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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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【第六場面】章の締め

沈黙を破るように、指揮棒が再び振り下ろされる。


弦が鳴る。


三拍子。


優雅な旋律。


 


だが——


空気は戻らない。


 


楽曲は流れているのに。


会場のざわめきは消えない。


 


ささやき。


戸惑い。


理解不能という視線。


 


観客たちは踊り始める。


形式は保たれる。


だが足取りはわずかに硬い。


 


中央。


三人の立ち位置が、ほんのわずかにずれている。


 


王子は微笑を保つ。


完璧な角度。


王族としての表情。


 


だが視線が、わずかに泳ぐ。


 


どこを見ればよいのか。


何を基準にすればよいのか。


 


一瞬だけ、軸を失った者の揺らぎ。


 


リリアナは静かに俯く。


両手を胸の前で重ねる。


呼吸は落ち着きを取り戻している。


 


だが。


 


唇には、消えない微笑。


 


それは小さい。


誰にも誇示しない。


だが確かに残っている。


 


刺激を受け入れた痕跡。


 


レディアナはそれを見つめる。


深紅のドレスは揺れない。


姿勢も崩れない。


 


だが瞳が、わずかに細められる。


 


理解する。


 


揺らされているのは、王子。


 


均衡を示したはずの彼が。


守る構図を作ったはずの彼が。


 


今、最も不安定だ。


 


そして——


 


自分も。


 


レディアナは気づく。


これは単なる牽制ではない。


 


構図が変質している。


 


王子の視線が、再び自分へ向けられる。


一瞬。


迷いを含んだ眼差し。


 


その揺らぎは、確かに届いた。


 


(面白い)


 


胸の奥で、小さく何かが動く。


 


舞踏は続く。


光は変わらない。


音楽も止まらない。


 


だが。


 


均衡は、すでに亀裂を孕んでいる。


 


制度は保たれている。


形式も崩れていない。


 


それでも。


 


中心が揺れた。


 


そしてその揺れは、三人すべてに波及している。


 


王子。


リリアナ。


レディアナ。


 


微妙にずれた三点。


 


その距離は、もはや元には戻らない。


 


第四章は、静かな旋律の中で閉じる。


 


秩序の顔をしたまま。


 


確実に、崩れ始めていることを隠しながら。

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