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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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第三幕:王子の選択

① セヴランからの報告


夜が落ちるより早く、報告は届いた。


扉が閉まる音と同時に、セヴランの低い声が響く。


「粛清派が独断で動きました」


王子の指先が、机上の未署名文書に触れたまま止まる。


——来たか。


驚きはない。


理解は、すでにあった。


自分の“未署名”が空白を生んだのだ。


決めなかった。


止めなかった。


空白は放置されない。


誰かが埋める。


それが制度だ。


王子は顔を上げる。


迷いは消えていた。


「拘束はどこだ」


即答だった。


セヴランは一瞬だけ目を伏せる。


「王城北棟の仮拘束室。正式収監ではありません」


「今は、な」


王子は立ち上がる。


椅子がわずかに軋む。


「殿下、これは——」


「私の責任だ」


それ以上の言葉を、セヴランは飲み込んだ。


王子の歩みは速い。


決断が、ようやく形を持った。


② 王子とリリアナ


北棟の一角。


正式牢ではない。


石壁は簡素で、窓も小さい。


だが鉄格子はある。


“仮”であっても、囲いは囲いだ。


リリアナは椅子に座っていた。


手は自由。


だが、外へ出る自由はない。


足音が近づく。


鍵の音。


格子の向こうに立ったのは、王子だった。


彼女の目が大きく開かれる。


「……殿下?」


王子はしばらく何も言わない。


ただ、格子越しに彼女を見る。


そして、静かに告げた。


「これは私の責任だ」


予想していなかった言葉。


リリアナは首を振る。


「殿下は……何もしていません」


王子はわずかに笑う。


「何も決めなかった」


その声は低い。


だがはっきりしている。


「私は、署名をしなかった。

止めもしなかった。

空白を残した」


沈黙が落ちる。


格子の影が、床に細く伸びている。


リリアナは言葉を探す。


だが王子の方が先に続けた。


「ここに留まれば、正式指定に移る」


彼女の背筋が強張る。


“危険人物”。


その言葉が現実になる。


「予備監視では済まない。

拘束は延長され、活動は制限される」


淡々とした説明。


だが次の言葉は、重さが違った。


「逃げるしかない」


リリアナは息を呑む。


「……逃げる?」


王子は頷く。


王族が、逃亡を提案する。


それは制度の否定に等しい。


「殿下、それは……」


「私が命じる」


一歩、格子に近づく。


「これは反逆ではない。

制度が先に逸脱した」


その言葉に、怒りはない。


あるのは、選択の覚悟だけだ。


「君をここに置くことは、

私があの舞台で沈黙した意味を否定することになる」


リリアナは、初めて彼の目を真っ直ぐに見る。


そこには迷いがない。


恐れはある。


だが退かない。


「制度の内側から外へ出る。

今夜だ」


鍵が回る。


鉄格子が、ゆっくりと開く。


その音は、小さい。


だが決定的だった。


王子は手を差し出す。


「選ぶのは、君だ」


リリアナは一瞬だけ目を閉じる。


そして、手を取った。


この瞬間。


制度の内側に立っていた王子は、


初めて一歩、外へ踏み出した。

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