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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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32/63

第三幕:レディアナの違和感

① 台本読み合わせ


講堂の舞台。


午後の光が高窓から差し込み、埃がきらめいている。


簡素な机と椅子。

まだ衣装も装飾もない。


ただ脚本だけがある。


「では、悪役令嬢の独白から」


部長の声が響く。


レディアナはゆっくり立ち上がる。


紙を持つ指は、わずかに冷たい。


視線を落とす。


そこに書かれている言葉。


「私はただ、認められたかっただけ……

あの方の隣に立つ資格が、欲しかっただけなのです」


一瞬、息が詰まる。


胸の奥が、ざわつく。


これは——


演技の台詞か。


それとも。


自分の心を写したものか。


レディアナは顔を上げる。


声は揺れない。


「私は悪なのでしょうか?

 誰よりも努力したのに。

 誰よりも正しくあろうとしたのに」


教室の空気が変わる。


演劇部員たちが、自然と息を止める。


演技としては完璧だった。


感情は制御され、抑制の中に熱がある。


だが内側では、別の理解が進んでいた。


これは再演ではない。


これまでの秩序をなぞる劇ではない。


改変だ。


そして——


その改変は。


現実の王子の迷いを、

舞台に固定しようとしている。


あの舞踏会での一瞬。


決断できなかった沈黙。


揺らいだ視線。


それを、観客の前で再構築する。


迷いを可視化し、

“物語として”確定させる。


もし舞台上で王子が断罪を選べば。


現実の王子も、同じ選択を迫られる。


もし迷いが肯定されれば。


それはまた、別の意味を持つ。


レディアナは最後の一文を読む。


「私は、ただ——選ばれたかった」


沈黙。


拍手はない。


誰もすぐに言葉を発せない。


その静寂が、逆に完成度を証明していた。


だがレディアナの胸の奥は、静まらない。


これは芸術ではない。


問いだ。


② リリアナの視線


読み合わせが終わる。


ざわめきが戻る。


「素晴らしいです」


「鳥肌が立ちました」


賞賛の声が上がる。


その中で、リリアナがゆっくりと近づいてくる。


淡い微笑。


柔らかな歩み。


「素敵でしたわ、レディアナ様」


声は優しい。


非の打ち所がない。


けれど。


その瞳。


穏やかでありながら、どこか必死だ。


揺れている。


何かを掴もうとするように。


レディアナは直感する。


——彼女は確かめたいのだ。


王子が、どう選ぶのかを。


断罪か。


迷いか。


沈黙の先に何を置くのか。


舞台上で。


観客の前で。


来賓席には、王子の名がある。


偶然ではない。


物語は、彼に向けられている。


そして。


レディアナ自身にも。


「……ありがとうございます」


微笑み返す。


完璧な令嬢の顔で。


だが胸の奥で、別の感情が形を持ち始めていた。


不安。


恐れ。


そして——


覚悟。


物語が改変されるなら。


自分もまた、

ただの役ではいられない。


舞台はもう、演劇ではない。


選択の場だ。

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