僕と俺と、意識が戻って
意識が統合する直前。
さっきまで自分を見ていたような、自分が見ていたような、不思議な感覚がそこにはあった。
「魔法の世界の僕は、こんなに勇ましかったんだね」
「科学の世界の俺は、こんなに辛かったんだな」
改めて、2人いる自分の姿を把握する。
「卒業式の日、僕は僕じゃないような感覚があったんだ」
「それは俺が夢で見た、俺の意識だったな」
あの時僕は、確かに俺だった。
無意識のうちに、炎の力を行使した。
意識を持って、炎属性の魔術を使った。
「きっとベースは、俺になるんだろう」
「弱い僕には、さよならだ」
「違う。弱い僕も、俺自身だ。さよならは告げない。一緒に生きるんだよ。
僕の優しさが、俺の心の支えになるはずだから」
だから、僕も俺も、同時に存在する。
「何も変わらないけど」
「何もかも変わる」
「剣と魔法と」
「拳闘術と」
『いいことも悪いことも、全部糧になる』
拳を突き合わせると、2人いた自分が――
僕が、俺が。
1人の姿に変わる。
『さぁ、行こう。
今から全てが始まるんだ』
科学の世界の一般人、天田康治として。
魔法の世界の聖戦士、ジーク・イグニースとして。
二つの人格が一つになり、今改めて、生まれ変わる。
人格の同調、その瞬間だ。
今ここに、一つになる。
人格が一つになったのを確認して。
目を開けると、そこは先ほどとは変わらない光景。
見知った顔が立ち並ぶ、如月学園の学園長室。
変わったことと言ったら、さっきまでいなかった魔法世界の住人の姿があること。
そして、魔法世界と現実世界――――「俺」と「僕」の記憶をちゃんと保持していること。…こちらの世界での記憶障害は治ってないからまだモヤがかかった感じはあるけども。
「気が付いた?」
「うん…」
俺に話しかけてきたのは、命の聖戦士であり、次女の【ティアナ・ハイレン】
薄紫の少し短めの髪の少女。おっぱいがとても大きい。
さっきの俺らを案内した薄紫の髪を低いポニーテールにした子が、ティアナである。
「どうにか無事に成功したみたいですね」
今ほっとした声を出したのが【フェミリィ・リュミエール】
光の聖戦士の妹。薄い金色の髪のツインテールで、ティアナとは正反対の胸の大きさ。絶壁。
「…よく見たらティアナもフェミリィも、俺たちと同じ服装…?」
「私もいるわよ?ま、みんな年が同じだからここにいるのは当たり前のようなもんだけどね」
今声を出したのが【ルルリア・ソンブール】
闇の聖戦士、バリー兄とビリー兄の妹。黒髪のクセッ毛のショートヘア。胸の大きさはフェミリィとどっこいどっこい。
三人共16歳で、もちろん俺たちの幼馴染だ。
16歳が多いのには、ちょっとした理由がある。今は話す余裕はないが。
「ていうか、性格のベースはどっちなのよ? 肉体のベースはこっちの、現実世界の方みたいだけど。まさかさっきみたいに「僕」だなんていうつもりじゃないでしょうね?」
ティアナがニヤニヤしながら俺に言う。
「…性格のベースは魔法世界みたいだ。一応「僕」もいる感覚はある。
ま、どっちみちいつかは一人称も変えたいなーって思ってたし、いい機会だよ」
俺は伸びきった髪をまとめながら言う。切りてぇ。
「んー…黒髪の自分に違和感…」
「私もよ…なんか複雑…」
真菜と千春は自分の髪に触れながら言う。俺も黒髪かつ割と伸ばしっぱなしの自分に違和感。どうやら二人も肉体のベースはこっちの世界の方で、精神のベースは向こうの世界の方らしい。
髪をさっとまとめ上げる。ヘアゴムはフェミリィが「余ってるのあげますね」と言って渡してくれた。
「まぁ、しばらくは違和感があるだろう。そのうち髪の色は変わっていくはずだ」
父さんが俺たちに向かって言う。それならば、安心だ。向こうの世界の髪の色、気に入ってるし。
因みにだが。 髪の色は俺は暗めの赤。真菜が深い青で、千春が薄めの黄緑だ。
聖戦士は髪の色で見分けがつく。髪の色と得意属性はリンクしている。だなんてよく言われることでもある。
「さて、と。そろそろいいかな?」
声のした方向を見ると、マキュ姉が立っていた。
「あなたたちは、如月学園の特別推薦枠で入った生徒たちってことになってるの。そして、あなたたちのカリキュラムには「特別遠征」という名目でいろんな場所を回ってもらうことが入ってるの。
…まぁ、学業にも専念しなきゃだけど、ある程度魔法世界のいざこざも片づけなきゃならないから、その策ってことね。
そんでまず、あなたたちは如月学園特別クラス―――クラスZとして、学園生活を送ってもらいます」
クラスZ。
「Z…まぁ、クラスはAからEまであるんだけど、どこにも属さないのと、最高、最強であって欲しいって意味でZを付けたの」
「…この白いブレザーはもしかして、聖属性のイメージカラー…?」
「まぁ、そんなとこだね。一目で聖戦士だって分かるようにしたんだけども…」
千春の言葉に軽い声で投げ返すマキュ姉。と、ここでマキュ姉が頭をかきながら言う。
「んー…ちょっとこれ見て」
そういわれて渡されたのは「如月学園クラスZ、特別カリキュラムについて」と書かれたしおりだった。
「まぁ、さっきも言ったけど、普通の授業に付けくわえて、特別カリキュラム…という名の任務に就いてもらうことになってるの」
「…なんとなくわかった」
「んで、早速だけど明日からその特別任務を受けてもらうことになってるわ」
『…はぁ!?』
「待ってくれ、いきなりすぎるんじゃないか!?」
「そうよ!まだ入学初日よ!?」
俺や千春の声。さすがにこれは誰でも怒ると思う。
「…今回の任務なんだけど、今現在最優先で行わなきゃいけない任務なの」
先ほどまでの飄々とした声から一気にトーンが下がる。
…どうやらマキュ姉は悪ふざけで組んだわけじゃなさそうだ。
俺達は気を引き締めて、話を聞く。
「確認だけど、聖戦士の持つ神器はわかるよね?」
「あぁ、そりゃもちろん…わかるさ」
俺は少し声を落として言う。
神器。
聖戦士の持つ、特別な力を持った武器のことだ。
〈炎の剣 レーヴァテイン〉
〈氷の弓 アルテミス〉
〈風の鞭 シルフィード〉
〈水の槍 ポセイドン〉
〈土の鉾 ロムルス〉
〈雷の手甲 トール〉
〈光の大剣 エクスカリバー〉
〈闇の双銃 ギルティ&ペナルティ〉
〈命の槍 グングニル〉
神器は、15か16歳になる少し前に長男長女が親から継承され、受け継がれていく。真菜や千春は、聖都へ向かう前日に継承の儀式を受け、神器を扱う身となっている。
その神器にはそれぞれ精霊が宿り、意思を持ち独自に行動できる。精霊は聖戦士のパートナーのようなものだ。故にもちろん聖戦士は全員、精霊達と仲がいい。
本来ならば俺も神器の継承を受けるべき人間なんだが、俺の手元には一切そういった類のものはない。
炎の神器レーヴァテインは、現在その行方が分からなくなっていて、所在不明から既に100年以上経過している。
「…今回の任務は、炎の神器レーヴァテインの捜索が主になっているの」
「…!」
「少し前の話なんだけど。
妖精族の住む町、ヴァルハイムに野暮用で行ったときに神器の反応を見つけたの。
この連絡がなぜ炎の聖戦士に直接行かなかったのかは、まぁちょっと内緒でお願い。色々あるの。
高校生活に慣れた月末あたりにこの特別カリキュラムのこと言おうと思ったんだけど、早急に行かざるを得ないと思ったの。あ、ちなみに本来の目的地は別の場所の予定だったよ」
「それじゃあ、マキュ姉はじいちゃんには…?」
「ごめんね、もう失踪した後だったから私も会えてないの」
「そっか…」
俺は少しがっかりした。もしかしたらじいちゃんに会えるかもしれないと心の底で思ったからだ。
「ん…がっかりさせちゃってごめんね。
とにかく、明日は朝にグラウンドに集合。もちろん制服。冒険着あるなら一応用意しといて。
今日はどうせどのクラスもホームルームだけだし、ここで解散しちゃうね。
…あぁ後、松川さんには説明をお願いしてもいい?置いてけぼりでさっきからずっとポカーンとしてるから」
俺たちは少しざわつきつつも、適当なところでそれぞれの家に帰ることに。
俺もまだ完全に事情が呑み込めているわけじゃない。第一、人格の同調…というべきか、これは。
これの影響か、頭ん中がぐるんぐるんしている感覚がある。
それに、全く話についていけてない三奈に、いろいろと説明したりとかもしなきゃいけないんだけど…
「…ごめん、私かなり混乱してる…」
「…そりゃそうだよな。いきなりこんなことがあったんだからそりゃ混乱もするよ…」
「康治だってなかなか会えないご両親や、久々に再会した二人ともお話ししたいでしょ?だから、説明は後でスマホかなんかにメッセージ送っといて」
「ん、わかった。気ぃ使ってくれてありがと」
そして、俺は両親と、二人の妹と幼馴染、そしてティアナとフェミリィ、イルと共に帰路に着く。ルルリアは今不在の人達と一緒に色々と準備があるからと言って、マキュ姉のところに残った。
「同調の儀式は本来なら20歳にならないとやらない事だから、何かあったらヤバいから一緒にいてあげて?」
と、マキュ姉がティアナ達に言っていた。
真菜と千春の両親は聖戦士として、いろいろ込み合った話があるから一旦うちに来る、だそうだ。




