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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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31/63

第二幕:脚本改訂宣言

① 会議室


小会議室の窓は閉ざされ、外の喧騒は遠い。


机の中央に脚本が広げられている。


その上に、リリアナの細い指が静かに置かれた。


表情は柔らかい。

声も穏やか。


「感情の深化が必要です」


その一言で、空気が止まった。


誰もすぐには反応できない。


演劇部長が小さく瞬きをする。


「……深化、ですか?」


リリアナは頷く。


「これまでの断罪劇は、とても完成されています。ですが——」


言葉を選ぶように、少し間を置く。


「悪役令嬢にも、葛藤があってもいいと思うのです」


視線が、自然とレディアナに向く。


「王子も、即断するのではなく、迷う姿があっても」


誰かが息を呑む。


「そして断罪の前に、沈黙の時間を」


沈黙。


その語が、重く落ちる。


「ヒロインも、ただ救われる存在ではなく……選ぶ存在に」


理屈は通っている。


物語としては確かに“深く”なる。


善悪の単純化から、内面の葛藤へ。


演劇部員たちは戸惑いながらも、頷き始める。


「……たしかに、見応えは増すかもしれません」


「来賓も多いですし、印象に残る作品にはなりますね」


合理的な判断。


誰も気づかない。


それが、現実をなぞっていることに。


レディアナだけが、静かに手を握る。


“沈黙”。


その単語が、胸の奥に触れる。


② 改訂内容(具体)


数日後。


修正版の脚本が配られる。


ページをめくる。


まず目に飛び込んだのは、悪役令嬢の独白。


「私は悪なのでしょうか?

ただ、選ばれたかっただけなのに——」


長い。


これまでにない長さ。


内面の吐露。


観客に問いかける構造。


レディアナはゆっくりと息を吸う。


次に、王子の台詞。


従来は短かった。


「その罪、許すわけにはいかぬ」


それが——


「私は……どうすれば正しいのだ」


即断しない。


迷う。


葛藤する。


さらに。


ヒロインの追加台詞。


「断罪は、本当に必要ですか?」


部屋が静まり返る。


台本読み合わせの声が、わずかに震える。


そして最後。


断罪直前。


台詞が消える。


ただ——


(沈黙)


と、記されている。


長い空白。


演出指示にはこうある。


“観客が息を止めるほどの間を取ること”。


レディアナの指が止まる。


その沈黙。


舞踏会と同じ構図。


王子が迷い、

視線が交錯し、

誰も動けなかったあの瞬間。


偶然ではない。


これは、再現だ。


いや——


固定化だ。


舞台という形で、

あの迷いを記録する。


観客の前で。


レディアナは顔を上げる。


リリアナがこちらを見ている。


微笑んでいる。


その微笑は優しい。


だがどこか、切実だ。


彼女は確かめたいのだ。


王子がどう迷い、

どう選ぶのか。


物語の中で。


レディアナは理解する。


この改訂は、ただの芸術的挑戦ではない。


問いだ。


王子への。


国家への。


そして——自分への。


静かな会議室の中で、

物語は形を変えた。


次に変わるのは、

現実かもしれない。

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