コウギョク
アタシの名前は、ウル。
......かつては、そう呼ばれていた。
今となっては、そう呼んでくれるのは、双子の弟のクコだけ。
小さい頃のアタシの世界は、パパとママと、クコしか居なかった。
それでも幸せだった。
“アタシだけ”は
買い物に行って帰ってきたパパとママが、いつも悲しそうな顔をしていたことも
ある時、2人に内緒で出かけていったクコが、珍しく大声で泣きながら、2人に縋った時も。
アタシとクコを抱きしめて、ただ「ごめんなさい」と言い続ける2人にも、気づいていなかった。
パパとママが死んで、クコと2人で生きていくしかなくなって......
愚鈍なアタシはやっと現実を知った。
犬猿の仲であるドワーフとエルフの間に生まれた望まれない子。
どちらの国に行っても拒絶される存在。
アタシたちは、2人に守られていただけだった。
大きな都市のスラムと呼ばれる無秩序な地域に身を潜め、息を殺して生きていた。
食べ物も盗んだし、お金も盗んだ。
生きるためなら、誰かの命を奪うことだってした。
それでも、アタシたちは、互いが居るから平気だった。
そんな暗がりに慣れた生活に、一筋の光が差した。
泥に汚れ、紅く染まったこの手を、彼女は一瞬の躊躇もなく握って、暗闇から連れ出してくれた。
救われたの。
2人が死んでから、クコしか居なかった私の心に、優しく、そっと寄り添うような光が増えた。
そんな光も、奪われた。
世界という大きな闇に。
もう、何も願いはしない。
強大な闇を呑み込めるのなら、あの人にもう一度会えるのなら
アタシは、何度でもこの手を紅く染め上げる。




