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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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第三幕:告白

④ 顔を上げる


 


沈黙が、回廊に満ちる。


湖から吹き上げる風が、リリアナの髪を揺らす。


彼女の肩は、まだ震えている。


 


王子はそれを「怯え」だと思おうとする。


そうであってほしいと、無意識に願う。


 


だが。


 


リリアナは、ゆっくりと顔を上げる。


 


瞳は潤んでいる。


涙ではない。


だが光を宿し、揺れている。


 


頬は紅潮している。


夕暮れの色ではない。


内側から滲む熱。


 


呼吸が浅い。


胸元がわずかに上下する。


 


そして。


 


微笑。


 


震えを含んだ、柔らかな笑み。


 


王子が息を止める。


 


想定していた表情ではない。


反省でも、羞恥でもない。


 


むしろ——


満たされている。


 


そのことに、気づいた瞬間。


胸の奥が冷える。


 


⑤ 核心台詞


 


リリアナの唇が、ゆっくりと開く。


 


「もっと嫌ってください」


 


声は静か。


震えている。


だが、はっきりと届く。


 


王子の思考が、追いつかない。


 


「……何を」


 


問いかけは、形にならない。


 


リリアナは続ける。


視線は逸らさない。


 


「嫌われると、ちゃんと見てもらえるんです」


 


息が浅いまま。


言葉だけが、妙に明瞭。


 


「叱ってくれると、私だけを見てくれる」


 


風が止む。


湖面が、ぴたりと静まる。


 


「優しくされるより、ずっと嬉しい」


 


王子の喉が乾く。


 


それは告白だった。


だが。


 


愛ではない。


 


求めているのは抱擁ではない。


肯定でもない。


 


関心。


 


否定という形を借りた、独占。


 


叱責という刺激で、存在を確かめる欲望。


 


リリアナは微笑む。


震えながら。


潤んだ瞳で。


 


「だから……もっと、嫌ってください」


 


それは懇願ではない。


祈りでもない。


 


甘美な期待。


 


王子は、初めて言葉を失う。


 


彼の“正しさ”が。


彼の“守る”という行為が。


 


目の前で、別の意味に変質している。


 


湖は静かだ。


だが。


 


水底で、何かが決定的に変わった。

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