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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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第四幕:王子への波及

① セヴラン報告


王城の一室。


重厚な机の上に、封蝋の切られた書類が置かれている。


窓から差し込む冬の光は淡く、空気は静まり返っていた。


「殿下」


側近セヴランが、静かに一礼する。


王子は顔を上げる。


「文化祭の準備は順調か?」


「はい。ただ——今年の断罪劇は、構造が変わりました」


その言葉に、王子の視線が鋭くなる。


「構造?」


セヴランは手元の紙を開き、淡々と読み上げる。


『私は悪なのでしょうか?

ただ、認められたかっただけなのに——』


王子の指が、わずかに机を叩くのをやめる。


セヴランは続ける。


『私は……どうすれば正しいのだ』


沈黙。


その一文で、空気が止まる。


王子の表情が変わった。


わずかな動揺。


それは一瞬だったが、隠しきれない。


「さらに、ヒロインの台詞に——」


『断罪は本当に必要ですか?』


言葉が落ちる。


部屋に静寂が満ちる。


沈黙。


葛藤。


断罪への疑問。


それは——


自分の心の写しだった。


舞踏会の夜。


迷い。


決断できなかった瞬間。


その揺らぎを、誰かが見ていたのか。


それとも。


物語が、現実を追い越したのか。


「……誰が改訂を?」


「リリアナ嬢です」


王子は目を伏せる。


偶然ではない。


これは意図だ。


② 王子の動揺


学園は、ただの教育機関ではない。


貴族子弟が集い、

派閥が生まれ、

思想が交わる場所。


政治の縮図。


文化祭は公開の場。


来賓席には貴族家当主たちが並ぶ。


そして、自分の名も。


もし観客の前で——


「断罪は正義か」という問いが投げられたら。


それは単なる演劇では終わらない。


国家への問いになる。


王権の正統性。


裁きの在り方。


秩序の根拠。


すべてが揺らぐ。


王子は初めて、焦りを覚える。


物語が、自分の決断を先回りしている。


舞台上で迷えば——


現実でも迷っていると示すことになる。


舞台上で断罪すれば——


それが「正解」として固定される。


どちらも、選択だ。


だが、まだ選んでいない。


王子は立ち上がる。


窓辺へ歩く。


遠くに見える学園の塔。


そこでは今、稽古が進んでいるのだろう。


「……止めるべきか」


小さく呟く。


舞台を中止させることは可能だ。


形式上の理由などいくらでもつけられる。


だが。


それは逃避ではないか。


問いから目を逸らすことになる。


セヴランが静かに問う。


「ご観劇なさいますか?」


王子は答えない。


沈黙。


それ自体が、答えのようだった。


止めるか。


見るか。


選択は、もう迫っている。


そして彼は理解する。


今回の舞台は、娯楽ではない。


審問だ。


自分自身への。

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