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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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第二幕:回廊 ― 個別叱責

② 夜の回廊


 


夕暮れは、ゆっくりと群青へ沈んでいく。


湖面は昼の銀色を失い、深い青を湛えていた。


 


別邸の半屋外回廊。


石造の列柱が等間隔に並び、湖へと視界を開いている。


風が、水の匂いを運ぶ。


足音は長く反響し、逃げ場がない。


 


王子は、回廊の奥で立ち止まる。


そして、静かな声で呼び止める。


 


「リリアナ。」


 


彼女は足を止める。


振り返る。


控えめな動き。


影の中で、その輪郭は柔らかい。


 


王子は一歩、近づく。


胸の内に残る、あの違和感。


 


舞踏会での微笑。


あの表情。


 


(修正すべきだ)


 


公開の場での叱責は、秩序のため。


だが個人としての対話は不十分だった。


誤解を残したままではいけない。


 


今度は。


制度ではなく。


王族としてではなく。


一人の人間として、正しく導く。


 


その決意が、彼をここへ立たせている。


 


③ 個別叱責


 


「舞踏会での態度は軽率だった。誤解を招く。」


 


声は落ち着いている。


だがわずかに硬い。


 


「私は守ろうとした。だが、あの反応は望んでいない。」


 


湖面が静かに揺れる。


風が石床を撫でる。


 


王子は、距離を測る。


近すぎず、遠すぎず。


手を伸ばせば届くが、触れない位置。


 


正しい距離。


 


彼はそれを保とうとする。


 


リリアナは黙っている。


俯いている。


指先がわずかに震えている。


肩も、微かに揺れている。


 


王子は、その震えを「反省」だと解釈する。


 


(理解しているはずだ)


(今度は正しく伝わる)


 


涙を想定する。


小さな謝罪を想定する。


 


「申し訳ありません」と。


 


だが。


 


沈黙が続く。


 


風が強まる。


湖の匂いが濃くなる。


 


リリアナの肩の震えが、止まらない。


 


それは、嗚咽の前触れのようで。


だが、違う。


 


王子はわずかに眉を寄せる。


 


「リリアナ?」


 


呼びかけに、彼女はゆっくりと息を吸う。


 


震えは消えない。


 


だが——


 


その震えが、悲しみとは違うことに。


王子はまだ、気づいていない。

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