【第四場面】微笑
沈黙が落ちる。
言葉の余韻が、まだ空気に残っている。
王子の宣言。
守る構図。
秩序の確認。
——すべてが整った、はずだった。
中央。
リリアナはうつむいたまま立っている。
淡い色のドレスの裾が、わずかに揺れる。
彼女の肩が、小さく上下する。
呼吸が浅い。
やがて。
ゆっくりと。
彼女は顔を上げる。
瞳が、潤んでいる。
涙ではない。
だが光を含み、揺れている。
頬がわずかに紅潮している。
緊張か。
それとも——
唇が、かすかに震える。
そして。
微笑む。
それは礼儀の微笑ではない。
社交界で磨かれた均整のとれた角度ではない。
震えを含んだ笑み。
息が浅いまま。
胸元がわずかに上下する。
恍惚。
その表情を見た瞬間。
観客の空気が乱れる。
「……え?」
誰かが、思わず声を漏らす。
「今、笑った?」
ざわめきが波のように広がる。
それは、安堵ではない。
守られた安心の笑顔ではない。
感謝でもない。
むしろ。
叱責という刺激を、受け入れている。
王子の言葉。
公の緊張。
視線の集中。
その圧力の中心に立ちながら——
彼女は、恍惚とした微笑を浮かべている。
王子の喉が、わずかに詰まる。
想定していた反応ではない。
怯え。
涙。
あるいは感謝。
だが今、目の前にあるのは。
震えながら、満ち足りたような微笑。
観客の背筋に、冷たいものが走る。
秩序の演出だったはずの場が。
静かに。
音もなく。
壊れる。
リリアナの唇が、さらにわずかに開く。
浅い息。
潤んだ瞳。
その笑みは、誰かに守られた少女のものではない。
——刺激を肯定する者の、微笑。
大広間の燭光が、揺れた気がした。
そして。
誰も、次の言葉を発せない。
空気が、決定的に変わった。




