
そしてルルリア他数人を連れ、大嵐の中の船内の探索へ。
乗客の避難場所を船員と共に定め、俺たちは船内に残された乗客を探して回る。
「うわああああああああああ!!」
「おとなしくしやがれ!持ってるもん全部差し出せや!」
「ひいいい!!!」
「そこまでだ…!うぇっぷ…」
「あぁん?」
乗客を襲っていた海賊に向かって言う…が、どうも締まらない。
「私たちは聖戦士よ!この船での略奪は許さないわ!」
俺の代わりに千春が海賊に向かって言う。今は千春にリーダーを任せてある。
「聖戦士だぁ!?なんでこんな奴らが船に乗ってるんだ!?まぁいい、聖戦士だろうが何だろうが、関係ねぇやぁ!」
「…眠れ!」
こっそり術式を組んでいた睡眠魔術。海賊に向かってそれを放ち、眠らせる。
「あぁ…?ぐぅ」
海賊はドサッと床に倒れ込み、意識を失い、寝息を立ててしまう。
「誰かこいつを束縛しといてくれ。…ケガはないですか?」
「あぁっ!聖戦士様なのですね!ありがとうございます!」
「ここから真下の部屋に向かってください!そこが避難場所になってますから!」
「ありがとうございます!」
フェミリィの言葉を受け、礼を言って乗客の男性は走り去っていく。同時に、流奈が海賊の束縛に成功した模様。
「千春ねぇさま、縛り終わったよ」
「うん、これなら大丈夫ね」
流奈の縛り方は、腕の力を使用させない縛り方。これだと縄抜けをすることが出来ない。ついでに足も縛っている。
「よし、このまま船内を回るわよ!」
俺たちが船を回っていると、所々で怒号が聞こえてくる。…が、その半分以上が俺らの身内によるものだ。
『てめえら略奪なんぞしてんじゃねぇぞゴルァ!!!!』
『俺らの前で略奪行為なんざぁいい度胸してるじゃねぇかこの野郎!!!』
この声がフェイト兄とビリー兄の声。
『うちらの前で略奪やるとかあんたら覚悟は出来てるん…でしょうねぇ!?』
『オラオラァ!あたし達は殺しはしないけど容赦もしないからとっとと武器置いて捕まりなさいなぁ!!!』
これがリア姉とアル姉の怒号。なんていうか、どっちが悪者かわからねぇ。
嵐の中だからかなり足場は悪い。しかし「親玉がいるとしたら甲板だろう」という判断の下、フェイト兄をリーダーとした成人を中心に、俺たちが組んだパーティ以外の残りのメンバーが甲板へ向かい、俺たちパーティは船内にいる乗客達の避難確認や、海賊からの護衛を行う。
結論から言うと、「親玉は外にいる」と言う判断は完全に間違いであったことが、すぐに判明した。




