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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第3章:南の霊樹、神至る深淵

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第19話:月下の晩餐

南の王宮、空中庭園。


 再生を果たしたユグドラシルの若葉が、月光を浴びて白銀に輝く中、救国の英雄たちを称える晩餐会が幕を開けた。


 王宮が威信を懸けて用意した最高級の正装に身を包んだ一行。


中でも、ミラから贈られた漆黒の燕尾服を纏ったアルドの姿は、昨日の「龍神モード」の余韻も相まって、会場中の貴婦人たちの視線を釘付けにしていた。


「(……っ! ……あああ、あああああ……っ!)」


 隣を歩くミラは、既に心臓の鼓動が限界突破していた。


 アルドの逞しい腕が、自分の腕に触れている。


ただのエスコート。


だが、今のミラにとっては、世界樹の根が全身に絡みつくよりも強烈な衝撃だった。


「(正装のアルド様……。昨日より、昨日よりさらに色気が増していらっしゃいますわ! 龍神の威厳と、村人の優しさが混ざり合ったこの佇まい……ワタクシ、今すぐこの場で卒倒してもよろしいかしら……!)」


 ミラの頬は真っ赤を通り越し、もはや発光しそうな勢いである。


「ミラ様。鼻血が出ていなくて良かったですね。……でも、想い人は今、それどころではないようですよ?」


 ベラドンナが耳元で囁く。


その視線の先では、アルドが鋭い「龍の眼」で、リナに近づこうとする若い貴族たちを無言で射殺いころしていた。


「……リナ。あっちの肉料理には、少し癖のある香辛料が入っているみたいだ。こっちの、俺が毒味……じゃなくて、確認したスープを飲みなさい」


「もう、お兄さん! 私、子供じゃないんだから!」


 プンプンと怒るリナだが、アルドの過保護結界は一寸の隙もない。


 そこに、再び王太子が現れた。


 昨日のような跪く姿ではない。


一国の王位継承者としての、堂々たる正装。


そしてその瞳には、昨日アルドに放たれた死の威圧を乗り越えた「覚悟」が宿っていた。


「アルド殿。……今一度、話をさせてほしい」


 アルドの周囲の空気が、一瞬で零下まで冷え込む。


「……王太子様。……お掃除の道具、まだ片付けていないのですが」


 アルドの手が、無意識にカトラリーのナイフに伸びる。


そのナイフですら、彼が持てば神を屠る得物に見えた。


「殺したければ、殺すがいい! だが、私の想いは変わらない。……リナ殿。君は、私を『王の道具』として見たのではない。……昨日の戦い、民を必死に守ろうとしていた私に、君は『王太子としてではなく』私、個人として心配してくれた。……あの瞬間、私は救われたのだ。一人の男として!」


 王太子はアルドの威圧に膝を震わせながらも、一歩も退かずにリナを見つめた。


「リナ殿。私は、君を籠に閉じ込めるつもりはない。……君が故郷に帰りたいというなら、私は南の特使として、その村に通い詰めよう。君が美味しいスープを飲みたいなら、私はこの王宮の厨房を、アルド殿に開放することを誓う! ……君という光なしでは、この国の未来も、私の心も、再生はしないのだ!」


 王太子の、命を懸けた、なりふり構わぬ告白。


 会場にいた誰もが、その熱量に圧倒された。


「……え、王子様……。私のために、そんな……」


 リナの頬が、初めてほんのりと桜色に染まる。


 彼女は、自分が「聖女」としてではなく、一人の「女の子」として、泥臭いほど真っ直ぐに向けられた熱意に、初めて胸を打たれていた。


 その時。


「……計算、完了。……アルド殿」


 ゼクスが静かに、アルドの影から現れた。


「……王太子殿下の脈拍、発汗量、および脳内ホルモンの分泌。……嘘偽りの確率は 0.000001% 以下です。……そして、何より」


 ゼクスがリナを指差す。


「……リナ殿の体温が 0.5度 上昇。……これは、生物学的な『恋の萌芽』を意味します。……アルド殿。……これ以上拒絶することは、妹君の『心』という、最も大切なものを、傷つけることになりますが?」


「…………」


 アルドは黙った。


 黄金の瞳が揺らぐ。


 自分がリナを守りたいのは、彼女に笑っていてほしいからだ。


 もし、この男がリナを笑顔にできるというのなら。


 もし、リナがこの男の隣で笑いたいと願うのなら。


「……お兄さん」


 リナが、アルドの大きな手を握る。


「……私、この人のこと、もっと知ってみたい。……お兄さんが教えてくれた『大切なものを守る力』。この人も、それを持ってる気がするの」


 長い、長い沈黙。


 王太子は、アルドから放たれる圧倒的な重圧の中、目を逸らさずに待ち続けた。


「……王太子様」


 アルドが、深く、重いため息をついた。


「……俺は、料理にはうるさいですよ。……南の特使として俺の家に来るなら、まず薪を 300本 割ってもらいます。……それと、リナを泣かせたら……」


 アルドが王太子の肩に、ポンと手を置いた。


 その瞬間、王太子の正装が、アルドから漏れ出た魔力の衝撃でパァンと弾け飛ぶ。


「……この程度では済まされませんからね?」


「……あ、ああ……! 望むところだ……っ!」


 王太子は、ボロボロになった服で、けれど今日一番の歓喜の表情で、アルドの手を固く握り返した。


 その一部始終を、ミラは崩れ落ちんばかりの感動で見つめていた。


「(……っ! ……お認めに……お認めになりましたわ! 妹君の幸せを第一に考え、自らの独占欲を飲み込む……なんという、なんという広い器! アルド様……ああ、アルド様……っ!)」


 ミラは、感動のあまり、ついにアルドの胸元に顔を埋めるようにしてモゴモゴと泣き始めた。


「……あるどさま……あるどさまぁ……(ワタクシのことも、いつか……いつか、そんな風に……っ!)」


「あ、あれ、ミラさん!? 泣かないでください! ……やっぱり、リナをやるのは早すぎましたか!? すみません、今すぐ前言撤回して、王太子様とおはなし、してきます!!」


「ち、違いますわ! 違いますわよ、アルド様!!」


 月光の下、大団円の晩餐会。


 王太子とリナの、身分を超えた「婚約」という名の未来が、黄金の雨の後の虹のように、鮮やかに描き出された。



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