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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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【第五場面】王子の寒気

王子は、理解が遅れた。


 


目の前の光景を、脳が正しく分類できない。


 


想定していた反応。


涙。

小さな頷き。

守られたことへの感謝。


 


——だが、違う。


 


リリアナは震えている。


呼吸は浅い。


瞳は潤んでいる。


 


それでも。


 


微笑んでいる。


 


まるで。


 


待っていたかのように。


 


その笑みは受動ではない。


守られた者の安堵ではない。


 


刺激を受け取り、

それを内側で甘受する者の表情。


 


「……なぜ」


 


王子の喉から、かすれた声が落ちる。


誰にも届かないほど小さい。


だが彼自身には、はっきりと聞こえた。


 


背筋に、冷たいものが走る。


 


初めて感じる感覚。


 


制御不能。


 


これまで。


彼は常に中心だった。


制度の軸。


均衡の要。


 


人々の視線は自分を通り、

構図は自分を中心に回転する。


 


だが今。


 


空気の流れが、自分を通過していない。


 


視線は、別の点に吸い寄せられている。


 


自分は軸ではない。


 


ただ、出来事の一部に過ぎない。


 


寒気。


 


その瞬間、上階のバルコニー。


セヴランの瞳が細くなる。


 


均衡の揺らぎ。


 


明確ではない。


だが確実に。


 


秩序は保たれているように見える。


形式上は。


 


だが、中心がずれている。


 


(これは——)


 


彼は静かに状況を再評価する。


 


一方、柱の影。


ルシアンの羽ペンが止まる。


 


インクが紙に、じわりと滲む。


 


「これは……」


 


彼は言葉を失う。


 


これは単なる公開叱責ではない。


単なる三角関係でもない。


 


構図の転倒。


 


そして。


壁際で見守っていたマリエルは、はっきりと震えた。


 


「違う。これは違う。」


 


守られた少女の顔ではない。


傷ついた者の顔でもない。


 


もっと異質なもの。


 


中央から少し離れた位置。


レディアナは静かに立っている。


 


微笑は崩れない。


 


だがその瞳に、わずかな確信が宿る。


 


扇を胸元で閉じたまま、囁くように。


 


「やはり。」


 


その一言には、驚きはない。


 


予測。


確認。


そして理解。


 


王子は、まだ気づいていない。


 


だが。


 


構図はすでに反転している。


 


彼が“守った”はずの瞬間に。


 


彼は初めて。


 


制度の外側に立たされた。

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