第二幕:リリアナ拘束
① 学園の朝
朝の光が、学園の長い廊下を白く照らしていた。
授業前の静けさ。
まだ談笑も始まっていない時間。
その静寂を裂くように、重い足音が響く。
黒衣。
王城の紋章。
王城執行官が三名、廊下を進んでくる。
視線が集まる。
誰も声を出さない。
職員が小走りに近づき、低く何かを確認する。
形式は整っている。
文書もある。
署名もある。
学園側は、抵抗しない。
抵抗できない。
扉が叩かれる。
リリアナが振り返る。
「……はい?」
黒衣の男が一歩前へ出る。
「リリアナ嬢。王城より事情聴取の要請です」
声は丁寧だ。
だが温度がない。
教室の空気が凍る。
彼女は立ち上がる。
「私は出頭命令を受けていません」
正しい指摘だった。
正式命令は届いていない。
執行官は微動だにしない。
「予防措置です」
その一言で、場が閉じる。
予防。
まだ罪はない。
だが、可能性はある。
それだけで十分だという論理。
リリアナは周囲を見渡す。
友人の視線。
教師の沈黙。
誰も彼女を責めない。
だが、誰も止めない。
彼女は小さく息を吸い、頷いた。
「分かりました」
手を縛られることはない。
だが、両側に黒衣が立つ。
その構図だけで、意味は十分だった。
廊下を歩く。
足音がやけに大きく響く。
背後で囁きが生まれる。
噂は、走るより速い。
拘束は短期。
事情確認のみ。
そう説明されている。
だがその一歩は、
“記録された人物”としての一歩だった。
扉が閉まる。
学園に、微かなざわめきが残る。
② レディアナの決断前夜
知らせは、昼過ぎに届いた。
控えめな報告。
「リリアナ嬢が、王城の事情聴取を受けられました」
最初、意味が入ってこない。
事情聴取?
なぜ?
何の?
次に、胸の奥で何かが熱くなる。
怒り。
理不尽への怒り。
守られるはずだった人が、囲われた。
その事実。
だが怒りの次に来たのは、もっと冷たい感覚だった。
理解。
これは始まりだ。
彼女は椅子から立ち上がる。
窓の外を見る。
かつて舞台に立ったあの場所。
あのとき、自分は断罪される役だった。
糾弾される側。
裁かれる存在。
そして最後は——守られた。
常に“対象”だった。
象徴であり、受け身だった。
だが今回は違う。
今、連れて行かれたのはリリアナ。
動いたのは国家。
ならば——
自分が動かなければ、終わる。
レディアナは静かに決める。
役割を待つのは、もうやめる。
与えられる立場ではなく、
選ぶ側に立つ。
その決意は、声にならない。
だが確かに固まった。
夜が来る前に。
彼女は初めて、
“役割を無視する”覚悟を抱いた。




